第22骨「水で流そう!死霊使い!」


「ピザピンちゃん! もう一度力を貸してくれ!」


 一度は撤退の二文字が浮かんだ俺だったが、一番最初にキマイラ(仮)との戦った時のことを思い出していた。


「俺は『やらなきゃもったいない』って思っちゃったんだよな……」


 今回だって一度退いたから確実に勝てると言うことはない。むしろ、俺は眷属の二人を置いて逃げ出す可能性だってあるかもしれない。だからこそ、ここで、やりきってやろう! そんな思いが俺の中に湧き上がってきた。


「ピザピンちゃん! いくぞ!」


――攻水柱射砲こうずいちゅういほう


 ピザピンちゃんの小さな手の平から今度は、蛇口を思い切り捻ったように水が噴射された。水圧はみるみる上がっていき、巨鯨の厚い皮膚にべったりとへばりついていた砂をどんどんはらっていった。


 俺の予想した通り、この水のない砂漠では効果覿面こうかてきめんだったようで、奴は大きな呻き声を上げて苦しんでいるようだった。


「よし! 効いてる! もういっちょいくぞ!」


――高密度な超高圧水ウォータージェット


 ピザピンちゃんは俺に言われるがまま右手から高速・高密度な超高圧水を放った。その威力は凄絶なもので、速さは音速の三倍を超え、その威力はコンクリートさえ切断する。


「余の一撃を耐えることができるか……のじゃ!」


 語尾のせいで変なセリフになっていたが、ピザピンちゃんはさっきよりも気合が入った一撃で、砂鯨の土手っ腹に風穴を開けるつもりでお見舞いしていた。


「まだ……余はやれるのじゃ!」


 最後の一押しと言うように強引に、自分の出せる力を精一杯出し切る幼女。その全身全霊を見せる姿に一端の王の器を感じた。元王族の幼女は大胆にそして、豪快に、無尽蔵の水を間欠泉の如く勢いよく噴射させる。


「いっけえええぇ!」


 俺には目の前の幼女を応援することしかできなかった。これが死霊使いネクロマンサーの辛い所だ。眷属の力を頼りにして自分は一歩下がって安全なところから指示を出すことしかできない。


 そう、だがそれは逆に、眷属の戦いの一部始終を見届ける義務もあると言うことである。


――危なッ……


 俺がそれに気が付いた時には目の前に既に迫っていた。大きな砂鯨の尻尾が俺とピザピンちゃん、俺たちのいる一帯に何の忖度そんたくなくぶつけられる。


――バシンッ!



 大きな衝撃により一瞬でブラックアウトする。体のいたるところで痛みを感じた時には、俺の意識はもうなくなっていた。これが砂鯨、この世界最大の生き物、迂闊に手を出すべきではなかった。


 俺は、二人を助けるんだ……


 最後に黒瀬の心に浮かんだのは、二人の眷属の顔だった。


 ああ、あの二人、何やってるんだろうなぁ……


 大量の砂が空に宙に舞い、辺りは砂嵐が起こったかのように視界が奪われる。砂塵の中からは巨大な砂鯨一頭が現れ、黒瀬頼央くろせらいおうとピソーク・ザント・アレーナ・アイティオコピン十七世の姿はなかった……


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