モーメント

綿麻きぬ

一瞬

 星なんて分からないけど、夜空を見ている。雲一つない澄んだ空だ。


 夜はもう12時を回っているだろうか? そんな時間だ。


 これはそんな時間に僕が考えた一つの御伽噺だ。




 昔々のとあるところに一人の男の子がいました。その男の子は明日で命が尽きます。それを彼は知っているのですが、普段通りに日々を送っていました。


 そこで彼は最後の1日をどうすればいいかを聞くために村のオババの所へ行くのでした。


「残りの人生をどうすればいいのですか?」


 オババはこう答えました。


「夜明けに過去の一瞬に思いをはせ、日が南中したら今の一瞬に思いをはせ、日暮れに未来の一瞬に思いをはせなさい。さすれば、お主の人生がどんなものか分かるだろう。後、明日の24時、ぴったりに命が尽きるだろう。それまで後悔しないようにしなさい」


「ありがとうございます」


 彼は礼を言って、その場を去ろうとしたけど、オババは彼を少し引き留めた。そして手に不思議な色の3つの石を持たせたのだった。


「この曙色の石は過去を、紺碧の石は今を、瞑色の石は未来を表している。お主が思いをはせたらこの石は消える。この石はお主への冥途のみやげだよ、じゃあな」


 彼はオババの言っていることがよく分からなかったのですが、今日もいつも通りに寝ようと思い床に就きました。あの石は枕元に置いてあります。


 翌朝、日が昇る前にパチリと目が覚めました。


 その瞬間、彼は死への恐怖に襲われました。死んだら何も残らない、死んだらどうなる? そんな不安に襲われるのです。暗い暗い闇の中に自分一人が取り残されるような気持ちでした。


 実際、日が当たらない闇の中にいました。しかし、曙色の石が光っているではないですか。彼を闇の中から救うために、一人にしないために。


 そこでオババの言葉を思い出しました。


「過去の一瞬へ思いをはせなさい」


 彼の過去はどんなものだったのでしょうか。周りに流され、平凡に過ごした、何もない過去でした。ただし、それは他の人から見たらというものでした。


 彼にとっては友達と喧嘩した日々も、勉強をした日々、魚釣りをした日々も、大事な大事な過去です。


 そしてそれらは一瞬でした。


 過去は一瞬だった、でもそれらは大事な大事な僕の糧になっている。


 それを彼は分かったのです。


 すると石は宙に浮かびあがり、砕け散りました。


 石が天に昇り、石の破片の辺りから空は曙色に包まれ、日が昇ってきました。


 それから、彼は過去が今に繋がっていることに気づきました。


 そんな彼は今の一瞬にも思いをはせたくなりました。


 しかし、今の一瞬への思いのはせかたが分からないのです。


 そういや、オババはこう言っていました。


「南中したら今の一瞬に思いをはせなさい」


 けれども南中まではまだまだ、時間があります。


 そこで彼は自分の家を片付けることにしました。家には過去の思い出が詰まってます。


 思い出は物ともに残ると言います。なので、物を処分するとなると、その思い出も薄れていってしまいます。


 なので彼は物を処分せずに、村の人に配ることにしました。


 村の人に配っていると日は南中しました。


 その時、彼は今という時間が今しかないこと、それは一瞬であるということが分かりました。そして、今は過去と未来を繋ぐ橋だと感じたのでした。


 その時、紺碧の石は砕け、村の人々の所へ欠片は受け継がれたのでした。


 ところで彼は村で唯一の癒し手でした。しかし、彼が亡くなると癒し手は消えてしまいます。


 村の人々はどうしたものかと悩んでいるとき、彼の元に一人の小さな女の子が駆け寄ってきました。


「私、癒し手になりたいの! 昔、あなたに癒してもらって、すごく心が温かくなったから!」


 その一言は彼の胸を熱くしました。


 すると、彼から緑の光が出ていき、女の子に移りました。


 それは「何か」が伝わった瞬間でした。


 その時、日は落ちていってました。


 彼の未来はもう少しで尽きようとしているが、それはちゃんと未来に繋がっていること。そして、これからの未来も一瞬であることに気づきました。


 すると、瞑色の石は砕け散り、空の星になりました。


 最後の瞬間を彼は自分のベッドで過ごしたいと思い、彼は潜ります。


 心安らかな気持ちで死へ向かっています。


 最期に彼は全てが繋がっていることに気がつきました。


 そして24時、彼は目を閉じたのでした。




 僕は思う。全ては一瞬で、繋がっていることを。


 さぁ、僕も寝よう。明日に繋げるために。



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モーメント 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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