第3話 エグバート王国 第一王子 エドワード


 王国エグバートの第一王子であるエドワード・サンは戸惑っていた。


数日前、父であるサイラス王より、王国の王位を継承するように求められ、

いよいよ王位の継承式典が行われる日を迎えたからであった。


 エドワードは、少し憂鬱ゆううつな気分でこの日の朝を迎えた。


白い漆喰しっくいで固められた壁に囲まれた部屋のただ一つの窓から、はるか上空を流れる雲をゆっくり目で追っていた。


時折、窓際に吹き付けるそよ風が、エドワードの肩ほどまで伸びた金色の髪をなびかせる。


『旅に出たい』


ふと心の中で思った。


しかし、王位を継承したとなれば、旅に出るなど層々ないだろうことは、目に見えていた。


それでも、王位継承の話が持ち上がったころから、エドワードは自分の心の中で日増しに大きくなる気持ちを必死にこらえてきたつもりだった。


「王位など・・・ 」


そうつぶやくより仕方がなかった。


「エドワード王子、お迎えに上がりました」


王の間より来た二人の兵士のうちの一人が、部屋の入り口に直立して言った。


エドワードは無言で立ち上がると、兵士のいる入り口に向かってゆっくりと歩みを進めた。


白銀に輝く甲冑かっちゅうを身にまとい、肩よりやや上の辺りで整えられた金色の髪と肩口から垂れる青いマント。

後ろ姿は王族たる威風堂々いふうどうどうとした威圧感と荘厳そうげんな空気を放っている。


この数時間ぼんやり過ごしていた。そのおかげで心の中でもがいていた憂鬱ゆううつな気持ちを少し解消することができた。


様々なことに考えを巡らせていたが、王位を継承することを少し前向きに捉えることが出来るようになった。


背中から溢れでるエドワードの心模様は、もはや王位を継承する王家の者としての自覚の表れであった。


しかし、旅に出たいという欲求を完全に消化しきれたわけではなかった。


迎えの兵士を見る顔も、曇った顔であったに違いない。


王の間へ続く回廊かいろうを、先導する二人の兵士の背を眺めながら、表情を変えようと必死に気持ちを前向きにした。


いつの頃からだったろうか―


度々、城を抜け出しては、旅をするようになった。

幼い頃に母を亡くした。


悲しみに暮れていた時にふと、あの地平線の彼方かなたには何があるのだろうと思い始めた。


窓の外に広がる大地。


旅人が時折、城を訪ねてはまた地平線に向かって去ってゆく。


そんな光景を、じっとぼんやり城の窓から見下ろし眺めていた。


遥か彼方に見える地平線まで行ってみたい。


そう思いたって、王の許しを得て、数名の護衛ごえいに守られながら旅に出たのは、エドワードが十五になった頃だった。


あれから十年…


数え切れないほどの旅をしてきた。


それでもまだ、エドワードの心の欲求は、旅をしたい気持ちに溢れていた。

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