第16話

【表現】『』は口に出さぬ言葉


 魔女の城で待ち構える少年は今、如何なる関係か不明瞭な少女と対峙した。


 未だに恋人か、それとも恋人か。


 騎士や兵士から守られる少女の口から「王子様は淫魔に惑わされて」などと的外れな事を語られた。


 裏切ったのは君だ、と告げたなら「それは……貴方を失って、如何なっても、って考えたから……」と反論し、「悪いのは私、だけど、貴方はあの女に騙されているの!」と自分の罪を語りながらも、相手を非難する少女。


 「勘違いしている様だが、俺は人間を愛してはいない」と告白した少年は、少女から驚かれた。


 「愛していた人が人間を愛しているから、人間(社会)と友好的な関係を築いただけだ。愛していた人を愛さなくなった今、人間(社会)と仲良くする気はない」と告げ、間違いを正した。


 親に恵まれた少女は人間から裏切られても「良い人はいる」と期待し続けていた。


 親に恵まれず、人間から迫害された少年は愛する人と共に居るため、人間社会に適応した。


 相手の望みを叶えながら、救いたくない者を助け、偽りの愛を語り、英雄になった。


 それも、過去の事、今は、英雄ではなく魔女の剣。


 魔物が自給する魔界を目指す大義の為の道具に過ぎない。


 永遠と信じていた愛がたった一度の出来事で壊れ、自分の愛に疑いを抱き始めた少年は自分の意思を軽んじ、物となることで、他者を愛し得る自分を否定した。


 敵意を向ける騎士や兵士は、少女と異なり、今の状況を想定していた、と思えた少年は鞘から縫いた剣を少女へ向け、戦う意志を示した。


 人間を愛さず、憎しみさえ感じさせる少年の言葉を聞いた少女は望まぬ答えに混乱し、戦える状況ではなかった。


 撤退を試みる騎士たちを深追いせず、程々に脅した少年は逃走している魔女を追い城を出た。


 が、見つからぬ魔女を探して森をさまよっていると、再会したオークから「魔女が獅子王に捕まった」と知らされた。

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