2話:おじさんと恐怖の大魔王

「あのぉ~、なぜに俺が大魔王に?」


「それはおじさんが腹黒ド変態野心家だから~、なのです!」


「腹黒はまぁ分からんでもないが、ド変態とはなんだ、ド変態とはっ!」


「美少女VTuberブイチューバーになってリスナーさんからチヤホヤされて喜んでたでしょ?」


「――――ぇぇ、まぁ……」


「それが何よりの証拠しょうこです。かわいい、とか云われてチヤホヤされて喜ぶ腹黒どスケベくそザコメンタル野心家なのですよ、おじさんはっ!」


「――いや、まぁ~、生涯でアレだけ注目されたのは初めてのことだったんで、そりゃ~、ほんのちょっと調子に乗ってしまった、と云うかぁ~……」


「ホラッ、それ!それが何よりの証拠です。かわいいかわいい、と乗せられてまんざらでもないって勘違いした腹黒ドMどスケベくそザコメンタル野心家童貞ブタ野郎なのですよっ、子供部屋おじさんはッ!!」


「――あのォ~、ほぼ、タダの悪口になってますけどぉ~……」


「コホン!気を取り直して、それでは説明しますね?」


「はい、お願いします」


 女神を自称する彼女の表情が、ふいに真面目まじめになる。

 あら?

 いいですねぇ~♪

 彼女、よく見りゃ美人さんですよ!

 痴女みたいな薄衣うすぎぬまとって、それってもしかして、誘ってる?

 こりゃ、とんでもない、オサセ、ですよ!

 誘ってやがるんですよ、俺を!

 まったくもって、け・し・か・ら・ん!


「――A long time ago in a galaxy far, far away....」


「あっ、すいません!日本語でお願いします!」


「…………遠い昔、はる彼方かなた銀河系ぎんがけいで、おじさんの住んでいる地球によく似た星の物語」


「あー……はいはい」


「その星で生活する生命たちは皆、互いに競い、争い、戦争の絶えない戦乱の大地と化していました」


「ほほ~う」


「神々はその星の動乱どうらんを収めようと、祝福と祈りをささげましたが、彼らは聞く耳をもたず、なおも互いに争い、混乱を極めました」


「なるほど、なるほど」


「そこで神々は一計をこうじることにしました。その星の全ての生命にとって大敵となるべく魔王を送り込み、恐怖を与えれば、皆が団結し、世界を救う英雄があらわれ、神々の声に耳をかたむけ、平和になるのではないだろうか、と」


「ふむふむ」


「しかし、こともあろうか、その星の生命たちは、魔王の存在を我先われさきに求め、争いはますますひどくなってしまいました」


「あらら~」


「神々はさらに一計を講じ、第二の魔王を送り込みました」


「おおっ!」


「ところが、今度はその新たな魔王をすがる者があらわれ、最初の魔王派と第二の魔王派、その他の第三勢力によって世界は更に混乱しました」


「ありゃ~、そりゃ酷い」


「ですが、神々はあきらめません!第三、第四と次々と魔王を送り込み、事態じたい収拾しゅうしゅうつとめました」


「――うんうん」


「残念ながら、かの星の連中れんちゅうは図太く、送り込んだ魔王ごとに派閥を作り、戦争は拡大、星中ほしじゅうを巻き込む世界大戦の様相ようそうていするに至りました」


「…………おい、神々ッ!だまって聞いてりゃ、あんたら、全員無能むのうか?混乱増長ぞうちょうしてどーすんだよ!

 んで、一体、何人魔王送り込んだんだよ?」


「――7人、です。たぶん……」


「たぶんってなんだよ、たぶんって!そんなに送り込んでそのザマじゃ、俺を送り込んだって、また同じだろ!」


 女神はいたずらっぽい笑みを浮かべ、人差し指を左右に振るう。

「ノンノン!それが違うのですよ!」


「……どこが?」


「おじさんには、今まで送り込んだ魔王たち全てを上回る圧倒的あっとうてきちからパワーを持った大魔王として、かの星に降臨こうりんしてもらうのですよ」


「なんですとっ!?」


「おじさんの持つ妄想力もうそうりょくは圧倒的です。その妄想力は、造物主の創造力に匹敵ひってきするほど、ヤベー感じ、なのです!」


「そなの?」


「そりゃそーですとも!

