第35骨「思いの強さ!最大火力だ!死霊使い!」
俺が再び目を開けた時、血みどろの莉愛が立っていた。あの大きな牙をか細い腕で受け止めている。ほんとはずっと痛いはずなのに、ほんとは泣き叫びたいくらい痛いはずなのに、いつものようにクールに飄々と佇んでいる。
「咲愛、マスターを頼んだ……」
眷属が主のために死ぬことを厭わない。
なぜなら……
主人を守るのが配下の役目だから。
主人に忠誠を誓っているから。
主人のことが、好きだから。
――マスター、生きて。
莉愛は俺の目の前で無惨にも真っ二つに引き裂かれる。辺りにはさっきまで莉愛の血液だった液体がブチ撒かれる。骨だった少女に、血が通っていた。たしかに俺は少女に命を与えていた。それがこのまだ温かい分断された四肢の一部から感じる。
尋常じゃない圧倒的強さを前に、俺は冗談の一つも言えず、ただ逃げたい、逃げるべきと言う観念だけが付きまとう。
でも逃げてはいけない。死から目を背けちゃいけない。だって俺は……
――死霊使いだから。
咲愛には嘘ついた……俺一緒に死ぬって言ったけど、眷属がやられたのにやり返さないなんてマスターの名折れだろ!
これは最初にキマイラ(仮)に出会った気まぐれ、「どうせ死ぬならやりきって死んだ方がいっか」と言う考えからではない。大切な仲間が、むざむざ
今までの自分も、今の自分も超える!
咲愛! 頼んだ!
――
咲愛は何度も何度も黒瀬に向かって攻撃を放つ。黒い蒸気を上げながら動かない黒瀬。本来なら
――
ラストダンジョンに突入する前に俺の最大攻撃を見せるなんて俺ってなんてサービス精神旺盛なんだろう。
だって、これを使わないと勝てなかったから。仕方ないだろう。
これでしばらく動けない……
俺、
キマイラ(仮)の時のように上手くいくとは限らない。たとえ黒瀬が強くなったとしても、ただそれ以上に相手がそれを上回る力を持っていた。
ただそれだけだ。
その非情な現実が、なす術のないリアルが、黒瀬の目の前に広がる。
サーベルタイガーはキマイラよりも頑丈だったようだ。俺の負けだ。俺はやることをやって死んだ、やり切って死ぬんだ。
強く唇を噛みしめる少女がいた。妹も、主人もなくした咲愛に、もう失うものは何もなかった。
「あたしが……やらなきゃ……」
――
それは憎しみの炎、それは怒りの炎、咲愛の拳は闘志に燃えていた。
「ここからはあたしが相手だ! あたしの一撃でッ!」
彼女の力は到底目の前の敵に勝るものではなかった。だが、想いの詰まった一撃が、奇跡的にこの魔獣に致命傷を与えることに成功する。たとえそれが偶然だったとしても、とどめの一撃を入れることができた。
黒瀬の攻撃で虫の息だった魔獣が咲愛の攻撃で息の根を止められる。あれほどに凶悪な魔獣も命が終われば静かなものだ。
「マスター、あたしやったから……」
咲愛の腹部には、莉愛をも殺めた大きな牙が突き刺さっていた。血が絶え間なく流れ、失血死してしまうことは自分でも分かっていた。
最後に手、握ってもいいかな……
目覚めない黒瀬の手を、咲愛が優しく握った。
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