第34骨「死霊使い、死す!?」
俺たちの前には案の定、魔獣が現れた。
上あごから二本の大きな犬歯がむき出しになっている。きっとアレに噛まれると一発でアウトだ。サーベルタイガーのような形相は虎視眈々とこの
雄々しく凶悪な牙がこちらに向かってくるまでに時間はかからなかった。臭いで俺たちの存在に気が付いたのか、虎形の獣はその四足で迷うことなく獲物を狩りにやってきた。
「咲愛、行くぞ!」
――
瞬く間に火柱が立ち上がり、大気炎を上げて目の前の獣を覆い尽くした。火の粉が舞い、辺りにあった骸まで焼け焦げて、辺り一帯に腐臭が満ちた。
「絶対にこんなのじゃ
莉愛は用心深く、矢継ぎ早に詠唱を要求してきた。その考えは正しく魔獣には蚊ほどのダメージしか与えることができていなかった。
「頼む!」
――
溺死を狙って大きな水泡を凶悪な獣にぶつけた。呼吸が出来ずに藻掻き苦しむ様を見て効果があったと確信した四人だったが、獣は暴れまわり、その強烈な力で振り切った。
「ようやく、余の出番なのじゃ!」
ピザピンちゃんは意気揚々と登場し、
――
幼女は俺の詠唱を待たずして、自分の持つ剣に術をかけて、その強化された刃でもって虎の獣に怯むことなく立ち向かっていった。
いやもう、あの幼女一人でいいんじゃないか。
そんな安心感を抱かせるほど、勇敢で頼もしい幼女ピザピン。勢いよく番人の肩から赤い血が噴き出す。返り血を浴びたピザピンだったが、続けざまにもう一撃お見舞いして、あの大きな牙をへし折った。
「うわ……の幼女、強すぎ……」
ただし、人は誰しも油断してしまう。今もあの大きな牙の一本を奪ったことで一瞬、安心してしまった。幼女だって誰だって、優位な立場に立つことができればホッと息をついてしまう。その一瞬の呼吸、気が緩んだ刹那を、獣は見逃さなかった。
これが野生の勘、感覚的に
先ほど以上に血しぶきが飛び散り、目の前で起こっていることに思考が追いつかなかった。きっと誰か殺される、そんなことは覚悟して、心の準備をしていたはずなのに。
一度崩れた気持ちを元に戻すのは難しい。残された三人はそのまま虎の獣に蹂躙される結果が待っている。まず一人、そしてまた一人と、その牙に貫かれる。
その前に、その運命を変えたのは、黒瀬だった。
――
――
これがもしかしたら遺言になるかもしれない。そんな気持ちになってしまった。なぜなら奴は俺たちに向けて今まさに迫っていたからだ。魔獣の歩みがコマ送りに見える。奴が遅いんじゃない、俺の目が狂ってきているんだ。
死の間際に見る走馬灯、それがそろそろ見えるんじゃないか。やっぱりいくら装備を整えたって敵わないものには敵わない。
そんなことを思った。
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