第15話

「なんかさっきから何を言っているか分かんねーが、どうやって行くつもりだ? 隣町と言っても豊が前居た所の先だろ? かなりの距離だぞ。未羅も居るんじゃ歩くとどれぐらいかかるか分かんねーし」

 話に置いてけぼりにされていた境が現実問題、交通手段はどうするかを聞いてきた。


『心配ご無用。その為に私達の能力があります。ナリは人の心を惑わせ幻影を見せることが出来ます。なのであなた方の姿を違う姿に見せたり、上手く、つじつまが合う様に思考を変えてしまうことが出来るのです。私に策があります。まずは、闇様を取り調べた警察署に参りましょう』


 ヌイは策があると言ってはいたが結局、警察署までの移動手段はない為、徒歩という事になり旅支度を行う。

 豊と未羅と境はヌイとナリを連れて天使の書を持ち、境と未羅が住み慣れ豊の第二の家になっていたこの町を出発する事になった。

 

 上村は豊の部屋の扉を開けると居間の部屋の椅子に腰かけ眠っていたが、すぐに目を覚まし僕達が旅立つ事も何も不思議がらず快く見送ってくれた。


 これもナリの力だと言う。


「未羅と境も他の皆みたいに今のナリの力で何とかできなかったの?」

『と言いますと? 』

 豊の言葉にヌイが問いかけた。

「未羅と境を危険な目には合わせたくない。僕一人でも大丈夫だよ」

 こそっと豊はヌイに耳打ちする。

『そんな、豊様、あの二人を連れて行かないのはナリが納得しません。私は豊様をずっと見てきましたがナリは未羅さんと境さんをずっと側で見てきてあの二人と離れたくないのですから、それに豊様も何だかんだと嬉しそうですよ?』

 ヌイは豊の耳元でそう言った。

「何、まだ何か言っているの?」

 未羅が豊を睨んだ後、タジタジになる姿の豊を見てヌイはクスクスと笑った。


 いざ出発と扉を開けると家の前に古い軽ワゴン車が止まっており運転席には眼球が緑色の中年男ヤスが座っていた。

 そう、豊がこの町に来て早々寝込んだ時、見舞いに細工菓子をくれたおじさんだ。


「ヤス?何でだ」

 突然のヤス登場に驚き境が声をあげた。

 

『この男性にはナリの術がきいていない様ですね』

ヌイの声に驚く豊である。

 運転席の窓を開けヤスが顔を出す。

「警察署までの移動手段が居るだろう?」

 そう言ったヤスは全て分かっているという様な顔で笑った。


「お前達の声聞こえていたけどな、まずは警察署なんて暢気なこと言っていたらいつまで経ってもたどり着けやしねーよ、それまでに闇の奴が死んじまうわ」

 ヤスの言葉にヌイの耳が反応する。

『あなたは一体』

 ヌイが思わず呟き、豊が慌ててヌイの口を塞ぎ只の犬のような振りをさせる。

「そんな芝居する必要ねーよ。俺はこの世界に来る前の記憶がある。と言っても思い出したのはついさっきだけどな」

 そう言ってヤスは悪代官の様に嫌な笑みを浮かべた。

「俺は向こうの世界では闇の双子の弟だったんだ。つまり俺も閻魔様の甥って訳」

 まだ不思議そうに話しが呑み込めていない一同にヤスは言葉を続ける。


「俺はこんな親父になっちまったから分かんないか? 闇がこの世界で災害に巻き込まれて記憶喪失になった緊急事態で、上でリイの親父さんとお袋さんが慌ててな、叔父さん、ああ、閻魔様の事だが今回は自分の責任でもあるからと俺が慌てて追っかけさせられたって訳だ。この世界では闇の年の離れた実の弟だけどよ、運悪くまた別の災害ですぐ離れ離れになっちまったがな」

 豊も少し思い出してきた記憶と照らし合わせ一人の青年の顔が浮かんだ。

「陽?陽なの?」

 豊の驚く声にヤスは皺の多い顔をさらに皺だらけにし、笑った。

「おっ思い出したか?まあ俺も記憶なくしちまって役立たずになっちまってたんだがな、でリイが封印を解いた時、俺の記憶も戻ってな、向こうの世界とも連絡が取れるからよ、役目を終えた古い罪車を借りてきたって訳さ」

 おどけてヤスが笑いそう言った。

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