第4話

【表現】『』は口に出さぬ言葉


 人里や町を襲い資源を略奪する魔族まぞくは人間を害する悪である。


 人間社会の常識は二人の英雄に魔族と戦う理由や正当性を与えた。


 この世界に魔族が居なかった頃、建てられた城は〝侵略された地が魔界まかいと定義される直前〟に初代の魔王に奪われた。


 略奪された末に魔王まおうの所有物と成った城を探索する少年は物陰から感じる魔族たちの脅える様な視線に気づいた。


 何故か自信に満ちていた魔女まじょと異なり不安げなゴブリン(魔族)たちの視線を受け続けて居心地が悪くなった。


 『害意は無い』と伝え、脅える視線から逃れたかったが魔族を殺した過去は説得し得る期待を失わせる。


 『今の自分が出来る事』を考えた末、悪化しない様に相手(魔族)から主導権を奪わず、魔族の視線に気づかぬ人間を演じた。


 良い匂いに刺激されて空腹を訴える身体に逆らえなかった少年は発生源を探した。


 たどり着いた部屋からは包丁の音が微かに聞こえる。


 開かれた扉の隙間から漏れる音から『魔王城の料理人が何者なのか?』と興味を抱いた。


 覗こうと顔を近づけた少年は扉を開けて現れた推定2㍍のオークから睨まれた。


 手に持った包丁を警戒した少年はゴブリンたちを脅えさせてしまった。


 ゴブリンたちを脅えさせないために平常心を心掛けた少年は『自分を誘惑した魔女の仲間を信頼しよう』と言い聞かせ、自分が抱く警戒心を解こうと頑張った。


 相手が自分に害意を抱いていないと断定できない状況で刃物を意識しない程、油断する事が出来なかった少年は空腹を知らせる音に救われた。


 オークから「リビングで待っていろ。完成した朝食を運ばせる」と告げられた少年はオークに指示されて脅えながらリビングへ案内するゴブリンを慎重に追った。

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