 そーじゃなきゃ、アラフォーにもなって、最早もはや夢も希望きぼうもないにも関わらず、性懲しょうこりもなく声優を目指し、つ、くっさい汗だく腹黒ドMどスケベくそザコメンタル野心家うすらハゲ童貞ブタ野郎子供部屋おじさんごときが、自ら好きこのんで巨乳の美少女キャラになりきって、かわいらしく痛々しいキモキモ生配信とかするワケないじゃないですか、ヤダー」


「――やっぱそれ、タダの悪口ですよねぇ~……」


「ともかく、世界を救うのは、いえ、世界征服できるのは、おじさんだけなのですよ!」


「――お、おぅ……」


 あっ、あつすごい!

 散々な言い草をされとるが、特段とくだん、反論するほどでもない。

 ――うむ。

 そう、俺はドMなんでなっ!

 いっそ、心地良い、かも?


「それにしても――大魔王にふんするのはいいとして、そもそも世界征服しちゃっていいわけ?それって平和になるわけ??」


「はい、問題ありません!大魔王おじさんを倒すほどの大英雄があらわれれば、そのかたに神々の声を届けさせますし、大魔王おじさんが世界征服しちゃえば、大魔王の権限で神々の声を強制して平和にすればいいんです!」


「前者はいいとして、後者はもう神々って云うより、悪魔のささやきだろ!」


「いいんです!平和になりさえすれば、もう、こっちのもん、なのです!」


「うわー……えげつなぁ~」


 女神は胸元から、巨大な頭陀袋ずだぶくろを取り出す。

 どこにそんな巨大な袋が隠されていたのか、さっぱり分からないが、目の前に出てきたんだから認めざるを得ない。

 まぁ、VRだと思えば、なんでもそこそこ許容きょようできる。


「女神の私から、大魔王おじさんにプレゼントォ~♪

 まず、最初にこれ」


「なにコレ?チョコレート?」


「そう、おじさん、バレンタインにチョコもらったことなさそーだから、時期はずれだけど、あげておきまーす」


「――ど、ども……」


 女神は指さし、

「あー、照れてるぅ~、きっもォーーーッw」


「――こ、こいつぅ……」


「さて、これからは本当に大魔王生活に必要なモノね。

 はい、攻略本」


「!?なに、コレ?」


「これから行ってもらう転生先の星の解説集と裏技について載ってる写本しゃほん

 大丈夫。神通かみつうの攻略本だよ」


 ――あやしい!!!

 なんか知らんが、途轍とてつもなくあやしい感じがする。

 まあ、もらえるもんは有りがたくもらっておくけどさ。


「それからコレ。VR変身ベルト」


「ん?なんだコレ??」


「これ、おじさんがいつもVTuberやってる時のキャラに変身できる奇跡のベルトだよ。身にまとうタイプだから、結構チートだよ」


 なに?

 つまり、ビジュアル的にパカちゃんになれる、ってことか?

 こりゃ、ありがたし!

 身にまとうタイプ、ってのが意味分からんが、ま、よしとしておこう。


「パカちゃん様まとってる時の魔王レベルはMAXになるから、あらゆる魔法とかスキルとか全て使えるからネ!」


「おおっ!なんか知らんが凄いな?

 ところで、転生先の星ってその~、レベル制なの?」


「そんなのあるワケないじゃん!ゲームじゃないんだからサ~……ちょっとは考えてよね~、常識でしょ!」


 ――こ、こいつぅ~!


「それから次にィ~、お楽しみ瓢箪ひょうたん


「??おたのしみヒョウタン?なんじゃそりゃ?」


「このお楽しみ瓢箪の中にはおじさんの最初の仲間を封印してまーす」


「おっ!?仲間?そりゃ、ありがたい!で、どんな仲間が封印されてんの?」


「天使のスライムちゃん、でーす!天使のスライムは本当にしゅごい!

 おじさんが好きそうな、女性の服だけ溶かす能力、を持ってるの!他にも48の技を持ってるから、色々試してみて。あと、気軽きがるに“天スラ”って呼んであげてネ♪」


「――くるしゅうない……」


 なんだかよく分からんが、コレはなかなかに、よき!

