第18骨「滑走せよ!死霊使い!」

「マスター、最初からこれ使っとけばよかったじゃん!」


「咲愛、どっちが早いか競争よ!」


「望むところ!」


 咲愛と莉愛の二人は、このだだっ広い砂漠地帯を悠々と滑り、俺たちの目の前を颯爽と滑っていった。左右に蛇行しながら移動していたので、後ろ姿からどちらがどちらなのか瞬く間に分からなくなってしまう。


ぬし、あの二人は一体どうして同じ顔をしているのじゃ!」


「あれは双子って言って生まれながらにして同じ顔をしてる二人なんだよ。いつだって二人は一緒で、だけど、二人は一緒じゃない」


「それは窮屈なことではないのだろうか……」


 ピザピンちゃんは目の前の双子を不思議そうに見つめたまましばらく黙っていた。二人は窮屈だろうと同じ腹から同じタイミングで生まれてしまったのだから、当人たちにはどうすることもできないことだろう。


――双子のことは双子にしか分からないよな……


 俺自身も顎に右手をあてながら、彼女たちの気持ちを推察しようと試みたが、結局のところ、あの今湊姉妹の心情なんて分かるはずもなかった。


――ズザザザ……


 砂が生き物のようにゆっくりと蠢き、細かい砂の一粒一粒が虫のように蠕動ぜんどうし出した。その異様な光景に俺は、足を止めてただその成り行きを見守るしかできなかった。


「マズいのじゃ!」


 ピザピンちゃんがその言葉を発した後すぐに、今湊咲愛、今湊莉愛の両名は砂の中へとすっぽり消えてしまっていた。


「ピザピンちゃん! これって……」


 砂鯨スナクジラ、砂漠地帯に生息する魔物らしい。普段は日中に活動することはなく、夜間に活動すると言う。


「砂鯨を見たらとにかく逃げるのじゃ! 主も早く!」


「逃げるって言っても、咲愛と莉愛はどうするんだ!」


 あの二人は俺の眷属なんだ。大切な仲間なんだ!


「主も一緒に食われるというなら止めぬのじゃ! 余は一人で逃げ……」


――逃げない。俺もピザピンちゃんも逃げない。


 きびすを返そうとしたピザピンちゃんの足がピタリと止まる。すまんな、これはマスター命令だ。


「もちろん逃げた方が良いのは分かってる。でも、逃げちゃダメな気がするんだ」


「砂鯨と戦おうなんて、主も物好きなのじゃ……」


 ピザピンちゃん改め、ピソーク・ザント・アレーナ・アイティオコピン十七世ちゃんは俺の気持ちを汲んでくれたようで、もう後ろを向くことはなかった。


「せっかく生き返ったのに、余は死にたくないのじゃ! 絶対勝つのじゃ!」


「分かってるよ! 戦いに勝って、二人を助け出して、俺は大屍魔窟マレドードゥンに行くんだ!」


 俺と幼女の戦いが幕を開ける。地中では大きな何かが確実に生きているのが分かる。姿が見えないことに不安を覚えながら俺は二人が呑み込まれた方をしっかりと見据える。


 さっき出会ったばかりの急造コンビだが、果たしてどうなるライ&ピザコンビ!


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