第23骨「打開セヨ!今湊姉妹!」
「は? 莉愛本気で言ってるの?」
リスクが高すぎるんじゃない? と姉の咲愛に言われた莉愛だったが、この閉鎖的状況を打開するにはこれくらいしないといけないと言うのが、莉愛の意見だった。
「液体の水+高温の物質、それで蒸気爆発が起きる。これを利用してこの体内から無理矢理出るんだよ!」
莉愛の提案は筋は通っていたが、大きな危険が伴う作戦であることは言うまでもなかった。実際に爆発が起こった場合、自分たちが無事でいられる保障はどこにもない。跡形もなく爆発四散してしまった場合、蘇生してもらうことだってできないかもしれない。
「覚悟を決めるんだよ! 咲愛!」
こう言う差し迫った状況では咲愛よりも莉愛の方が、決断力があった。どんな物事もサクサク決めて、早々に腹を括って作業を行う。その姿勢はある意味正しいが、その選択をしたせいで一度キマイラ(仮)に殺される結果を残している。無謀な策、蛮勇と言える行為は慎重さや正確性に欠ける。
「覚悟って、一度莉愛の策であたし死んでるんだけど!」
その点、咲愛はしっかりと考えてから決断を下すタイプだ。今回も前回の教訓を生かし、莉愛の言うことを鵜呑みにしまいと意識している。命大事に、普段の言動とは正反対の丁寧な性格をしている。
「じゃあ、咲愛はこのままこの暗い体内で一生過ごすと良いわ。私がここから出ても知らないからね!」
と言いつつ、一人ではこの作戦が成り立たないため、チラチラと咲愛の様子を窺っている莉愛。
いや、莉愛あたしの方見てるのバレバレだってーの……
今回の作戦について整理して考えよう。この作戦が成功した場合、この生き物の外に出られるかもしれない。出られないにしても、何かしらの進展は見込める。
しかし失敗した場合は、何も残らずに自分たちの意識がなくなるだけの可能性がある。しかも、外でマスターが助け出そうと画策している時の邪魔になる恐れがある。
何も行動せずにこの場に留まっていると言うのは、あまり良い方法だとは言えない。莉愛の作戦に乗る乗らないにかかわらず、何かアクションを起こして試してみた方が良いのはたしかだ。
今回、莉愛の提案に素直に乗り切れないのはやっぱりそれで大切な一度命を失っているからだ。
あの時は私たちならやれる! と言うどこから湧いてきたのか分からない姉の謎の自信によって一瞬にして八つ裂きにされてしまった。
だからこそ、今回は同じ轍は踏むまいと言う意識が強かった。今度こそは、莉愛の甘い誘いに乗って死ぬなんて御免だと言う気持ちが強かった。
幸いにも今回は黒瀬に蘇らせてもらえると言う後ろ盾があるが、それでも不安な気持ちを完全に拭い去ることはできなかった。
咲愛の心の中に自然と浮かんできたのは双子と言う文字だった。運命共同体、生きる時も死ぬときも一緒、そんな関わり。
ここで自分だけ生き残ったら、どうなるんだろう。
――そんなことを考えた。
自分の一部がなくなる感じ、もちろん莉愛は自分の一部だなんてことは一切ないが、きっと心のどこかに穴をあけたまま生きることになるのだろう。そんな寂しい人生が待っているのだろう。
莉愛は双子を不便だと言っていた。しかし、咲愛はそう思ったことは一度たりともない。困ったときは助けてくれる、自分が迷ったら導いてくれる、寂しい時はそばにいてくれる。そんな存在が常に隣にいてくれた。
――だから、双子は、不便なんかじゃない。
このまま、莉愛を死なせるわけにはいかない。
なんてったって、今、あたしは姉なんだから!
それを考えると、答えは一つに決まっていた。
「よーし! あたしも気が変わったから莉愛の作戦、手伝っちゃおうかなー!」
莉愛の表情が一瞬にして明るくなったのが分かった。言葉にしなくたって思っていることなんて分かる。だって双子だから。
「咲愛、いくわよ……」
「莉愛、いくよ……」
二人の準備は整った、後は二人の息を合わせるだけだ。だけど、そんなの最初から合わさっている。だって二人は双子だから。
――
――
莉愛が生み出した水を、咲愛の炎の拳で一気に蒸発させる。言葉にすれば簡単だが、実際目の前で起こったことを上手く言葉にすることは難しい。
まさに、束の間の出来事、瞬く間に私たちの思惑通りに、爆発が起こった。
ただそう言うと、まるで私たちが成功者のように思われるかもしれない。
だが、予想以上、想定外に、範疇を超えて、破裂した。
――ドォオオーン
低く鈍い音が砂鯨の体内で残響する。二人の少女の声は聞こえない。
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