 なにに役立つかはサッパリ分からんが、なんとなくニュアンス的にアリだ。

 やるな、女神!


「それからコレ、はい、スマホ」


「……スマホ?」


「異世界に行くんだから、スマホ持って行かないと!」


「おっ、そうだな!」


「このスマホがあれば、女神である私といつでもどこでもメッセージ交換からお話までできちゃう!」


「……うむ」


「しかも、このSMSがしゅごい!」


「?ショートメッセージがすごい??」


「違うちがう、(S)スクランブル(M)女神(S)サービス!ピンチの時、これを使ってくれれば、私が緊急きんきゅう発進して助けちゃう、っていうすぐれ物!」


「……」


 意味が分からん。

 しかし、この女神、ノリノリである。


「それからコレ」


「なんだこりゃ?棒?杖?ワンド、とかかな?」


「オイニー、いでみ?」


「え?」


「いいから、オイニー、嗅いでみ?」


 ふむ――

 どれどれ。クンクン……

 ――あら、いいにおい。


「いいかおりがするな~」


「だしょ?だしょ?」


「ところで、コレ、なんなの?」


ひのきの棒」


「――えーと、もしかしてコレ……武器、とかですか?」


「ご名答!」


 なんでやねん!

 なんで、これから大魔王に転生して世界征服しよーっつ~奴が、ひのきの棒を装備しなきゃならんの?

 パワーバランス、ガバガバじゃねーか!

 リセマラを要求する!

 あっ!でも、もう1度、あんな恥ずかしい思いするのはイヤなんで、やっぱリセマラはなしの方向で。


「それから最後にコレ。コレが一番、重要なんだからっ!」


 彼女が手にしているのは、サークレットとか呼ばれる額飾ひたいかざり。

 ファンタジックな世界でよく見掛ける額から後頭部にかけて付けるアレ。

 なかなか、雰囲気出るよな、コレ。


「付けてみ?付けてみ?」


「あー、うん…………こうかな?」


「うん、うん」


「……よし、コレでいいのかな?どう?」


「――ププーッ!どう?とかwドヤるなしぃ~!w

 似合にあわねー、チョー似合わねーwおじさん、超絶ちょうぜつ似合ってねーしwww」


 ――お前は女神なのか、頭の軽いギャルなのか、はっきりしろ!

 っつーか、これ、なんだ?

 ただのアクセサリーってワケじゃないよな?


「これ、なんのためのアイテムなん?」


「あ~、それな!今から見せるから、ちょい待ち~♪」


 女神は右手の人差し指と中指をそろえて伸ばし、なにやらブツブツと呪文のような文言をとなえる。

 すると、サークレットが光だし――


「!!!!!!?ッッッいってぇーーーッ!こめかみ、痛ぇー!イタタタタタッ!!」


「どう?」


「どう、って――今、なにした!?」


「ソレね、私の云うこと聞かなかった時、おじさんを痛め付けるための拷問器具。

 最悪、頭パッカーンって割れるほど、締め付けられるから、私の言い付けはちゃんと守るんだゾ♡」


 くっそ、このアバズレ!

 とんでもねーモン、付けさせやがって。

 あんじょう、取れやしねー!


「おいっ!コレ、取れよ!こんなもん付けてたら、なんもできやしないだろ!」


「あっ!!!」


「……えっ?なに、急に?」


「そろそろランチの時間だぁ~♪お仕事タイムは取りえず一旦いったん終了だから、おじさん、早く行っちゃって~」


「ええっ!?おいィ?俺はまだ、その星だか異世界だかっての詳しい話、全然聞いてねーぞ!」


「あぁ~、攻略本見ておいて。それでも分からなかったら、スマホからヘルプページを参照さんしょうして。誤植ごしょくも大体、ヘルプで訂正ていせいしてあるからっ」


「えーっ!?誤植ありきなのかよ、この攻略本!」


「っるさいなァ~、早く行っちゃって!私が10数えたら、異世界転生するからねっ!」


「おいおいおいっ!」


「ハイ、3……2……」


「ちょ、待てよ!カウント10からって云ったじゃねーか!!」


「1……飛んで行きなボラーレ・ヴィーア!」


「うそーーーん!」




―――――




「……」


「…………」


「………………」


「……………………」


「…………………………」


「どこ、ココ?――とほほ」

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