第3話 竜人化の始まり

 ティルは、光輝く剣を振りかざした。剣を動かす度に輝きで、残像ができる。


凄まじい緊張感が走った。


『二体の死霊が近づいて来るまでに、目の前にいる死霊の首を跳ね落とす』


ティルは考え、すぐさま行動に移した。死霊は剣を上段に構えている。ティルは自ら踏み込み、剣を降り下ろすのを誘った。死霊が剣を降り下ろした瞬間、右側に素早くステップをおこなう。と同時に前方へ飛び跳ねた。


光が弧を描く。


ティルは死霊の後方へ、片膝を突き着地した。その直後、死霊の首は地面に落ち、黒い霧となった。輝く残像は、まだ、虚空に残っていた。



 ティルは手応えに驚く。先刻よりも、両腕に負担がかからずサクッという感覚で斬れたからだ。


『これなら、いける!!』


しかし、ほっとする間もない。既に二体の死霊は手が届く所まで来ている。ティルは自分の握力が弱まり、呼吸が荒くなっていることに気がついた。


立ち上がろうとした瞬間、思っている以上の疲労感に襲われ、足に力が入りづらかった。



 呼吸を整えようとした時には、二体同時に襲いかかってきた。再び右側にステップをするも、一瞬遅れる。不覚にも死霊の斬撃を剣で受けてしまい、簡単に後方へ崩された。


もう一体の死霊が、バランスを崩したティルの左側に回ってくる。ティルが態勢を整えようとした瞬間、口から黒い霧を吐いた。


再び、光り輝く剣を盾にするしかなかった。輝きが致命的なダメージから救ってくれた。しかし、今度は大きく後方に吹き飛ばされ、石畳の地面に叩きつけられ転がった。


「うっ」


息が詰まり、身体の内部に衝撃が走る。


死霊が近づいてきた。内臓へのダメージは消えず、起き上がるこができない。


ティルは初めて死を予感した。自分が想像していた以上の恐怖が襲った。



 その瞬間


『ドクン、ドクン』


!??


ティルの中で、自分とは違う、もう一つの鼓動がなる。ティルの瞳が爬虫類独特の縦眼となった。そして、肌が出ている手の甲、手首には青い鱗のような物が浮き出てくるのが見える。両手指、足指の爪が急激に伸びた。力が湧いてくるという表現では生ぬるい。噴き出してくるのだ。ティルに抑える術はない。ティルの内にいる者が言った。


『天空の島に災いもたらす者、皆殺しだ』


ティルの身体を巨大な精神体エネルギーが包む。背にドラゴンの様な羽が形作られようとした時、二体の死霊が後ずさりし始めた。



 その直後、光の矢が死霊に何本も飛び、貫き、黒い霧となった。対象物が無くなった途端、ティルを包んでいたエネルギーも霧散する。ティルは、ただ唖然としていた。


光の矢が飛んできた方向から、叫び声がする。


「姫様、大丈夫ですか~?」


魔法使いホスマであった。


若い魔法使いで、眼鏡をかけており、顔に真面目と書いているような人物であった。馬に乗り何人かの部下を引き連れ駆け寄ってくる。知った顔を見たティルは、心底ほっとした。


ホスマは、今あったティルの変化には気づいていない様子であった。



 息が、まだ上がっている。実戦が、こんなにも疲れるとは思ってもいなかった。死線を越えるとは、よく言うが、まさにそれだった。死という物を肌で感じることは初めてであった。


 

 そして、自分の身体が何者かに乗っ取られる感覚に陥ったことも初めてであった。


 

 ふと靴を見ると、両方の靴に5つの穴が出来ている。自分は竜になりかけていた!?その実感が湧いてきた。


『お姫様は、得体の知れない魔法をかけられたことがある』


そういえば、誰かが言っていた。涙を流せない代償がこれか!?自分の身体の変化を想像すると可笑しかった。ティルの感受性は変わっていた。



ティルは胸を押さえながら、やっと身体を起こせた。


「私の場所が、よく分かりましたね」


ティルは微笑む。


「師匠(ジエラック)から姫様を護衛するように指令がありました。師匠が、姫様は城と魔法図書館を結んだ直線上にいると教えてくれたのです。姫様のことだから屋根の上を、走ってくるぞと言っていました(テレパシーで)」


※ジエラック:ドラゴンシティー最高の魔法使い。老年であり、カルタとジエラックが2枚看板としてスカイドラゴンシティー城を守っている。下の大地でも有名な魔法使い。



ホスマは笑いながら答える。ホスマにとって屋根の上を走るなど考えられない発想だったからだ。


「壁を壊しながら、真っ直ぐ走るよりかは常識的でしょ!」


ティルも笑う。すぐにホスマから回復魔法をかけて貰った。そして、ホスマから現状を聞いた。

 

 今、スカイドラゴンシティーは、近年では経験したことが無い程の被害が出ていること。また、死霊以外に強力な闇の力を持った者が、3体もスカイドラゴン城に接近していること・・・。



 そして、この時はまだ、ティル自身、竜になりかけた影響が、自分の身体に出始めていることに気づいていなかった。

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