第15話 王と妃


 スカイドラゴン城、1階にある調理室は、すぐさま多数の料理人で賑やかになった。大きな鍋にスープが作られ湯気が立った。その後、3階の大広間にて避難している住民、城を守っている兵士達にカンパン、チーズ、スープが配られた。温かいスープは住民達の心を癒し、笑顔をプレゼントした。


 

 2階の王の間では、既に王、妃、カルタ、ジエラック、ホスマが集結し、今後の方針や作戦が話し合われようとしていた。まず議題に上がったのがティルの竜人化であった。ホスマがティルの身に起きたことを報告した。





 ここで、一端話を中断し、ティルの父と母である王と妃について紹介する。王はティルと同じく青い髪、緑色の瞳を持っていた。心優しい気質の持ち主であった。その反面、自らを王だと厳しく律し、自分の利益よりも国民の生活を優先するような人物であった。その為、経済面においては王とは名ばかりで、金持ち商人からは


『貧乏王族』


と陰口を叩かれていた。今回の件においても、王にとって何よりも大切なティルであったが、それを二の次にし、住民達の避難に力と時間を注いだ。ティルが無事に帰って来た時は心底、安堵したが、その様子も他者には見せまいとした。そのような人物であった為、特に長年仕えているジエラックやカルタは心底、王を守り抜くと誓っていた。


 

 妃であるが、妃はスカイドラゴンシティーの名家の一つ、セイ家の出身であった。セイ家は黒い髪、黒い瞳、白い肌を有している者が多かった。妃も例外ではなかった。そして、セイ家を有名な名家にしたのは、代々、天才・奇人・変人が世代毎に現れたことであった。この点においても妃は例外ではなく、一風変わった人物であった。普段は物静かであり、笑顔を絶やすことはなく人当たりは良かった。


しかし、妃の趣味が、妃が変人だと住民達の噂の元になった。妃は若い頃から、変わり者として有名であった。その趣味はスカイドラゴンシティー特有の生物の解剖であった。妃は10代において既に、ドラゴンシティーに生息する生き物の解剖書を出していた。その本の内容が驚く程、詳細であり、下の大地でも需要があった。そして、圧巻なのは、その集中力である。一日中、食事を忘れる程、解剖に熱中し血や内臓を触っていた。


「そんなことばかりしていていては女性としての幸せが逃げていく」


意見をされ、他者に止められても、意に反さなかった。


何故だろうか?そんな妃に若かりし日の王は惹かれた。王から結婚を申し込んだのだ。その際、妃は結婚する際の条件を2つ出した。


1つは城に、妃専用の解剖室を作るということであった。妃は解剖を続ける内に、スカイドラゴンシティー特有の生物には共通点があることに気づいた。それは、脳、心臓、肺などの大切な臓器を構成している細胞に限って、どの生物も、あまりにも似ていた。そして、その細胞は自然界で生成されるのは難しく、誰かが手を加えたかのように感じた。まさかと思いつつ、妃は一つの仮説を立てた。それはスカイドラゴンシティー特有の生物は人工的に作られた物ではないかということであった。



そう考えることで、妃の興味は人間(特に青い髪、緑色の眼をした王族)に対しても向けられるようになった。結婚をする条件の2つ目は王の死後、王の身体を解剖させて貰うことであった。王は、この条件を受け入れた。妃の解剖は研究へと移行していた。その研究データーは全て、王に知らされた。そして、王と妃はスカイドラゴンシティーの始まりの謎について近づき始めていたのであった。



 話を元に戻そう。ホスマがティルの身体の報告をした後、丁度、ティルがシャワーを浴び、服に着替え、王の間に入って来た。もちろん背中にはキチチがいる。シャワーを浴びている際に、自分のみぞおち辺りに小さいが赤い鱗ができていること、両肘関節周辺にまばらに青い鱗が増えていることに気づいた。ティルの時間が止まり、シャワー室から出るのに時間がかかってしまったのである。


半日程度であったが、青い髪を後ろで結んでいるティルを見て、王は自分の娘ながら大人びて見えた。王は訊ねた。


「ホスマから今まで起こったことは聞いた。

・・・シャワーと着替えに時間がかかったようだが大丈夫か?」


ティルは笑顔を見せ正直に答えた。


「いろいろショックなことがありますが・・。この身体の変化で生きのびることができました」


ジエラックは顎鬚を触りながら質問した。


「身体の変化は続いていますかな?」


「はい。続いていると思っています。しかし、溢れるてくる力のコントロールが少しずつですが慣れてきました。」


ティルは目を伏せ、恭しく答えた。それを聞いたジエラックは頷き、おもむろに袖から銀色の腕輪を出した。そして、30年前に起こった戦争とその時に出現した竜について語り出した。


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