第11話

【表現】『』は口に出さぬ言葉


 鼠族ねずみぞくの長〝鼠長ねずみおさ〟に勝ち、鼠族を統べたなら、家畜化されている人々を解放することが出来る。


 魔女に案内されて鼠族の根城(廃屋)にたどり着いた少年は鼠(魔物)たちの視線に気付いた。


 軽く剣を振り閉ざされた門(木製扉)を切った少年は物陰で脅える鼠を睨み威嚇した。


 物陰から出ず、脅え続ける鼠を警戒しながら魔女と共に屋敷へ入った少年は犠牲を減らす魔女の方針に従い臆病な鼠を放置した。


 鼠長から命じられ、侵入者を排除したくても、恐れから戦いたくない鼠たちは、長に従うか、侵入者の邪魔をしないか、選択を迫られている。


 痺れを切らした鼠長が一匹の鼠を殺し、不安に駆られた鼠たちから襲われた。


 魔女を執拗に狙う鼠たちの行動から防戦を強いられる少年は鼠長を狙う余裕がなかった。


 一匹なら容易に切り裂けるが、多くを相手に自身を自身で守ろうとする魔女を守ることは面倒だった。


 魔女の剣に成り、剣は勝手に動くな、と命じる魔女は今回の出来事で反省してもらいたいと思いながら、打開策を考えた。


 少年は鼠たちへ「死にたくなければ考えよ、何に従うかを。敵である限り容赦はしないが、仲間の命を軽んじることは無い。考えよ、己が何を求め、そのために何が最善かを……」などと問う。


 問われた鼠たちは『忠義なく恐れから鼠長に隷属することは己の生きる手段に成りえるか』と考えた。


 鼠長に従い少年と戦えど命の消失は避けがたく、魔女の軍門に降るなら生かされると思った鼠たちは少年の言葉に耳を傾けた。


 生きるために鼠長へ隷属していた鼠たちは強者に隷属する当然の行為を行った。


 己が目的を果たすため、都合が良い場所を、社会を、人を、求め移動してきた少年は自分の価値観を鼠たちに押し付けた。忠義など存在しない――と。


 戦況が不利と判断し、翼を羽ばたかせ、逃走する鼠長を深追いしなかった少年は魔女の勝利宣言を待った。

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