第20話


 この世界は何処?

 何だか見覚えがある。

 あっちょっと違うけど僕が前居た大木の傍に似ている。

 あの時の様にホームレスもいっぱい居るし。

 けどあの場所じゃ無いみたいだ。




 豊の目の前に広がっている風景は以前、豊が暮らしていた場所と似通っていた。

  



【助けてくれ、殺されちまう】




 あの青年の声が豊の頭の声が聞こえるが、何処にいるか分からない豊はゆっくりと声に向かって進む。


 声のありかはゴミ箱の外だった。

 小さな虫が多くいてちょっと遠くにゴキブリが見える。

 声は小さな虫の中にいた。




【なんもかんもでか過ぎんだよ。ここ何処だよ。】




  青年の声はまだ響いた。




  困惑していた豊だが、豊の傍にはヌイが居た。



『罪がある人の多くは自覚をしていない人が多い。弱者の立場は弱者になってみないと分らない。ここで彼は弱者の立場を学ぶんです。小さい虫になって追われて、必死に生き延びるかもしれない。しかしいつも恐怖と隣合わせです。大きな虫に食べられても、この世界は終わりではありません。心が洗われるまでそれが続きます。それが罪車。しかしこれは彼の夢の中の世界。周りの者は私達以外、作り物です』

 


 ヌイの言葉に豊は心を痛めた。



「僕達は見てるしかないの。あの青年の叫びが、こんなに聞こえるのに僕は何もできないの?」

 


 豊は逃げている虫達を見つめる。

 ゴキブリは小さい虫など眼中にないようでゴミ箱の中身が気になっている様子で小さい虫を追うのをやめゴミ箱によじ登り始めていた。



『豊さんは彼が憎くないのですか? 彼の安易な思い付きで闇氏は三年も、青年の変わりに刑務所に入れられたんですよ?』

 

 闇との思い出を思い出し豊は拳を握り締める。



「だけど、僕、お腹が空いて目の前に食べ物が有ったら、僕だって犯罪を起こしていたかもしれない誰だってその可能性はある」



 豊は自分の過去を思い出しているようだった。



『だけど豊様はお腹が空いても盗みませんでしたよね、それにね、罪を抱えたままだと苦しいんですよ。まあなんともない人種も中にはいますが。そういう人にはこういう風に罪を洗われることはチャンスなんですよ。一からやり直す、チャンス』

 


 ヌイの言葉に豊の目が見開いた。



『でも、僕も豊様に甘いんですよね。これ以上豊様が苦しんでいるのを見るの僕も辛いです。豊様、私の手を握って下さい。あなたの力も必要なんです。僕の能力覚えてますか? 僕の能力、人の気持ちを操作する、悪意の中から少しだけ善意の気持ちに戻すお手伝いをする事。それが僕の力です。豊様の優しい気持ちを少しだけ彼に分けてあげるんです。人は誰しも初めから悪人ではない。悪人になる前の彼の心に呼び戻すのです』

 


 ヌイの言葉に豊は頷き、自分にそんな心はあるだろうか? 

 そううろたえながらヌイの手を握った。

 


 ヌイの豊が握っていないもう一つの手(見かけは犬なので前足と言った方が正しいだろうか)から青い光が漏れ一匹の虫を照らす。




 



 豊の頭の中に青年の少年時代。

 両親に相手にされず教育ばかり受けさせられ、友達と言えばお金でしか繋がれない友達しかいない。

 そんな映像が頭に浮かぶ。



 そして少年の時はさらにさかのぼり、二歳ごろ初めて父らしき人からプレゼントされた子犬を抱え上げ笑っている少年の姿に戻った。



 気が付くと照らされていた虫も消え、豊の目の前にはフロントガラスが見える。


 膝にヌイを乗せ車の助手席に座っていた。




「坊は甘いな。あんなもんじゃ罪を洗われたかどうか、まあ、いっか」

 






 後ろ座席には、さっきまで眉間にしわを寄せて座り、眠っていた青年だったが、眉間の皺は消え、安らかに眠っているようだった。


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