第9話

「俺の場合は親の事を考えるといつの間にか両手にあったな。」


あれ以来、プラーナを使って武器を生成する事に何度も成功しては何度もぶっ倒れていた。

未だにプラーナの使用量のコントロールがよくわからない。

最近では専門別授業の時に、実践授業ばかりしている。

紫水先生は何を考えているのだろうか。

見ている限り、一応生徒に指導しているようだが。

そして感覚をつかみ始めた生徒はちらほらいるようだ。

一斗も感覚が分かってきたらしく、ルームの隅で黙々と瞑想していた。

で、俺はと言うと今は練習をしてこなくてみんなから遅れ出している綾音に生成の感覚を教えていた。


「分かんないわー。」


綾音が降参と言わんばかりに両手を挙げる。


「だーから適当にやりゃあ良いんだよ。」

「なーんか言い方が紫水先生みたい。」


え...ショック。これは学校引退を考えるレベルですね。


「そんなことより早くやってくれ。」

「はーい。」


綾音が何も言わずに目を閉じる。


「...やっぱわかんない。うーん、親の事...今、ママはどうしてるのかな?」


こいつはもう駄目かもしれない。

別のことを考えさせよう。


「じゃあ、何か楽しかったこととか考えてみな。」

「楽しかったこと...あー、伸太郎が」

「あ?俺がどうかしたか?」

「え、あ!いやいや、違くて!伸太郎と一斗と花音でご飯食べに行った時が一番楽しいなって。」


口に出すのは照れたようで顔を下に向けて言う。なんかこっちまで恥ずいんだけど...。


「...いや、他にもお前は女子友達いっぱいいるだろ。」

「あー、そういや九重さんと喋るのも楽しい!ちょっと抜けてる所が可愛くてさー。」

「へー、全然興味ない。むしろその話題は嫌だな!」

「伸太郎って、九重さんの事が苦手だよね。教室で居るときも避けてるでしょ…」

「え、ばれてた?」

「バレバレ。九重さんにそれ言ったら非人道的な人間に興味ありませんだってさ。あははは。」


そう言うと綾音は涙が出るくらい笑いだす。

何が面白いんだ、俺はただ罵られているだけだぞ。


「はいはい、そんな事なら後は自分でやってくれ。」

「あ、ちょっとー!!」


むかついたので放っておこう。

そして自分の練習のために別ルームに移動しようとしたところで紫水先生に呼び止められる。


「どうだ、私の綾音ちゃんは?」

「頭が弱いですね、たぶん頭の中はお花畑一面ですよ?」

「うちの子に悪口を言うとは貴様許さんぞ。」

「いつから綾音はあんたの子になったんですか!」


あぁ、でもあいつなら自分から言いそうだ。


「綾音ちゃんから言ってきたのよ。」

「…やっぱりあいつ頭が変だよ。」

「じゃ、生成のコントロール頑張ってー、出来ればあと二週間で完璧に頼むわ。」

「へ!?そんな無茶な!」


この要望は本当に無茶だと思う。

初めて倒れた時から一週間、かなり頑張ってきている方だと思うんだが何一つ成果が無い。客観的に見たら時間の無駄だ、とも言われそうだ。


「あんたは追い詰められたら本気を出すタイプだからね、制限を設けようかと。」

「はぁ、本当に買い被りもいいところですよ。」

「うるさいわねー、文句は成功させてから言いなさい。」


それだけ言うと、紫水先生は他の生徒のところに行ってしまった。

何だあの人。



「ふぅ、逆に出てこないな。」

コントロ―ルが意外に思ってたよりも難しい。

体内にあるプラーナを少し使おうとすると出てこないし、逆にこの前の様に何も考えず双剣を作ると、一気に力が抜けていく。

でも今は気が遠くなるだけで済んでいる。

感覚で言えばお風呂に長い間入った感じだ。俺が低血圧ってのも関わってくるのかなぁ…ん?


