8話:おじさんと信仰

「そうえば聞き忘れてたんだけど、うぬらって一体、どんな宗教なの?」


「えっ!?」


「え?アレ?、なんか、おかしなこと云った?」


「いえ、大魔王大天使パカちゃんさまともあろう御方おかたがお尋ねになられるくらいです。わたしを試されておられるのですよね」


「あっ、そうそう、そうなのYo!――で、どういうスタイルの信仰してるのかな~、って確認だYo」


「はい。救世主教メディウム唯一絶対ゆいいつぜったい空前絶後くうぜんぜつごの超絶たる存在であるわれらが究極神“メディア”の教えと導きを伝えております。当然、神をお助けなされる天使様への信仰もないがしろにはしておりません」


「メディア?……魔女、いや、この場合、女神かなにかかな?」


 知ってる!

 ギリシア神話、だっけか?

 とあるゲームやアニメで聞いたことあるぞぃ。

 えてるぅ~、

 歴史の知識は皆無だけど、ヲタ知識は豊富。

 よし、このヲタ知識を利用して様々な状況に対応可能な万能魔法を作っておこう。

 スマホの魔法開発ツールを開き、効能こうのうを記載、魔術名を『ヲタオタクスキ知識エンティア・エスト・力なりポテンティア』としておこう。


「いえ、女神というわけではありません。教えでは神にはわたしたちのような性別はありません。ですが、時に男神、時に女神としてわたしたちを導くとあります。

 パカちゃん様が女性の姿をとっているのも、神と同じその力の一端いったんだと信じております」


「あ~、まぁ、そうねぇ~」


「だからこそ、パカちゃん様から女性とも男性ともつかない、不思議な力の律動りつどうを感じます。まさに、これこそが神の奇跡のなせるわざだと信じております」


「――せやな……」


 なんと――

 から女と男の両方を感じ取るとは、この、結構鋭いな。

 外は完璧なはず。声さえ、今は完全に萌え声。中の人、つまり、おじさんが漏れ出しているとすれば、物の考え方くらい?

 ――いや、違う!

 そうだ、は男の娘キャラで売っていたわけじゃない。あくまでも、バ美肉。中の人がおじさんであることを公表し忘れたものの、女らしさを強調したり、演技したことはない。要は、男であることを本来、隠していない。つまり、カマホモ設定じゃなかった。

 それが、態度に出てるんだ。

 そういや、うっすらガニ股で歩いている気が。くしゃみもデカけりゃ、独り言もデカいし、態度もデカイ。デカイのはおっぱいだけでいい!

 もう少し、女っぽさを作らんとバレちまうな?

 VRと違って、異世界とは云え、リアルな場で中の人がおじさんとバレちまったら、がわが側だけに相当ヤバイぞ。

 だけは絶対に避けんとな。


 ――ん?

 いや、なんかおかしくないか?

 ちょっとした違和感がある。

 なんだろう、この違和感。

 宗教、信仰、神、天使、教え、そして、目の前にいる聖職者の小娘に聖都……

 アレ?


 あ゛ッ!?

 そうだ、あの小娘女神こむすめがみのセリフ。あいつの説明だ。

 たしかアイツ、この星っつーかこの世界の混乱を収める為に神々が色々アプローチした、みたいなこと云っとった。

 でも、この世界の住人たちは、その神々の声に聞く耳を持たなかった、って説明してた気がする。

 なのに、神だのなんだの、やたらとそっち系が浸透しんとうしとる。

 相反あいはんしてねーか?

 どうなってんだ?


 もしかして、あのポンコツ女神の発言自体が思い込みだったのか?

 そもそも、アイツを女神だと証明することができない。

 だって、アイツが女神っての、アイツの自称だもんな。

 でも、そうなってくると、がこんな謎世界に転生してること自体に疑問が生じる。

 どういう事だ??


 こっちの神と向こう、要はの世界の神ってのが抑々そもそも違うモノなのか?

 旧神と旧支配者みたいなもんか?

 いや、それ以前に、神ってなんだ??

 そもそも、なんでは、俺はこんなワケの分からない場所に飛ばされて、女の恰好してんだ?夢か?夢なのか?めない夢があったとしたら、それは果たして現実と区別つくのか?

 アカン!

 哲学過ぎる!

 よし、の特技、“考えるのを止めよう”発動だ。

 フーーー――スッキリ!

 は趣味以外の厳しい現実を突き付けられると、どうにも激高げきこうしてトチ狂いそうになる。現実を無視して何も考えないようにしてクールダウンせんとな。



 さて、と――

 大司教がおるっていう大聖堂とやらには、まだ着かんのか?

 この街、結構デカない?

 聖都って呼ばれるくらいだから、そりゃそれなりの規模は予想してたけど、いつまで経っても大聖堂らしき建物見当たらん。そもそも、聖都って雰囲気でもねーんだけどさ。


 大通りを真っ直ぐ歩いているだけっちゃ~だけなんだが、もう何時間も歩きっぱなし。

 こんなに遠いんなら、やっぱ飛んで移動したほうが良かったのかもな?

 でも、空を見上げると、有翼ゆうよくの爬虫類的な生き物がぐるぐると飛び回っている不気味な光景が広がっている。

 あんな薄気味悪い上空を飛行するのは、考えるまでもなく野暮やぼなんで、徒歩しか方法はなかったんだけどさ。


「パカちゃん様ッ!見えてきました、アレです、大聖堂!」


 ――ん?

 ニャルロッテが指差す方向に目をやる。

 遠くに、やたらおどろどろしい巨大な建物、聖堂というよりは悪魔の城を彷彿とさせるような、やたら禍々まがまがしい建造物がうっすらと見える。

 なんか、異星を舞台としたエイリアンの巣窟そうくつ、もしくは、リアルな画風で描かれた毒々しい万魔殿パンデモニウムちっくな様相ようそうなんだが。


「えー!?あの不気味で邪悪さ丸出しの建物が大聖堂なのォ??」


「わたしも初めて見ますからよく分かりませんが、わたしのおりました教会とは全然、雰囲気が違います」


「……いやー、怪しい!怪しすぎるだろ、アレはっ」


「怪しいかどうかは分かりませんが、近寄りがたい雰囲気が逆に神々こうごうしい、とも云えます」


「いやいやいやいやっ!神々しくはないって!禍々し過ぎて、もう、悪い予感しかしないYo!」


「とにかく、行ってみましょう!大司教様も聖板タブレットとパカちゃん様を心待ちにしているはずですから」


 ――うーむ。

 前向きなお嬢ちゃんだね~――

 まぁ、いいだろう。

 行ってみなけりゃ分からんしな。


 その時、はスマホに頻繁に着信していたSMSの確認を忘れていた。

 後で気付いたんだが、SMSには<緊急速報「危険」>の通知。

 もっと、気付きやすくしてくれよな、緊急速報!

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