第4話 真只中へ!!

 

 天空の島には、いくつかの島が密集している。その中でも一番、大きい島にドラゴンスカイ城があった。



 城に近づけば近づく程、煙の数や破損した家屋が増え、死霊の数も増える。住民の悲鳴が聞こえてきそうな風景が続いていた。



 空には、無情な程、冷たい青空が広がっている。


 

 城から、程遠い場所にティル達はいた。ホスマと部下5名はティルを中心に半円となる。皆、ティルの指示を待った。



 この非常事態に姫といえども、13才の少女の指示を、大人が待つ。不思議な光景だった。が、そうさせるだけの何かを、ティルは持っていた。


ティルは両手を腰に置き、澄ました顔をしている。ホスマは思った。泥まみれの服を着ていても、姫様は常に気丈なのだろうと。



 ホスマと目が合ったティルは手招きし、5つの穴が開いた自分の靴を指さしホスマに聞く。


「これ、どう思う?」


思ってもみない質問だった。


「?? この穴は、どうしたのですか? ……走ると靴の中に土や石が入り不便だと思いますが」


ホスマは真剣に答える。ティルは的外れなホスマの意見に失笑しそうになったのを堪えた。


「私、竜になりかけて、足の爪が急に伸びたの」


ティルは珍しく悪戯っぽい表情をする。部下達に笑いが起こった。ホスマは笑わない。冗談も真剣に受け取るような人柄だ。


「えっ? 竜?? 何を言っているのですか?」


ホスマは真面目な顔で聞き返す。


「冗談、冗談。気にしないで。戦闘中、破いてしまったみたい」


ホスマの反応を見て、自分の身に何が起こったか、全く気づかず、全く知らないことが分かった。これ以上、聞いても無駄だと感じ、話を変えた。


 

 ティルは、その人から有力な情報や意見がでないと判断した場合、早々に話を切り上げる癖がある。待っても相手に負担を強いるかもしれないというのが理由だった。


「それよりも飛行船場は無事かしら?」


ホスマは、現状に対しての最初の質問に、この問いをするティルに、リーダーたるセンスを感じた。



 天空の島には、空を飛ぶ為の2つの乗り物がある。


1つは、天空の島、特有の乗り物があり、サークルカイトという。ボールに羽が付いた形状をしていた。ボールの中に人、一人が入ることができ、操作棒が1つ付いている。簡単な作りの為、操作やバランスを取ることが難しい。天空の島と島の間を行きする移動手段として使われている。


もう1つが、飛行船である。下の大地に行くことができる唯一の乗り物である。


ティルは平たく言えば、ホスマに


『退路は確保できているのか?』


を聞いたのである。答えは否であった。


「申し訳ございません。不意をつかれた形になり、飛行船場は既に敵の手にあります。現在、城の近くに住んでいた住民達を城内に避難させながら、師匠を始め、何人かの魔法使いが城内周辺に結界を張り、籠城作戦となっています」


ホスマは冷静に言う。



天空の島だけでなく、閉鎖された場所において退路を断たれるというのは、致命的であり全滅の危険が出てくる。まず退路の確保が最重要になる。ティルは直感で、それを知っていた。



 最悪な事実を知っても、ティルの表情は変わらない。


「亀さんになっている訳ね」


ティルは、上空の魔法陣を指刺す。まだ、黒い影は降っていた。


「死霊の数は増えるばかり。時間が経過すればする程、籠城は悪手になる。しかし、避難する住民がいれば・・・仕方がないか」


ティルは少し考えながら言う。ホスマが驚いたように返した。


「黒い影は死霊ですが……。よく、この位置から分かりましたね!?」


ティルは不思議そうに答える。


「うん!? ドクロの顔が、はっきり、くっきり……」


と言いかけて気づく。おかしい、魔法図書館から出た時は、黒い影にしか見えなかった。今は、まるで近くにいるように見える。


『なぜ見える?』


ティルは自分の掌を見る。いつも通りに見えた。遠くを見る。まるで見たい物を望遠鏡でピントを合わせたかのように見えた。しかも、自動でピントが変わるようだ。


ティルは、他に変化がないか調べる。その場でジャンプし、走ってみた。


突然の動きに、部下達が不思議そうにする。


「姫さん、澄ました顔で何しているのだ?」


「パニックになっているのか?」


と小言が聞こえたが、ティルは意に介さない。


身体能力は、差ほど変わっていない。しかし、何か違う。視力意外に漠然とした違和感がある。この変化は保たれるのか?それとも進行していくのか?今は検証する術がない。もし進行していくとしたら・・・・。


今は考えるのはよそう。城に帰り、自分にかかっている魔法を、ジエラックに聞くしかない。



 ティルは気を取り直し、半円の中心に戻る。部下達は、ティルの様子が面白かった。


「城から遠い場所に住んでいる住民達の避難場所は、どこにしたの?」


ティルは聞く。


「スカイマウンテン周辺です。今、死霊達は城周辺に集まっています。もしかしたら、城に避難するよりも安全かもしれません。ソルク隊長率いる部隊が住民達を誘導しに行っています」



※スカイマウンテン:スカイドラゴンシティーに少し離れた場所にある唯一の山。標高4000メートル程ある。古代種である超大型スカイドラゴンを封印する為に作られた建造物だという説もある。周辺には草原が広がり、水が豊富にある。現種スカイドラゴンなどの特有の生物も多く生息している。



※ソルク:若い剣士。剣術の腕だけならカルタを超えると言われている。有力な次期、カルタの後継者候補。



ホスマは答える。ティルは頷き指示を出した。


「分かったわ。まず、城に戻りましょう」


ホスマは慌てて意見を出す。


「お言葉ではありますが、城周辺には死霊が集まり危険な状態です。言いにくいですが、このメンバーでは城に着く前に全滅でしょう。ここは安全なスカイマウンテンに避難した方が得策ではないでしょうか?」


ティルは静かに言う。


「まず、現場に行かないと始まらないわ。スカイマウンテンに行ったとしても結局は逃げ道なんてない。その場しのぎで逃げても無駄よ!」


ホスマは一瞬、言葉がでない。ホスマの様子を見たティルは微笑みながら人差し指を立てた。


「しかも、安全に城に行ける方法がある!!いい!?私達は敵が一番、多く集まっている真只中に行くわよ!!!」


まさかの発言にホスマは驚く。部下達も色めき立った。


『この姫さんの言うことだから、まさかがあり得る』



 その瞬間、草むらから、何かが出てきた。


「お姉ちゃん!! 助けに来たよ!!!」


先ほど、助けた男の子が棒を持って出てきたのである。その後に、母親もフライパンを持って出てきた。それを見たホスマの部下達から笑い声が起きた。


「助けに戻ってくるなんて。貴方、勇敢ね!!貴方の名前は?」


ティルは笑顔で男の子を抱き上げる。男の子が嬉しそうに言った。


「ペルクだよ!!」


この様子を見てホスマは思った。


『助けに戻ることが勇敢!?逃げ道がなければ前に出るしかないか……。しかし、何故だろう。姫様がいれば、活路が見出せるような気がする!!』

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