第22話
その横で未羅は暢気に絵本を読んでいた。
その絵本の主人公は弱虫だった。
家族に守られ、いじめっ子に虐められ、まだ勇気も何も持っていない子だった。
ある日大きな災害が起き、その子は一人になった。
一人で生きて行かなくてはいけなくなった。
自分と同じ境遇の仲間と出会う。主人公はパンを一つ持っていた。
主人公はそのパンを半分その仲間に与えた。
そして二人で瓦礫の下敷きになっている人を助けた。
一緒に助けた事で二人に絆が生まれ、助けられたもう一人も加わり仲間は三人になった。
実はこの絵本、境の手作りだった。境の村が出来た始まりを絵本にしたものだった。
「未羅何を読んでいるの?」
みんなが深刻そうな顔をしている時に未羅は笑顔で絵本を見ていた。
「境先生の描いた絵本だよ、画面の中の人達、辛そう、大変そう。だけど皆、その人それぞれが前向きに自覚をもって前に進むことじゃないのかな?ユタ君みたいにそれすらもできない状況がある人もいるよね。それ以前の問題と言うか、とことんついていない人と言うかさ、私もね、境先生に拾ってもらうまで一人だった。お父さんもお母さんも急にいなくなってお腹空いて。もう死んじゃうって思って、大好きなクマのぬいぐるみとお守りの黄色い石をもって路地の隅に座っていたの。すぐに境先生に拾ってもらえたし私はあんまり辛い思いしてない。お腹空いて寒くて辛かったけど、今がとっても幸せだから」
未羅は当時を思い出してか絵本をギュッと握りしめた。
境が未羅の背を撫でながら話し始めた。
「俺、その石神様たちの力、今すぐじゃなくても少しずつ広める事ってできないのかなって思うんだが。ヌイの能力は悪意の中から少しだけ善意の気持ちに戻すお手伝いをする事。ナリの能力は人の心を惑わせ幻影を見せる事。デビ、蛇神の能力は悪い心を吸い取る事そして、この罪車は乗せた者に罪意識を洗い流すための夢を見せれるんだろう?そんだけ能力があればなんかやれるんじゃねーか?」
境の言葉に皆がびっくりしたように頷いた。
「なんでも急に願いを叶えるなんて無理だ。一歩一歩が大事なんだ。俺達はそうやって今の村を作ったんだ。人それぞれ一人一人が変わんなきゃ世の中なんて変われねーよ」
境の言葉にヌイが感心したように頷いた。
『確かに、罪車は死んだ人専用でしたが、何か電波を使い、想いをふりまく事で、人々の心に良い心の種を植え根を張り少しづつですが変えていくことが出来るかもしれない』
ヌイの言葉に表情に意思を加えたような明るい表情で豊が顔を上げた。
「電波……歌、歌はどうだろうか?」
恥ずかしそうに語尾は小さな声になる豊だったがその提案に未羅の表情は活き活きし始めた。
「私、ユタ君の歌好き。ユタ君が教室の掃除を一人でしてる時、口ずさむ声を聴いたの。私、廊下で拭き掃除してたんだけど耳をすませてたら聞こえてくる声にジーンて心に響いたんだよね」
未羅の言葉を聞き豊は真っ赤になった。
「あれは僕が作ったでたらめな歌で、あんなの歌えないよ」
いつもは出さないような豊の大きな声に周りのみんなは驚く。
「俺、豊の歌、聞いてみたい。へたくそでもいいよ。心がこもっていることが大事」
境は笑顔で笑い豊の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
「よし、豊、歌は何曲ぐらい作ってるんだ?」
地図を広げながら陽は言う。
「植える種もその場所、場所に有ったもんが良いだろう?色んな思いで廃れ切っている世の中を変えるんだ。親見捨てられて人の事を信じられなくなった奴ら、戦いに勝たないと生きていけないと思っている奴ら、いろんな差別に脅えて暮らしている奴ら、世間や社会に見放されている奴ら」
陽の言葉に豊は不安そうに自分の思いをつづった紙切れを見つめた。
「じゃー私も歌、考える」
未羅が言う。その言葉に境も続く。
「俺も下手かもしんねーけど考える」
境は照れている様に横を向いていた。
「じゃー善は急げ、この星を変えるきっかけを作らねーとここに下りてまで生まれ変わった意味ないしな、まずはそうだな豊が居た所の上空に行くか」
陽はそう言葉を継げると罪車にエンジンをかけた。
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