第4骨「もったいないぞ!死霊使い!」
男の子は、いつだって女の子の前ではカッコつけたくなるものだ。誰だって一度はクラスのヒロインが悪い奴に絡まれているところを助ける妄想をしたことがあるだろう。
そう俺だって御多分に洩れず、そんな妄想を山ほどしていた。だからこそイメージトレーニングはばっちりだ。
だけど、イメージと現実は全く異なる。
「咲愛! お前は逃げろ!」
「ライ! あたしは死んでるから大丈夫だってーの! それよりマスターが死んじゃったらあたし達また死んじゃうじゃない!」
――だから、二人で生き延びるの!
「よ……」
咲愛の右腕が妖虎の尖爪によって無惨にも
結局カッコつけたってこんなもんだ。俺一人で敵わなかったキマイラもどきに眷属が一人増えたところで、勝てるわけないだろ。
「あたしたち、コイツに殺されたのよね……」
――また、やられちゃうのかな……
目の前の咲愛が弱気になっている、死にそうになっている、助けを求めている。あと少しで彼女の心は折れてしまう、彼女の命はもう長くない、そんなことは簡単に理解できた。
でも、俺だってこんな状況、こんな泣きたいくらい絶望的な状況、今すぐに投げ出して楽になりたい思いで一杯だった。
こんなことならやっぱり最初から母さんの用意した骨から眷属を用意して、準備万端の状態で冒険に出るべきだった。最初の選択を間違えていたんだ。間違った人間は直ちに正されるべきなんだ。だからこそ俺もここで三人一緒にゲームオーバーを迎えるのが当然の帰結だ。
だから……
あと少しで俺の心も折れるところだったが、俺はすんでのところで思いとどまることができた。
あーでも、どうせ死ぬならやりきって死んだ方がいっか。
ただのきまぐれ、気の迷い、人間は死の間際、どんなことを思うのだろうか。俺には「やって後悔する」と言うか「やらなきゃもったいない」と言う倹約家にも似た思考が生まれた。
「俺は
虚勢を張ったところで目の前の魔物には全く意味のない行為であることは分かっていたが、俺は叫ばずにはいられなかった。
「
俺は誰でも使える下位魔法をキマイラ(仮)にブチ当てた。
「ま、わかってたけど……」
まったく意に介していないようで俺たちの方に奴は猛進する。
「咲愛! 俺にっ! 俺に、
あろうことか、黒瀬は眷属である咲愛に自分を攻撃するように仕向けた!
「早くッ! 時間がない!」
どんどんと蓄電する黒瀬、もちろん体に負荷がかかっているのでその場から動くことすらできない。強烈な痛みに苛まれながら、ただ一身に咲愛の攻撃を受ける。
「まだだッ! まだ足りない!」
「もう、これ以上無理だよ!」
体から煙が上がるほどに黒瀬の体は発熱していた。手足は黒ずみ、体全体に針で刺されたような鋭い痛みが襲う。
「
「ライーーーー!」
俺は体内に蓄積された電気エネルギーを収斂させて奴の顔面に思い切りぶつけた。轟々と空気が裂けるような断末魔を上げながら、奴は朽ち果てた。その大きな巨躯が桜の木の下で横たわっている。辺りは先ほどまでの静寂を取り戻し、誰も足を踏み入れぬ聖域の様相を呈している。
俺の体から力は抜けて、全てが空っぽになる感覚を覚えた。その場に倒れ込む形で俺の意識は自然と失われていき、全ての記憶が淀み、滞り、どろっと濁流に呑み込まれるように混沌とするのが分かった。
「やればできるじゃん、俺……」
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