第21話勇者の剣

空気を切り裂き、自身の体を高速で独楽のように回転させ、伊織はリヴイアサンの鎧をまとった魔術師に必殺の斬撃をくりだす。

鉄工所で見る火花の何倍もの花火がちり、見るものの視力を一瞬ではあるが奪っていく。

だが、すさまじいまでの攻撃であったが終末の獣の鱗には傷ひとつつけることはできなかった。

反動で後方に飛んだ彼女は抜群の身体能力を活かし、平然と着地した。

「さすがに硬いな」

盛大に舌打ちし、伊織は言った。

「ほんとに……」

肩を並べてアルフリードは言う。

軽く円月刀を回転させると正面に構える。


白い蒸気のようなものを発しながら、武瑠はゆっくりと歩みをすすめる。

無敵に近い防御力をほこるようだが、その動きはかなり鈍重なようだ。

どうやら、それがこの鎧の欠点のようだ。

「だけど、攻撃がきかないんじゃあ、どうしようもないよね」

すでに中華の甲冑を全身に身を包んだ三成実知が言った。

完全なる花木蘭の姿である。


白い煙のような息を吐きながら、武瑠は一歩、また一歩とその足を前に出す。

緩慢なる動きであったが確実に着実に幸村雪を捕らえようとしていた。

「私の邪魔をするものは皆、死ぬがよい。どれほどの剣や刃をもってしても私を二度と傷つけることはできないのだ。我が愛する姉が残したこの鎧をもって貴様らに終末を味あわせてやろう」

兜の下から蒸気とともに武瑠は言葉を発した。


大きく深呼吸し、幸村雪は目前にせまる自身をその欲望のはけ口にしようと狙う敵に、正面から語りかける。

瞳が涙ににじむ。

憎き敵とはいえ、戦いに身をとうじ、最悪命を奪わなければいけないかもしれないと思うと、心がねじれるほど傷んだ。

「なぜ、あなた方魔術師は魔力を持たない人たちのことを軽んじ、侮蔑するのですか」


彼女は問うた。

問わずにはいれなかった。

なぜ、何故なのだ。

魔力があれば、生活は豊かになり便利に過ごすことができるだろう。

うらやましいと正直思ったことがある。

だが、だからといって何故下にみられなければいけないのか。


白い蒸気のような息を吐きながら、問われた魔術師はこたえた。

「それは魔力の優劣が人間の価値をきめるからだ。血統こそが人間の序列であり、うまれもった順序にしたがわなければならいのだ。多くの人間が魔力をもつにいたった現代においてその上位にあるものは下位の人間を支配し、導かなくてはいけないのだ。これは天命といえよう。だがら幸村雪、君の幸福は我が手におちることなのだ。そうすれば君はこの世の全ての苦痛から解放され、快楽と幸福だけの人生を送ることができるだろう」


湿気に濡れる前髪をかきあげながら、雪は決意した。

目の前の人物とは永遠に意見があわないだろう。

生きていく上での価値観があまりにも違いすぎる。

彼を倒さなくてはいけない。

でないと自分のことを自分で決めるという、当たり前の人生を送れなくなる。

この危地をなんとしても脱しなくてはいけない。


手にもつ魔書「王の書」を握りしめた。

その本は彼女の意思に呼応し、じわりじわりと熱をおびはじめ緩く光だす。

「実知姉さん、アルフリード、伊織さん、少しの間、時間をかせいてください」

と言った。


「わかったわ」

そう言うと実知は長剣を真正面に構えた。

凛々しい戦士の顔をしている。

大軍の先頭にたつ武者の顔立ちである。


「承知しました、我が君」

くるりと軽やかに円月刀を回転させ、雪の前にたった。

主君を守る剣士の気概がそこに見える。

そして、不敵な笑みを浮かべるのだった。


「了解した。マドモアゼル」

サーベルを斜め下にかまえ、臨戦態勢をとった。

巨大な敵を前にしても怯まないその姿勢は、伊織に宿るダルタニアンの余裕であった。


大きく腕をあげ、武瑠はその鱗だらけの腕を交差させる。

「どきたまえ、有象無象どもよ」

そう言うと腕を一気に降り脅した。


烈風が空間を駆け抜ける。

闇夜を切り裂き、空の星たちを砕く勢いであった。

腕から無数の鱗が発射された。

機関銃から発射される弾丸よりもはるかに大量の数であった。

それは無限にあるのでわないかと見るものに絶望を抱かせるのに十分であった。

だが、そんなことで諦める彼女らではなかった。

「全て迎撃する」

と伊織は言い、

「そうね」

と実知は答え、

「無論だ」

とアルフリードは肯定した。


文字通り、雨霰以上の勢いで迫りくる必殺の鱗の弾丸を彼女ら剣士は、剣技と勇気をもって打ち落としていく。

わずかに逃れた鱗が伊織の頬を切り裂いたが休むことなくその鱗たちを地面に叩きおとした。

落ちりていく鱗が小さな山となるが、打ち出される白い鱗がやむことはない。

その鱗は発射される後から次から次へと生えていき、再生を無限に繰り返しているのだ。

悪辣な魔術師のなんたる魔力であろうか。


いつ終わるとも知れぬと思われた攻め苦であったが、それをどうにかしていなしていくうちに実知は背中にいような暑さをかんじた。

どうにかして振り向くと、そこには宙に浮かぶ熱と炎をはらんだ剣が浮かんでいた。

幸村雪は一歩、歩みを進めその剣を握る。

「太陽のかけらをもって鍛えし、勇者ロスタムの剣よ。我に仇なすものを滅ぼしたまえ‼️‼️」

肺の中の空気が空っぽになるまで雪は叫び、剣の名を言いはなった。


その剣は魔書「王の書」の物語の中で蛇王ザッハークを討ち滅ぼした太陽からつくられたといわれる伝説の剣であった。

勇者ロスタムだけが神からその所持を許された剣であった。

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