第17話

【表現】『』は口に出さぬ言葉


 少女は悩む、死別し、永遠に分かれた筈の恋人と最悪な形で再会し、裏切った自分の行動は淫魔の所業だと考えている事に。


 淫魔が悪と告げ、反論する少年からは敵意を感じた。


 少年を裏切った時と似た、軽蔑の感情を。


 人間を嫌いながらも、私の為に我慢していたなら〝王子と身体を重ねた行為は彼に耐え難い苦しみを与えた〟と考えた少女は淫魔の責任にし、自分の行った過ちを軽んじていた間違いを自覚した。


 如何なる陰謀が有ろうと行った事実や傷つけた事実は変わらない。


 相手が悪いから、と自分が悪くなくなる訳ではない。


 あの出来事の被害者である少年を軽んじて自分を守ったことは正しいと今更ながら思えなくなった。


 少年の言葉から伝わる人間を憎む感情は、嘘に思えなかったが、少年が全ての人間を恨んでいるとは思えない少女は、人の英雄であった少年が嘘だ、と断じることは出来ない。


 少年を安易に敵と思えるなら楽になれそうだが思えない以上、悩みは尽きない。

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