第11話
「らっしゃーい!おうおう、神谷君じゃねえか」
「あ、親父さん。食べに来ました」
「チャーシュー大盛にしとくよ!」
「まじすか!」
店に入るなり、頭に手拭いを巻いたごついおっちゃんが気軽に話しかけてくる。
身長は高いし、がたいもすごく良いし、綾音に似てる要素が全くない。
似てるのは人懐っこいって所か。
綾音にはたまに来ている事は言っていない。
前、来たときに来るなって言われたからな。
「なんで知り合いみたいな話し方なの」
綾音が目を細めながら聞いてくる。
怖いから無視しよう。
「そんなことより早く食おうぜ」
「んー、怪しいな。...ま、いっか」
綾音はメニューを取ると上機嫌にどれを頼もうかと選び出す。
この店の雰囲気は異国っぽさがある。
目の前には木で作られた小さな猫の人形が何匹も置かれており、天井にはファンが回っている。
更には、糸でハンモックやギターがつるされていた。
初めて来た時は落ちてきそうで怖がっていたけど、次第に慣れていった。
入り口付近のスピーカーからは音楽が流れているが、何語かは分からない。
だけど、すごくリラックスが出来る曲だ。
「おーい、伸太郎。決めた?」
「あー、いつもの豚骨で」
「豚骨ってべたべたしてない?」
「そこがいいんだろ」
綾音は不服そうな顔をしながらオーダーをする。
「パパー。豚骨と醤油ー」
「綾音ちゃんはいつもみたいに半分かい?」
「...も、もう全部食べれるし!」
そういえば、綾音って結構小食だよなぁ。
たまに昼ご飯食べてないし、割り勘の時も無理して食べてるし。
そして、少し経って女性店員がラーメンを運んでくる。
「あ、みーさん。サンキュー」
綾音が女性店員に礼を言う。
へー、あの人みーさんって言うのか。
目の前に豚骨ラーメンが置かれる。
あぁ、この匂いが堪らない。
鼻から入ったラーメンの熱気が口の中にまで広がり、唾液腺を刺激し、食欲をそそる。
一口目はガツンとチャーシューから食べる。
あぁ!この脂のぎっしりとのっている感じが良い!口に入れて、舌にのった瞬間にとろりと溶ける。
きゃー!!もうたまんない!身体が溶けちゃう~。
「伸太郎って凄くおいしそうに食べるねー」
綾音は横で食べずにじっと俺を見ている。
なんかすごく恥ずかしいんだけど。
「ほんと、ここ美味いわー」
「...。」
綾音がじっと俺を見てくる。
え、なんで自分の食べないの。食べづらいんだけど。
「ど、どうかした?」
「なんか、すごい嬉しい」
「...お前、なんか丸くなった?」
「いやー、最近将来の事をよく考えてるんだけどいろいろ悩んでてねー」
「その話は待て。まずは食べよう。腹が減っては戦はできん」
「あたしの悩みは戦レベルって言いたいの?」
「...」
「ごちそうさまー。くー!美味しかったー!!!」
「...て」
綾音がプルプルと震えながら机に突っ伏す。
「もう無理!食べて!」
「まじかよ...」
「...まじ。死ぬ」
綾音は半分くらい食べたラーメンをすっと俺の前に置く。
美味しいって言っても二杯目はなぁ。正直きついっす。
「はぁ、一杯食べないと大きくならないぞ。一杯だけに。ははは」
「は?」
綾音がジト目で見てくる。面白いと思ったんだけど...。
「身長のびねーぞ」
「身長は関係ないもーん」
「こんなにおいしいのになぁ」
...無理!無理やり喉に押し込んでて正直、味が分かんない!
「あーあ、なんで身長も胸も大きくならないんだろ」
綾音は背筋を伸ばし、自分のまな板の様な胸に手を置く。
「食わねぇからだ」
真横でそんなことするのやめて!貧乳って言っても少しはあるんだから自重して!目のやり場に困る!
