第5骨「王子様だよ!死霊使い!」


 と、まあ、俺はここでキマイラじみた魔物の餌食になって人生終了ってオチならとんだ駄作だろう。俺は何とか一命を取り留めた。


「ちょっと! 起きなさいよ! マスター! 聞いてるの!」

 ガシガシと俺の体を強く揺らす少女、必死になって俺に声を届けようとしている少女、今湊咲愛。


――起きてってば……


 俺の隣で少女の頬から涙が伝った。少女の華奢な体が小刻みに震えている。その姿は儚く、今にも崩れてしまいそうだ。


「あたしたちの敵討ちをしてくれたんだから、これからはあたしたちが恩返しする番なんだから……だから早く目を覚ましてよ……」


 俺の唇に彼女の柔らかな唇が重なる。きっと彼女が最後にできるおまじないだったのだろう。意識がない俺に向かって、眷属がマスターに忠誠を誓う。その純情が伝播したのか、黒瀬頼央は次第に生きる感覚を取り戻す。


「生きてる……俺……」


「何最終回でラスボス倒した後の主人公みたいな顔してるのよ、マスター! さっさと莉愛を復活させてよね!」


 涙を流して目が赤くはれ上がっていた咲愛は、照れ隠しをするように捲し立てて黒瀬に要求する。


「あいあい、分かったよ。すぐに妹を復活させてやるから待っててくれ」


「風化せし死別した骸……」


 俺は先ほどと同様に、降霊術を行った。莉愛の捩じ切られた頭部は見事に癒合し、元の元気な少女の姿へと変貌した。


「マスター、遅かったじゃないか……」


 待ちわびたぞと言わんばかりにどっしりと構える莉愛。姉である咲愛はすぐさま抱擁を交わす。

 やっぱり双子は、どちらが咲愛なのか莉愛なのか一瞬見分けがつかなくなるなくなるななんてことを思いながら、俺は二人の昵懇な姿を見つめていた。


「良かった……莉愛……」


「まあ、私たちはやっぱり二人いないといけないわよね!」


「でさ……」


「これ、どうすんの?」


 虎の顔に蛇の尻尾、謎の生物の骸を指さして二人は言った。


「どうするって、何?」


「あんた死霊使いなんでしょ! これも眷属にできるってことよ!」


――あーたしかに、そうだったな。


 俺は自分が死霊使いネクロマンサーだったことをすっかり失念していた。強大な敵を倒せば倒すほど俺は大きな力を得ることができる。当初の予定とは違い、俺は母親の用意した中級モンスターどころか、上位の強敵を味方につけることができる状況にあった。


「そんなの決まってるだろ! 味方にする以外の選択肢があるのかよ!」


 きっと誰だってこんな機会逃すはずがない。誰かに譲ってもらった獲物ではない。自分が身を粉にしてと言うか身を黒焦げにして手に入れた勝利だ。もちろんその対価を得ようとするのは卑怯なことではないだろう。


「風化せし死別した骸……」


 俺は咲愛と莉愛にしたように、目の前の魔物に降霊術を仕掛けた。


「あれ……おかしい……」


「どうしたどうした、MP切れとか言わないでよー」


「やり方間違ったとか?」


 俺は不穏な雰囲気が出てきたのをすぐさま感じ取る。


これは、きっと……


 黒い霧に包まれるところまでは同じだったが、咲愛と莉愛を蘇らせた時と異なる違和感を覚えていた。何か自分の手の中に入り切らない感じ、なにか見えない何かをつかもうとするような……


「あっ!」


 霧が次第に晴れ、中から現れたのは……


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