3話:おじさんと爆乳

   ※   ※   ※   ※   ※



 どこだ、ココは?

 全く見覚みおぼえのない土地。

 もの凄い田舎いなか、いや、大自然と云ったほうが正しいのか?

 ふと、空を見上げる。

 なんてこった――

 月が2つ、ある。しかも、かなりデカイ。

 こりゃ、まいった。

 マジで別の星、っつーか、異世界にきちまったらしい。

 いかん!

 このままでは俺のザコメンタルごときでは、すぐにパニックになっちまう!

 冷静になれ!

 素数そすう、だ!素数を数えろ!

 2、3、5、7、11、13、17、19、23……29……31…………37………………41……………………分からん!

 キーッ!イライラするぅ~~~!

 呼吸、だ!呼吸を整えろ!

 ひーひーふ~、ひーひーふ~、ひーひーふ~……俺は妊婦にんぷかッ!


 くっそぉ~!

 最近、動画投稿と生配信でちょろちょろ小銭稼げてたもんだから、外に出ると滅法めっぽう弱い。

 特に太陽!きさまだ、きさまっ!太陽の光が苦手ッ!

 吸血鬼より陽光が苦手、それが俺のアイデンティティー!つまり、吸血鬼より吸血鬼らしい存在。

 まさにっ、真祖しんそ!いや、貧相ひんそう脆弱ぜいじゃく過ぎるだろ、俺ッ!!

 部屋ッ!俺の部屋!俺は、俺の部屋の中でこそ、光り輝く!

 決して引きもりってわけじゃねーんだが、家でこそ、実家の中でこそ、俺は偉大なる暴君タイラントになれる。

 暴君特権さえ発動すれば、なんでもそろう。カップラーメンからポテチ、コーラから三食昼寝まで、そりゃなんだって揃うんだ。

 嗚呼ああ、早く招き蕩う子供部屋アエストゥス・ドムス・アウレアに帰りたい。


 いくらなげいてみたところで、どうにかなるような状態じゃない。

 実のところ、すでにこっちにきて、すぐに彼女に電話した。

 彼女というのは、無論むろん、あの女神。

 名前も分からん、顔がいいだけのえちえち女神。

 あいつ宛の電話番号『0120ゼロイチニーゼロ-548ゴッデスハ-315サイコー』に何度けても通じない。

「――お客様のご都合により通話が出来なくなっております」……おいっ!フリーダイヤルなのに金払ってねーのかよ、あのポンコツ女神!

 どーなってんだよ!


 ――と、いくらあせってみても仕方しかたがない。

 俺も伊達だてに40年前後、生きてきたわけじゃない。

 お・と・な!そう、俺はOTONA!

 まだ、あわてるような時間じゃない。

 とにかく、あいつからもらったVR変身ベルト。こいつを使い、装備を固めよう。

 俺のような中肉中背ちゅうにくちゅうぜいのうっすら小デブじゃ、もし、ここがファンタジー色濃厚のうこうな世界だった場合、下手すりゃオークあつかいされかねん!

 女騎士相手ならいざ知らず、冒険者的な連中があらわれでもしたら、狩られちまうよ!

 さぁ、変身、だ!


 ――アレ?

 コレ、どーやって変身するんだ?

 やっべ、俺、使い方、分かんねーw

 そうだ、攻略本。

 まずはこの神通かみつうの攻略本で使い方を探す。


 あった。

 なになに?

 ほほう!

 このスマホに暗証番号を設定し、その数字を入力してベルトのバックルにセットすればいいのか。

 ん?暗証番号、三桁なのかよ?随分ずいぶん、ザルだな。セキュリティ、大丈夫なの、コレ?

 ま、いっか。

 よし!数字は~……――『829バビニク』に決めた。

 これなら俺以外、分かるまい。

 おっ!?SMS、着た。

 二段階認証かよ!暗証番号三桁っつーザルのくせに、そーゆーところはしっかりしてんのな?Ⅶpayナナペイ見習みならえよ!


 よっしゃ!

 なら、試してみるぞ。

 爆乳大魔王美少女VTuber“パラコッチディオイドゥミコシスプロクティティスサルコミュコシス・カーカスコッツオキシダイズドスプラッタードディスゴージガイ”に大変身だッ!

 数字をタッチ、8・2・9。

 バ・ビ・ニ・ク――スタンディング・バイ――「大変身!」――パ・カ・コンプリート!

 ウワ~ン、キュキューン、テッテッテテーテテテテーテテテーテテテーテッテテテー、フワーン、ブゥーン……レディース・エンド・ジェントルメン・ボーイズ・アンド・ガールズ・ビューティフル・ゴッデス・プラウドリー・プレゼンツ・アワー・スペクタキュラー・フェスティバル・ページェント・オブ・ナイト・タイム・マジック・アンド・イマジネーション・イン・サウザンズ・オブ・スパークリング・ライツ・アンド・ジ・エレクトロ・サイコ・ヘビーメタリック・ミュージカル・サウンズ!

 バスター・バスティ・サタニック・アークロード・ティラニカル・ホロコースト♡


 めくるめく光と音のハーモニー!

 冷たい白煙はくえんを巻き上げ、ぐるぐると回転。きらめく星々が収束しゅうそくし、爆発するかのように光り輝く。

 かねを鳴らす音がひびき、スラッと伸びた足が大地をみ付ける。引きまったウエスト、すらりと長い四肢、四次元的な曲線美を描く角、見る者全ての視線を釘付くぎづけする見事みごとなプロポーション。

 ばいんばいん、たぱんたぱん、と破裂音を立てて、そびえ立つチョモランマを彷彿ほうふつとさせる爆乳があらわわに。まるで、ちっちゃい重機でもせているかのような巨乳、あらぶりたけり狂う。

 口角を上げて満面のスマイル、ウインクしてキメ顔、ドヤッ!!!


「完成♡爆乳大魔王美少女パカちゃんさま、ここに推参すいさんしちゃったYo!」


 ふおおおおーーーッ!

 みなぎるゥー、みなぎってきたぞぃ!

 しゅごぉぉぉーいパゥアー、ちからパワーがあふれんばかり。

 すでに、伝説のスーパー大魔王のいきに達してるゾ!


 あのクッソ生意気な小娘女神こむすめがみ、ポンコツのくせに大魔王にするってのは本当だったのォ!?

 おいおいおいっ!

 今のこの力をもってすれば、国の1つや2つ、そっこー、ブッつぶせちゃうょ!


 あっ!

 今、気付いた。

 声も理想とする萌え声がナチュラルに出せてる。

 エフェクターもボイチェンも必要ない。

 しゅごごごごごーーい!

 魔力と共に声優力も上がってるっぽい?っぽい?


 よォーし!

 早速、世界征服しに行こぉー♪

 ん?ちょっと待って!

 その前に、確かこの世界には以前、何人かの魔王が送り込まれているって話。


 だったら話はか・ん・た・ん♡

 他の魔王たちをみーんな、の配下にしちゃうんだからねっ!

 いっくよォ~!


「どぉぉぉぅりゃあッ!」


 大地を蹴り上げ、天高く舞い上がり、爆乳大魔王、今、飛び立つ!

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