「伸太郎は胸大きいほうが良いの?」
「いや、無理だな。圧迫感があって正面から見れない。花音とかふわふわしてるけど喋ると逆らえないからな、胸に負ける」
「そうそう!あんなのただの脂肪!やっぱ小さいのが正義よねー」
綾音は開き直ったように張ることの出来ない胸を張る。
「壁だな」
「あ?」
「ごちそうさまー」
隣から殺気を感じるが、勘定をしに行く。
「六百円です」
みーさんと言われていた女性店員がレジに入ってくれる。
「あ、二人分なんで千二百円で」
「ありがとうがざいました。またよろしくおねがいします」
「神谷君、また来てくれよー」
「ごちそうさまでした、また来まーす」
「パパ―、伸太郎送ってくるー」
送ってくるって言っても家近いんだよなー。
店を出ると、辺りは暗くなっており、涼しい夜風が吹いていた。
「うわー、冷えるねー」
店から出てきた綾音は寒そうに歯をカチカチと鳴らし、ぶるぶると震える。
なんか猫みたいだ。
「足が一番寒そうだなー。スカートやっぱ短いんじゃない?」
綾音の白くて細い足の太ももまでが外に見えていた。
「えー、でもかわいいじゃん」
「ナンパには気をつけろよ。体目的の人に声かけられそうで怖いなー」
「わたしを心配するとかもしかして気が合ったり?」
「あー、そうだな。お前がパソコンの中に閉じこめられててもっと清楚だったら気が合ったな」
「それ2次元だし、もうわたしじゃないじゃん」
くだらない話をしていると、自宅へと着く。
「えっと、着いたんだけど…」
自宅に着いても一向に帰ろうとしない綾音が寒そうに身体をぶるぶると震わせる。
「んー、喉乾いたー。ジュースほしいー」
「冷蔵庫に置いてるはず。勝手にどうぞ」
「やったー!!」
両手を上げて、無邪気に喜ぶ綾音を見て神谷はため息をつく。
これ、俺が綾音の帰りを送らないといけないパターンだよね。なんであの子ついてきたの。
綾音は神谷の家のドアを開けると、すたすたと入っていく。
デ、デリカシーの欠片もねぇ。
家の中に入ると、既に俺の部屋で綾音がジュースを持ってベッドに仰向けで寝転がっていた。
暗っ!電気もつけずに何してるんだ。
あと、清楚系が履きそうな白い布切れが見えているが言わないでおこう。白好きなのかな?
「んで、さっきの相談って何」
神谷は自分の椅子に腰かけて、ため息を漏らす。
おー、窓から見える星空綺麗だなー。
「...怖いんだよねー」
「何が?学校生活?」
「それもあるけど、三年後にはもうわたし達戦ってるんでしょ」
「戦ってるかどうかは分かんないけど、軍には確実に入ってるはずだね」
「そっか、この三年間を大事にしなきゃなぁ」
「...分からないぞ。三年もたたずに戦いが始まったら俺らも駆り出されるだろうからな」
綾音はジュースをくるくる回していたがピタっと止まる。
「えっ!?明日戦争が起きるかもしれないの?」
「そりゃね、敵がいきなり仕掛てくるかもしれないだろ?」
「確かに、なんか今考えたらゾッとした」
綾音が再びジュースのボトルを回し始める。
ベットに寝てる綾音を見ていると...うん、なんか本当に女子なんだなぁ、と思わされる。
貧乳とは言っても胸はあるので目のやり場に困る。
わー、結構胸あるんだけど!お、おぉ、ペットボトルを回すたびにちょっと揺れてるぞ!
え?ガン見?うるせぇ!綾音が悪いんだ!俺だって男だぞ!
「敵の人たちほんと最悪だわ、戦っても意味ないのに!ああいう好戦的な人たちほんと嫌い!」
「...そうだね、でも敵だって頑張って生きていたいんだよ。ここの国は資源が豊富だからね」
「でも、戦う人は嫌いだな」
少し悲しそうに綾音は言う。
「そっか、それは綾音らしいな」
「えへへー」
おい、さっきの悲しそうな顔どこいった。すげー、にこにこしてんじゃん。
「ほら、送っていくからもう帰れ」
「はーい」
綾音は珍しく言う事を聞いて、玄関へと向かう。
これ以上、俺の部屋にいられたら理性が持たない。犯罪者になるのは勘弁だ。
家を出て送っていこうとすると先に歩いていた綾音が突然に振り向き、微笑む。
いつもと違う...なんか怖いよ。
「送らなくても大丈夫だよ」
「はぁ、お前は自分がれっきとした女子高生だって気づけ!身長も胸もないけど女なんだぞ」
「今なんつった?」
ちょっと調子に乗りました。ごめんなさい。
「この後、普通に買いに行きたい物があるからそのついでだよ」
「なーんだ、純粋に送ってくれるのかと思った」
「俺がそんなことするわけないだろ」
「だよねー」
どうやらかなり俺は軽薄な人間だと思われているらしい。悲しいなぁ。
そして、話しているうちにまたラーメン屋さんへと帰ってくる。
「じゃーな」
「うん!今日はなんていうか、ありがと」
綾音は普段とは違う事を言ったからか、とても恥ずかしそうに礼を言う。
なんかこういうの逆にいいな。
店に入る前に綾音がもう一度振り返る。
「あ、あとたまに食べに来てるでしょ」
「え!?」
「わたしがどれにするか聞いた時、がっつりといつもの豚骨でって言ってたよ」
...え、えー。言っちゃてたっけ。
「まあ、たまには来てね」
「えっ、公認ですか」
「たまに、ならね」
デレた!?
「や、やったー。て事で、おやすみ~」
「うん!おやすみー」
それだけ言うと、綾音は店へと帰っていった。
はぁ、帰るか。というかみんなもいろいろ考えてるんだなぁ。
のほほーんと安全に生きてるわけじゃないんだな。
これはまた色々と考えなきゃな。
ていうか夜風がすげえ涼しくて夜景がとても綺麗だなー。
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