第14骨「オッケー理論だ!死霊使い!」

「ひゃっ!」


 俺は最善の策として、


「胸は二つあるから二回まではオッケー理論だ。片方だけだとバランスが悪いしな」


 荒唐無稽こうとうむけいな理由をつけて、俺は再び莉愛の乳房に手を触れることを選択した。


「ちょっ、今は揉んでいいって言ってないんだけど!」


 俺はこうやってはぐらかしただけだ。相手の思いをくみ取るのが怖かった。俺は彼女の主人なのだから、命令すれば答えてくれただろう。

 

 「さっきの言葉は本気か?」それで、きっと彼女は嘘をつけないはずだ。いつでも強制的に確認できるからこそ、はばかられる。


心の内ってのは勝手に覗いてはいけない、そんな気がして俺は莉愛に真実を確かめることができなかった。


「莉愛、咲愛を生き返らせるぞ」


 俺はいたって冷静に、ただその言葉を発した。ここで俺が動揺してはいけない。どんと構えるんだ。彼女の口からどんな言葉が来ようと、受け止めるんだ。


「咲愛は、私が死んだ時、なんて言ったの……」


 咲愛は、俺の瞳の奥をしっかりと見据えて言った。その目は氷のように冷たかった。だけど、その眼差しは真剣で、熱い思いが籠っているような気がした。


「咲愛は、莉愛をさっさと蘇らせてよって」


 そう、と莉愛は呟いて、物憂げな表情で彼女は語り始めた。


「別に、嫌いってわけじゃないのよ、咲愛のことは。そう、嫌いだなんて思ったことなんて一度だってない。だって、生まれてから死ぬときまでずっと一緒だったんだから……」


――でも、ずっと一緒なのよ。この気持ちが分かる? いつだって比べられて、そのくせ他人からは見分けがつくように個性を求められる。双子なんだから、好きなものなんて一緒がたくさんあるのにね、ほんとは私たちだって違いたいのにね。


「だからホントは嫌いなのに好きなことにしたりしたものもあるし、咲愛のために諦めたことだってあった。全部一緒でいたいけど、全部一緒ってわけにもいかないんだよね。でもさ、起きたら私と瓜二つの人間がいる」


――もう慣れたけどさ……


 吐き捨てる様に口から出た言葉は、俺の心に重くかる。


「良くも悪くも、私たちって運命共同体なんだよね。2人で1つってやつ。だから、姉と妹が入れ替わった時、面白いなって思っちゃった。いままでの関係にウンザリしてたから。でも、ダメだよね、妹がいない世界の方が楽しいかなって思っちゃった。面白いかなって思っちゃた」


――最低だ、私。


 大きな涙が莉愛の頬から流れ落ちる。この気持ちは唯一無二の存在で生まれてきた俺には理解できない感情なのだろう。双子には双子の苦悩がある。それに折り合いを上手くつけて生きていかなければならない。


 だけど、このまま咲愛を自然の摂理に従って殺しておくことが出来る今、莉愛の心にわずかな隙が生まれてしまった。もちろん、莉愛は冗談のつもりだったのかもしれないが、言葉にして伝えてしまって初めてその重大さに気が付いた。


「莉愛は咲愛のことが好きなんだな」


「好き」


 俺はそれ以上、莉愛に何も言わなかった。黙々と咲愛の蘇生に心血を捧げた。ひんやりとした空気が、俺の心にも入り込んでゆくようで、言葉にならないもやもやが俺の心に澱んでいくのが分かった。


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