第24骨「掘る掘る掘るよ!死霊使い!」


「…………」


 口の中から砂の味がする。むしろ、口の中が砂、砂がいっぱい詰まっている。

――ってか俺、生きてる……


 砂鯨の全力の一撃を食らった黒瀬だったが、奇跡的に一命を取り留めることができた。


 風圧で何メートルか遠くに飛ばされたようだが、まだ体も動く。そして、目の前にはまだ、眷属二人を飲み込んだままの砂鯨が一頭。


 体から絶え間なく、湯気がシューシューと出ている。


 いったいこれは何の合図なのだろうか。先ほどのようにあの巨大な尻尾が動く様子もない。体力切れなのか、もしくは怒っていたり昂奮していたりするのだろうか。


 身体の異常や感情の起伏でないなら、中の二人が何かしたのだろうか。


 今俺にできることははぐれたピザピンちゃんを探すことだ!


 辺りを見回し、砂の中に埋もれているであろうピザピンちゃんを捜索する。俺の眷属なんだ、こんな早くお別れするなんて嫌だ!


「ピザピンちゃーん! ピソーク・ザント・アレーナ・アイティオコピン十七世ちゃーん! 天才幼女ピザピンちゃーん!」


 俺の呼びかけは、一切の反響もなく渺茫びょうぼうたる砂漠に哀しく消えていくだけだった。


 いや、まだだ、俺の眷属なら俺が命令すれば体が勝手に動いたりするかもしれない。まあ、声が聞こえる状態でだとか、眷属の意識がある状態で命令しないと意味がない可能性の方が断然高かったが、それでもやってみる価値はあった。


「ピソーク・ザント・アレーナ・アイティオコピン十七世よッ! 今から発光せよッ!」


――燦爛たる眩暈ゲレルリヒトオォ!


 俺は今自分に出せる最大の声で、そして、砂漠全土に響き渡らせるくらいの気合いで、眷属に明を下す。もしも俺の声が聞こえているならば、返事をして欲しい、光り輝いて無事をアピールして欲しい、そう言う思いだった。


 しかし、どこを見渡しても発光する眷属は見当たらない。やはり、砂の中に埋もれ俺の声が聞こえないのだろうか。もしくは意識を失っていて俺の言葉が耳に入らないのだろうか。思い合たる限りのケースを想像して、どうやったらピザピンちゃんを助けることができるのか考える俺。


「ん? 少し光ってる?」


 燦々と照り付ける太陽の日差しが強いので、光る砂なのかということは分からなかったが俺の足元の近くが光っているような気がした。


「おい! そこにいるのか!」


 光る竹の中にかぐや姫を見つけたように、光る砂の中からピザピンちゃんを俺は見つけようとした。

 俺は、あの二人の少女、今湊姉妹の亡骸を見つけた時のように、必死になって掘っていた。掘って掘って掘り進めているうちに、まばゆい光が漏れ出しているような気がしてきた。


 もう少しで、ピザピンちゃんに会える! そう思うと、自然と砂を搔き進める手が早くなっていた。


「ピザピンちゃん! ピザピンちゃん!」


 俺は名前を何度も呼びながら、熱い砂を掻き分けた。何度も何度も砂を掻き分けて、埋まっているであろう眷属に思いを届けようとした。


手の痛みが感じなくなった頃、ようやく彼女は姿を現した。


ぬし……遅かったのじゃ……」


 莉愛もピザピンも、俺に対する信用が厚いだろ。どうしてこの状況で助けが来ると確信できているんだ。まあ、嬉しいけどさ。


 これでもう一人じゃないと思うと少し感傷的な気分になってしまいそうだったが、何も問題は解決できていない。だから、感動は後だ、今は目の前の砂鯨に集中するんだ!


「余は、奴を倒す方法を見つけてしまったかもしれないのじゃ!」


 自慢げな表情で、ニヤつきながら幼女は言った。


 ここから俺たちの起死回生が始まる!(予定)



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