10話:おじさんと大司教

 ――ガチャリ。

 看守が牢屋の錠前を開ける。

 ようやく、大司教との接見が許された、って感じか?

 待ってました!

 何日もこんなきったねーところで待たせやがって!文句の1つでも直接ってやらんと気が収まらねぇーし!が驚異的なクレーマー気質の持ち主だってのを見せ付けてやるぞぃ!

 ついでに、大司教とやらがどんなツラしてんのか、おがんでやろう。

 喧嘩は弱いが、口喧嘩では負けない、仮に負けてもレスバトルだったら最強、それがの強さ♪

 いったるで、いったるでぇ~~~!


 看守が重々しく口を開く。

「そっちのデカパイは、ここで待っていろ」


 ――っ!?

 むきぃーーー!

 誰がデカパイじゃいっ!いや、デカイけどッ!

 あったまキタ!

 大人しく牢屋で待ってやってたのに、このガキャ~!


「とぅ、当て身!」


 ニャルロッテを引き連れ、出て行こうとして一瞬、背中を向けた看守の頸筋くびすじにチョップ。

 看守は、ギャッ、と一声上げて気絶し、倒れる。

 うむ、元の世界では決してありえないだろうが、こっちの世界ではこんなドラマチックなアクションを容易たやすく行える。


 攻略本によると、芝居しばいがかったアクションや演出過剰な演技、大げさなセリフ回しに身振り手振りなど、派手なほうが効果が高くなるらしい。

 なので、当て身、と云ってみた。

 そりゃそうでしょ?

 普通、当て身ってしゃべりながら当て身するヤツ、おらんやろ?w

 とぅ、ってw

 何度も通った声優養成所で学んだ表現力豊かという名の“臭い芝居”が案外あんがい役に立つ。やりたくもない舞台稽古げいこを何度もやらされたっていう、あの無駄な努力が、何故か異世界で活きてきた。

 支払った膨大な学費分、こっちの世界で取り戻してやんよ!


「パカちゃん様も一緒に行きましょう」


「うん、そのつもりだYo!」


 気絶させた看守に操り人形マリオネットの魔術をかける。

 これでコイツはの思うがまま、動かすことができる。

 さも、看守に引きつられて移動するかのように、不気味な廊下を進んだ。




―――――




「ほぇ~~~……」


 この大聖堂に着て初めて聖堂らしい、要は宗教色の強い内装の室内、礼拝堂、を見た。

 とは云え、それはイメージする神聖さとは真逆まぎゃくよそおい。

 不気味さを通り越して吐き気をもよおすほど邪悪なイメージ。アンチキリスト教的と云うか、悪魔崇拝的というか、オカルトじみているというか、ともかく、悪い意味で宗教的、且つ、荘厳。

 人骨と四足獣、爬虫類とおぼしき白骨を組み合わせた奇っ怪な骸骨標本に十字をモチーフとした印章、なにかの動物の皮に謎の焼き印がずらり、ネズミやコウモリ、オオカミ、ヤギなどの剥製に血文字が記され、黒い三角頭巾を被った半裸の女性たちが毒々しい紫色の泥の上で祈祷を上げ、せるほど香草をいぶした煙が充満する。

 剣を象った十字を刻んだ壁画の前には、まるで解剖標本をあしらったような僧衣に白骨を思わす金属装飾をつけた、でっぷりとした初老の男が立っている。


「なぜ、そのけがらわしいオッパイ悪魔まで連れてきたのだ?淫売婦いんばいふ特有の腐卵臭ふらんしゅう目眩めまいがしそうだ」


 オッパイ悪魔?

 それって、のことか?

 淫売婦だとォ?バカヤロウ!中の人は、四十面しじゅうづら下げて童貞じゃい!

 くぉーの~、元来、人様ひとさまの容姿をとやかく云える立場じゃねぇ~が、このブサイク、ただじゃおかんぞぃ!


 脂ぎった分厚い唇からチロチロと舌を出しながら、五本の指全てに金銀細工をあしらった短い指をこちらに向け、命じてくる。

「まあ、良い。その場にひざまずくがよい、あわれな子羊たちよ」


 ――なにィ!

 も言われぬ見えざる力が体全体にのし掛かり、とても立っていられない。

 なんらかの魔術か?

 強制的に跪かせようとするなんらかの力が働いている。筋力で抵抗できるような代物ではない。

 <呪払ディスペル>――術を打ち消す。

 ヤツの魔術は払ったが、しかし、ここは従っておこう。術にかかったと見せ掛けておいた方がすきを突きやすい。


「小さき娘よ、其方そちだな?預言を聞き、石板を授かったという者は?」


「はい、さようです、大司教様」


「うむ、神聖交信にて其方の故郷の司祭から話は聞いておる」


「――はい」


「すぐに祓魔ふつまの儀式を執り行うゆえ、この後、身を清めよ。そして、愚者ぐしゃの石板は私が自ら清めるゆえ、そこに置いて行くのだ」


「祓魔の儀式!?悪魔ばらいをわたしが?それに、愚者の石板とは??」


「預言というものは、下賤げせんの者が聴けるものではない。其方が聞いたのは、悪魔のささやきに他ならん。

 愚者の石板とは、呪われし呪物。人をかどわす悪魔の詐術さじゅつがかけられた不吉な物。即刻、呪いを祓わねばならん」


「――そんな……」


 そ~ら、キタ!

 やっぱ、な!思った通りだ。怪しい、と思ってたんだよ。いや、怪し過ぎんだろ、ここは。

 ニャルロッテの石版はのスマホに通信ができ、それを隠匿いんとくしようとし、つ、ニャルロッテ自身の口封じを行おうってのは、正にポンコツ女神が云ってた、聞く耳を持たない、を実行する上での常套じょうとう手段。

 要は、こいつらがポンコツ女神たちの言葉を無視する悪党どもってわけで、それがこの世界の主要な宗教だった、ってオチだろ?


 予想通り、だ。

 カンタン、カンタン!

 正直、ここまで付き合ってやる必要もなかったくらい手の内バレバレだぜ、大司教のおっさん!

 つ~か、このシナリオ、安過ぎる!

 こんなストーリー、パッケージゲームで出したら、確実にクソゲー・オブ・ザ・イヤー候補だ!


 まぁ、いいや。

 このチャプターはもう終了でおk!

 大聖堂編は、終わり終わり。

 さぁ、攻略開始、だ!

 さっさと大司教ぶっ倒して、ジ・エンド、だ。


 ――い・く・ぜ!

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