第3骨「美少女召喚!死霊使い!」

 黒い霧が次第に晴れ、俺が召喚した死霊が俺の前に姿を現す……

――って……え?


「ちょっと、あたしの方が早かったよね!」

「嘘をつくのはやめてもらえる? と言うかそもそも、妹は素直に姉の言うことに従っておけば良いのよ」

「そうやっていつも姉だからって、自分の言い分が通ると思ったら大間違いよ!」

「今回も私が正しい。どうせあなたは間違ってる!」


「で? 実際のところ……どうなの?」

「ねぇ、あなたに聞いてるんだけど……」


 俺の目の前には女の子が二人、俺は面食らった表情で二人の口喧嘩を傍観することしかできないでいた。

 一人はサイドテールのどうやらお姉さんらしい人物。たしかにどこか優位に立とうとしているのが言葉の端々から伝わってくる。

 もう一人はツインテールの妹とみられる少女。どうにも姉に押され気味ではあるが、負けん気が強いようで、必死に姉に言い負かされまいと奮闘している。


 姉と妹と言ったが、彼女らは背丈も顔も瓜二つ。

――どうやらこの姉妹は双子らしかった。


「あんたが、あたしのマスターなんでしょ!」

「あなたが、私の主人なんでしょ!」

 ほぼ同時のタイミングで俺に問いかけてくる二人。どっちが早かったかなんて分かるわけないじゃん。

「あー、こっちだよ」

 この選択が後々に関係してくるなんてつゆも思わなかった俺は、安易に適当に、左の方を指さした。


「ほら、いったじゃん! あたしの方が早く生まれたんだから姉ね! 今日からあたしのことをお姉ちゃんって呼ぶのよ! いい?」

「知ってた? お姉ちゃんって苦労するから寿命短くなるらしいよ」

「うそでしょ!? じゃあ、あたし、妹のままで良い! やっぱり今のナシ!」

「はいそんなのできませーん。私は今から妹になりまーす」

「そんな早く死ぬの嫌……グスン、ひっく、ひっく」


 さっきまで妹だった少女が、妹になった元姉に言いくるめられて泣き出してしまう。


「あ、でもあたし、もう死んでるんだった」


 不意に我に返り、メンタルリセットする少女。黒瀬は桜の木の下で二人分の死体をこの世に蘇らせていた。


「で、そろそろマスターの話、聞いてもらってもいいですか?」


 なぜか眷属に向かって低姿勢の黒瀬だったが、いきなり姉妹喧嘩を見せられたのだから当然のことだろう。

 俺が話し始めたのを聞いて、彼女たちは慌てて直立姿勢になり俺を黙って見つめた。


「まず、自己紹介してもらってもいいか」


 俺は眷属二人の素性を尋ねる。二人は俺の質問に何の躊躇いもなく、一切の迷いなく答えた。


「おっと、これは失礼しました。マイマスター。私は前世は姉、しかし現世では妹の今湊いまみなと莉愛りあと言います。蘇らせてくれてありがとうございます」

「あたしは、前世は妹で現世は姉の咲愛さきあと言います」

 二人はお互いに顔を見合わせて無言で頷いた。

「「二人合わせて……」」

「「サキアリア!!」」


「まんまじゃねーか!」

「ツッコミどうもありがとうございます!」

「今日はね、名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」

 

「いや帰らねーから」


「ノリの良いマスターだね! おねーちゃん!」

「いやもう私妹だから。おねーちゃんはあなたなの!」

「いやーそうだったそうだった! こりゃあ一本取られたねえ」


 勝手に今湊姉妹は俺を放っておいて、会話を進行している。二人は両手を前で組んでまるで漫才師のように流暢りゅうちょうに話していて、俺には二人の間にスタンドマイクがあるように見えた。

 しかし、この二人、一体何者なんだ……ってかさっきまで喧嘩してたのはなんだったんだ……


「そういやマスターの名前を聞いてないわね。マスター、名前は?」

「待って、あたしが当てる! ズバリ、マスターの名前は……」


「†鬼丸おにまる†」

「いやいや、なんでネトゲのハンドルネームみたいな†《ダガー》が入ってるんだよ! ってか鬼丸じゃねーし」

 さっきから突っ込んでばかりで全くマスターとしての役目を果たしていない気がしたが、楽しい二人なので深く考えないことにした。


「俺は黒瀬頼央くろせらいおう

「雷王ね……雷魔法が使えるのかしらねえ」

「いやいや王ってついてるから、きっとお金持ちだよ! 玉の輿だよばんざーい、ばんざーい」


 二人で盛り上がっているところ悪いが、俺の名前は雷のライでもないし、王様の王でもない。


「えー、頼るでライって、私たち頼る気満々じゃーん。こすい男ね」

「名は体を表すって言うしね、きっとピンチになったらあたしたち置いてすかさず逃げるタイプだわ」

「頼央なんて贅沢な名前だから、ライって呼んじゃうよ!」

「たしかに、それアリ」

 散々な言われようだったが、とりあえず、俺は一つ試してみることにした。

「そこにある、棒を拾ってきてくれ、莉愛」

「はいはい……取ればいいんでしょ」


 やはり、莉愛は俺が言葉を発した後、すぐさま体が動いていた。つまりは、眷属はなんだかんだ言ってもマスターの言うことには絶対従わなければならないようだ。


「なになに~莉愛になんかお願いした時の顔が気持ち悪かったんですけど~ なんかキモイこと考えてない~」

 咲愛に俺の胸の内を見透かされそうになったが、俺はクールに毅然とした態度で答えた。

「は? は? 何もねーよ! 勘違いしてんじゃねーよ! 俺はマスターだぞ」

「うわ、マスターの権力を笠に着て好き放題する気だ! 莉愛、こんなマスターの言うこと聞いちゃダメだよ!」


「はいはい、分かってるってさき……」

――グシャリ。

「あ……!?」


 俺の眷属、今湊莉愛、前世は姉で現世は妹の首が一瞬で吹き飛んだ。俺と咲愛はその刹那の事象に思考が追いつかない。一体、目の前で何が起こったのか、俺たちはどう言う状況に置かれたのか、そんなこと一切合切理解できずに俺たちは、ただ悲しい事実を突きつけられた。空気が一瞬にして凍り付き、硬直した体は、まるで時が止まってしまったかのようにただ虚しくそこに存在していた。


「これってラブコメじゃなかったのかよ……」


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