第14話 姫の帰還
遡ること30年前、光と闇の大戦争があった。魔王セレスとの直接対決においても先頭に立ち、最期に止めを刺した少年。誰しも手が届かなかった領域まで、自分を高めることができた歴代最強の勇者。その名は光の勇者バルト。当時、16才。彼はキラキラ輝いた黒いダイヤモンドのような瞳を持ち、光輝いたオーラに身を包まれていた。人々からは光輝く使者とも呼ばれていた。
『魔王セレス:30年前の光と闇の戦争での闇の勢力を束ねる大魔王。何千年と生きた大蛇の化身。巨大な魔力を持ち、世界を支配しようと企てたが、バルト率いる光の戦士達との壮絶な戦いの末、息絶える。』
30年の月日を経て現在、彼は死人のような青白い肌となり、黒い髪や髭は伸び、まるで幽鬼のような風貌になった。そして、漆黒と化した勇者の鎧で身を包み、身体のいたる所から黒い霧が噴出していた。彼の魂、身体、全て闇の力に飲み込まれようとしていた。彼の現在の肩書は死霊軍団隊長・闇の勇者バルトに変わっていた。
彼は今、黒いドラゴンに跨り、スカイドラゴン城上空にて、無機質な漆黒の瞳で天空の城を見降ろしていた。しかし、僅かだが彼の胸の内に疼きがあった。微かに光の灯が残っていた。その灯が完全に無くなった後、速やかにスカイドラゴン城を攻撃するようにと彼の支配者から指示されていた。
~スカイドラゴン城1階~
スカイドラゴン城1階。そこでは、死霊軍団とカルタ部隊の戦闘が続いていた。カルタ部隊が常に優勢に進め、死霊の数も残り僅かとなっていた。カルタと数人の兵士が死霊3体を調理室まで追い詰めた。その時、カルタは、死霊が逃げ込んだ調理室から人の気配を感じた。
『調理室に誰かいる!?? まずい』
咄嗟に思った。このスカイドラゴン城において、死霊3体も同時に相手にできる戦士は限られている。いや、いないかもしれない。カルタは急いで暗い調理室のドアを覗くと、隅に誰か一人佇んでいるのである。カルタは珍しく叫んだ。
「そっちに死霊が行ったぞ!! 気をつけろ!!」
その人影は死霊3体とカルタの方を向いた。クスクスと笑い声が聞こえた。なんと、その人影は死霊の方に迷いなく、ゆっくりと歩を進めたのである。そして、右手にて剣の柄を把持したと思えば、襲ってくる死霊3体とすれ違いざまに、光輝く剣を振り抜いた。一瞬にして死霊3体の首が切断され、3つの頭部は空中へ飛び、黒い霧と化した。
カルタが引き連れてきた兵士達から驚きの歓声が起こった。
死霊3体と人影が普通にすれ違っただけのようにも見えた。しかし、唯一、カルタの目は人影の高速な体捌きを見逃さなかった。カルタは驚愕した。
人影が近づいてくる。身体が小さく、笑っているようだった。笑いながら、死霊3体の首を斬ったのである。カルタの背筋に冷たいものが走った。
「先生! 帰ってきましたよ!!」
人影は言った。カルタは、その時、右手に折れた剣を持ち、青い髪の毛をボサボサにし、埃まみれのボロボロの服を着た少女を見た。その少女は、少年のような天真爛漫な笑顔を見せた。ティルだった。ティルが、この″貴方のことが好きですよ″という感情を剥き出しにした笑顔を見せるのは父と母、そして先生(カルタ)にだけであった。カルタは、この笑顔が愛しくて仕方がなかった。どうしても、この無邪気さを幼くして亡くなった娘と重ねてしまうのだった。
さて、読者はここでティルの強さに疑問を感じなかったであろうか!?ティルは物語の当初、死霊1体をやっとのことで倒せる戦闘能力しかなかった。あれから実は半日も経っていない。しかし、今、3体同時に一瞬にて斬り伏せることができた。しかも、並みの体術ではない。カルタでさえも驚かせるだけの動きを手に入れていた。これには理由がある。
①ティルは既に剣術の基礎は叩き込まれていた。実践を経験し飛躍的にレベルアップした。
②死線を潜り、真剣勝負の呼吸を掴みやすくなった。
そして、筆者の考える最も大幅な戦闘能力アップの理由は③である。
③ティルの身体が竜に近づいている。
ティルの竜眼は死霊の動きを先読みでき、パワー、速度においても人のそれではなくなっていたのである。死霊程度のモンスターであれば造作もなく倒せるだけの戦闘能力を手に入れていた。
カルタ部隊はあっけに取られた。ティルは静かに微笑み、後ろを指差した。そうするとホスマ部隊が次々と出てくるのである。再び、兵士達から大きな歓声が起こった。
その後、時間を置いて調理室に死霊部隊を討伐したカルタ部隊の戦士達が集まってきた。カルタ部隊が集結した時、さらなる大きな歓声がティル、ホスマ部隊、ペルク親子を包み込んだ。
カルタが低い声で言った。
「我らが姫の御帰還である」
カルタは片膝を突いた。それに続き、スカイドラゴンシティー城・最強のカルタ部隊の兵士達は、ティルの前に次々と片膝を突き始めた。
これらの部下達の献身的な行為はカルタの教育によるものであった。そして、この環境がティルのカリスマ性を育んだ一つの要因だったのかもしれない。
その後、ティルの背中に引っ付いている糸織り蜘蛛(キチチ)に気付いたカルタは悲鳴を上げた。
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