第21骨「内緒の話!今湊姉妹!」


「しかし、莉愛ちゃん莉愛ちゃん、あたしたちこのまま消化液で溶けちゃってなくなっちゃうのかな」


「まあその可能性だってあるよね、文字通り骨一本も残らない状態で栄養分として接種されちゃうんじゃない?」


「それってもう二度と甦れないってことだよね」


「まあ、そうなるね」


 咲愛と莉愛は砂鯨の体内で自分たちの行く末について考えていた。先ほどまではあらゆる方向に転がり続けた二人だったが、今はどうやらこの謎の生き物は落ち着いているらしい。


「あのさ、私……前から聞くのが怖かったことがあるんだけどさ、聞いて良い?」


 今度は莉愛が咲愛に対して質問を投げかけた。咲愛の時と同じく、莉愛の声はしっかりとした声で一切の外連味けれんみがない。


「どうしたの莉愛、そんなかしこまっちゃって……」


 莉愛の切り出し方に少し、身構える咲愛。誰だってこんな聞き方されると覚悟を決めなければ、話を聞けない気がする。


「私、ずっと気になってたの。咲愛が莉愛のことどう思ってるのかって」


 え、それってどういう意味の感じ? と若干引かれ気味で回答された。


「いや、あの私のことって言うよりさ、双子に生まれたことについてどう思ってるんだろうな……って」


 なるほどねーと目を閉じながら頷く咲愛、今まで深く考えたことがなかったのか即答と言うわけにはいかなかった。


「ちなみに莉愛はどう思ってる?」


 興味津々な目つきで莉愛をみつめる咲愛。人に質問しているのだから自分も意見を言わないとフェアじゃないことは分かっていた。


「私は、咲愛のことが好き……でも双子は不便だなって思ってた」


 今までこうやって素直な気持ち、真剣な気持ちを、妹、今は姉の咲愛に伝えたことはなかったと思う。実際それをしなくたって、咲愛の気持ちは分かっていたから。お互いに喜んでるのも、悲しんでるのも、辛いのも、嬉しいのも、全部分かっちゃってたから。でも、今、こうやって口に出したのは自分が分からなくなってしまったから、咲愛のことも分からなくなってしまったから。


「…………」


 咲愛は依然として口をつぐんだままだ。今まで当然だと思っていたことに対して、突然意見を求められても回答に困ると言うところだろうか。


「あたしもさ……莉愛のこと好きだよ。でも、双子が不便って言う意見には賛成できないかな」


 双子の咲愛は莉愛とは異なった意見を持っていた。こんなことだってある、何でもかんでも意見が一致するなんてことはない。あくまで趣味嗜好が似通っていると言うだけのことだ。


「あたしは……」


 そう言っていたところにまた大きく体内が揺れ始めた。咲愛はきっとそう言うと思っていたけど、今こうして改めて咲愛の考えを聞くことができて、莉愛は少し安心した。もちろん言葉で言うことなんて簡単だ。本当は心にもないことを嘘と言う形で表明することだって可能だ。


 気持ちだって変わる。その時には本当にそう思っていたって、次に聞いた時にはもう気持ちは変わっているかもしれない。


 だけど、咲愛が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。


「あ~ごめん、莉愛また大地震きそうだし、この話は一端後にするよ」


「咲愛、私に良い考えがある……」


 内緒の話を途中で切り上げることになった二人だったが、莉愛はこの右も左も分からない状況を変える秘策を編み出したようだった。さらさらと流れる砂の音だけが、この暗闇の中に響き渡り、この空間が二人だけの空間であることを殊更に強調しているようだった。

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