第33骨「死を恐れるな!死霊使い!」


 銘々めいめいに必要な装備を揃えてきた四人。どうやら俺の命令は皆にしっかり伝令されていたようで、ふざけた装備を持ってくる眷属はいなかった。


 強いて言うなら俺の三種の神器が一番ふざけていたかもしれない。


まあ、ふざけたつもりは一切ないが……


「一度、大屍魔窟マレドードゥンに入ったらもうしばらくは戻れない、皆、準備は良いか?」


 俺は自分にも言い聞かせるように確認をとる。今まで出会ったことのない怪物がうようよしているのだと思うと、怖い気持ちももちろんあったが、ここで逃げていてはダメだと言う思いが打ち勝った。


「ちょっと良い……? マスター」


 咲愛は言いたいことがあったようで、手を挙げてこちらを見つめる。


「咲愛、何だ? 何か気になることでも……」


「やっぱりあたしは不安……たとえ完璧に装備を整えても、マスターと莉愛とピザピンちゃんがいるって言っても、やっぱりちょっと怖い……」


 咲愛は自分の体、朽ち果ててきている体のことも相俟って、これから挑む深層に恐怖を覚えていた。今度死ねば、無事ではいられないかもしれない、自分が自分でなくなってしまうかもしれない、そんな底知れぬ恐怖が彼女を襲った。


 こんな時、俺はどんな言葉を掛ければ、彼女を安心させることができただろうか。


 本気で死を恐れる人間から、完全に恐怖を払拭することはできないかもしれない。不安を除く言葉を伝えても、言葉だけじゃ伝わらないことだってあるかもしれない。


 俺は言葉よりも先に行動を起こしていた。


 俺は震える彼女を抱きしめていた。こんなこと今までしてきたことなんてもちろんなかったし、これで彼女の不安が完全に消えるなんて思わないけど、今の俺にできる最善はこれくらいしかなかった。


「大丈夫だ、今度は俺も一緒に死ぬ」


 それは、大胆な告白。心中を誓うなんて言うのは後ろ向きで情けのないことかもしれないが、それでも今俺が言えることはこれだけだった。


 謎の魔獣が俺たちのことを襲ってくる限り、どこにいたって安心できる保障はない。だったら俺たちから真相に近づくべきだ。それがいかに危険だったとしても、それが俺の使命、俺がここで三人の命を冒涜している責任なのかもしれない。


「ま、とにかく大屍魔窟マレドードゥン最下層、死骸都市オーバラライデンに到達してからよね。私も、無事に着いたらマスターに伝えたいことがあるし……」


 莉愛は妙に落ち着いた風に飄々と告げる。


 伝えたいこととは一体何だろう。


 咲愛と違って莉愛はミステリアスな部分が多いので、俺が想像もしないことを思っているのかもしれない。


「余は、もう一度手にした命、最後まで主と共にあるのじゃ!」


 ピザピンちゃんは幼女のくせに、元王族と言うことが幸いし一番肝が据わっているようだ。この幼女の辞書に恐怖と言う文字はなさそうだった。


 黒瀬のここまでの旅路に過ちはなかった。最初に奇跡的に双子の骨を発見し、幼女のミイラを発見し、それらと苦楽を共にした。


 順風満帆とも言えるこの冒険譚も終わりが近づいていた。


 生命のおわる場所、大屍魔窟マレドードゥン。彼らを待ち受ける艱難は深く、重い。

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