第6話 奇襲!!


 

 城から東側の外れに位置していた。広大な草原が広がり、よく風が吹く。冷たい風だった。その場所で、ティル部隊とガーゴイルは相対していた。



 ティルは呪文を唱えると、剣が白光を帯び眩しく輝き出す。柄を両手に持ちかえた瞬間、輝きの残像が残った。


部下や母子から小さな歓声が起こった。ペルクが言う。


「お姉ちゃんの剣、ピカピカ光る星みたい」


しかし、ティル本人は全身から汗が噴き出していた。前にいるモンスター(ガーゴイル)が強い。今まで闘ってきた死霊とは違った。向き合うだけで強力な黒いエネルギーを感じずにはいられなかった。気をしっかり保たないと恐怖に飲み込まれそうだった。



 ガーゴイルは再び金切り声を上げる。


「ギャハハハハ~!! お嬢さん、それ何? 手品? もしかして手品師なの~? あ~!! 舐めてんじゃね~よ!! 俺様を誰だと思っている!! ガーゴイル団・リット部隊の切り込み隊の一人、アスマだ!!! そんな玩具で斬られるかよ~!!」


膨大な黒いエネルギーが迸った。



ホスマが眼鏡の位置を変える。動揺しているのを隠した。


「しかし、彼、よく喋りますね~」


ティルも笑い、落ち着きを取り戻そうとした。


「ふっふふ。そうね。彼、自己顕示欲が強いのかしら」


ティルは、この状況を打破する為、目まぐるしく思考を巡らせている。気づかれないように、出し抜く・・・。



 ティルはアスマに話しかけた。


「貴方の存在、全く気づかなかった。本当に勉強になった。以後、後ろも気をつけるわ。 ところで、貴方は今、一人で行動していたのかしら?」


アスマは答える。


「俺様は尾行の天才だ~!! 気にすることはね!! しかも以後なんて、ねぇ~よ! フハハハハ~、いいぜ!! いいこと教えてやるよ!! 俺様程、勤勉な奴はいるわけね~だろう!? それに、お前等、ぶち殺すのに一人で十分だよ!!」


ティルは微笑む。


「そう。それを聞いて安心したわ。」


ティルの思考はアスマを倒す、一点に絞られた。


『アスマを倒しさえすれば、井戸の秘密は守ることができる!! アスマは強い。だからこそ、油断している。勝機があるとしたら、最初の一合目。それに賭ける!!』


ティルは小声でホスマと部下達に、簡単な指示を出す。


「ホスマ。いい? 今から、私はアスマに突っ込む。後ろから光の矢で援護。私とアスマが切り結んだ瞬間、眼を閉じて。その後が勝負よ!! 他は待機して力を温存!!」


「目を閉じる!? 分かりました。気を付けてください。」


ホスマは、ティル自身が突っ込むことに一瞬、良い気はしなかったが、了承する。



 アスマは小首を傾げ、両手を前に出す。


「はいはい。後悔の無いように、ゆっくり作戦立ててね~! 死霊と闘ったみたいに、3人がかりでも5人がかりでもいい~よ~!! フハッハハハ~」



 ティルはアスマが笑い終わらない内に、真っすぐに突っ込んだ。その後ろから、ホスマは5本の光の矢を放つ。光の矢は、走っているティルを上、左右から追い抜かし、アスマに向かって飛んでいった。アスマは前に行きながら、身体を回旋させ全ての光の矢を紙一重で避ける。すぐ後から来たティルを迎えた。ティルは間合いを詰めた瞬間、上方に飛び、両腕で全身全霊の力を込め縦に斬撃を加える。しかし、アスマは右手の爪のみで受けるも、びくともしなかった。


剣と爪の斬撃音が激しく響いた。


アスマは舌を出し、ニヤついた顔で言う。


「温いな~」


ティルは静かに微笑む。


「心配しないで。続きがあるから」


と言った直後、一気に気合いを入れる。その瞬間、ティルの剣が激しく発光し、強烈に輝き出した。輝きで全ての風景が消える。遠くにいる母子達も目が眩む程である。ティルは剣に宿した全ての光をここで使った。


「うわ~。目が~目が~。畜生~!!」


間近にいた。アスマは堪らない。眩しさを超えて、目が潰れそうな程の激痛が襲う。アスマは手の平を目に当て、身体を丸めた。そうしないでおれなかった。その隙に、ティルはすかさず後方に行き、両腕で斜めから斬る。金属を斬るような音がした。


『硬い』


斬撃を加えた印象である。思った以上に深く斬れない。黒い血が飛んだ。


「ぐわ~。いて~。いて~よ~!!」


アスマは思わず、上空に逃げる。上空に逃げた瞬間、ホスマは狙いをつけ、5本の矢を同時に放った。アスマに向かい襲いかかる光の矢。見事にアスマの胴体に5本とも突き刺さる。アスマの口から黒い血が出た。


「ギャ~!」


身の毛もよだつ程の叫び声をあげる。尋常じゃない苦しみ方をするも、撃ち落とすことはできず、無茶苦茶に飛び回るアスマ。黒いエネルギーが集まり、突き刺さった5本の光の矢が闇に飲み込まれた。その後、ホスマは何度か光の矢を放つも当てることができなかった。



 時間だけが虚しく経過する。ティルは翼を斬れば良かったと後悔するも、すぐさま思考を切り替えた。


視力が回復したペルクが叫ぶ。


「お姉ちゃんの剣のピカピカが無くなっている!」


部下達がざわついた。



 ティルもホスマも今の一瞬に賭けた。特にティルは、魔法力もMP(マジックポイント)も出し尽くした。呼吸が乱れている。元々、力の差は歴然。だからこそ奇襲にかけた。しかも成功と言える程、斬撃も光の矢も打ち込めた。が、しかし思った以上にダメージを与えられていない。そして、アスマの視力回復も時間の問題だった。


『まずい。打つ手が思いつかない……』


基本的な戦闘力が違う。上空で飛び回り、喚き散らすアスマを見て、ティルの心に絶望が広がり始めた。


しかし、ホスマと5人の部下達は諦めていなかった。



<登場人物プロフィール>


レベル15

名前:ホスマ・ハーゲン

種族:人間

性別:男性

年齢:26才

身長:175センチ

体重:68キロ

職業:ホスマ隊・隊長

才ある職業:魔法使い

HP:55

MP:50

力:20

スピード:30

防御力:20

魔力:55

使える魔法:光属性の中級魔法・初級回復系魔法と封印魔法など


スキル:光属性の魔法を武器に具現化する技術


装備品:魔法使いの衣・ジエラックの作った魔法の杖


アイテム:ポーション・毒消し草


備考:自分では気づいていないがティルに心酔している。ティルの言うことや言動を全て良い風に捉える癖がある。



※上記の記述は経験や環境によって後天的に変化します。

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