「おおっと。気づかれてしまいましたか。」


変な視線に気づいて振り返ると、一人の男が腕を組み、入り口付近のルーム番号が刻まれている柱にもたれていた。

彼は少し口角を上げ、存在がバレた事に何故か満足感を抱いてるようだ。

まあ、まず気配を消せてすらいなかったけどな。


「そう敵意を露わにしないでください。」


そう言うとルームの灯りで一層光る金色の前髪をかきあげる。

服は俺たちと同じ制服で、胸元のボタンを開けている。

わー、セクシーだ。なんかかっけぇー。

あ、そういや敵意なんて無いからね?むしろ俺も君みたいにカッコよくなりたいだけだよ!

けど外見から滲み出る面倒くさいオーラが凄いので返事はしない。

すると彼は何も言わずに自分を直視する神谷に驚いたのか、少し困惑しながら話を続ける。


「あー、んん、んっ、ごほん。僕は嘉納大樹って言うのだが、君は?」


ずっと黙っていてやろうかと考えたが流石に初対面で印象が最悪なのは嫌なので答えておく。


「神谷だ。よろしく。」

「ふーむ、神谷と言うんだな。ふーむ。」


う、うぜぇ…この学園にはおかしな奴しかいないのか。


「僕の見たところだと君は生成のコントロールに手間取っているようだね、伝授してやっても良いがどうする?」


突如、金髪のいけ好かない野郎から金髪のいけ好ける野郎に進化する。


「好き!大好きです!嘉納くん?だっけ。君は本当に良い人だね!」


教えてくれる人みーっけ!ありがてぇ!!

俺は嘉納の手を握り、挨拶をする。


「んっ、んんっ。なっ!い、いきなり告白なんて!し、しかも君は男だろ!?」

「何言ってんだ。男でも女でも関係ないだろ。」


別に教えてくれるのは男子でも女子でも関係はないだろ。教えてくれるなら誰でも良い!

すると、嘉納は下を向き、何か独り言を言った後に一歩だけ神谷に近づいて、顔を合わせて口を開く。


「き、君がせっかく同性同士でも腹をくくって言ってくれたんだ。僕も君の事を受け入れよう…た、ただ今日は考えさせてくれ!!」

「おう、分かった!明日またここで同じ時間に待ってるぜ!ほんと、期待を裏切らないでくれよ!」


これでやっと三人前のプラーナ使いを卒業できるのか…強くなるまでの道のりは険しいな。


「そ、それじゃあ!」


嘉納が振り返って、走り去り、ルームから出て行く。

と、同時に一斗と綾音が慌てて入ってくる。


「今の誰だ、なぜか顔が赤かったけど。」

「嘉納って言うらしい。名前の方は…た、太郎?」

「嘉納太郎…?そんな名前のやつ、この学年にいたっけなぁ…。」


一斗が考え込む。


「それより!一斗が成功したんだよ!」


綾音が興奮気味にジャンプしながら近づいてくる。


「え、何に?」

「ほら、一斗!もう一回やって!」

「おう!いくぞ…ぐぬぬぬ。」


そして、一斗が黙って…数分。

一斗が床に尻もちをつき、両手を広げる。


「はぁ、はぁ、どう、だっ…。」


一斗の両手は剣の物と思わしき柄を掴み、鍔までも出来ていた。

ただ、柄頭も刀身も無く、少し不完全な剣だった。

むしろ剣とも呼べない物だった。


「何か俺が生成に成功した時と全然違くないか?倒れてもいないし。」

「そこ!伸太郎の時は双剣がもう完成してなかった?それになんて言うんだろ。見るからに硬そうだった気もする。」


綾音にしては良い洞察力だ。って言うかこいつはもう高校生だからそれくらい分かってもらわなきゃな。


「それは私にもよく分かんないのよ。」


背後からいきなり紫水先生の声が聞こえる。


「うわっ!!あぁ、紫水先生ですか。」

「普通、プラーナで武器を生成した事がない人が初めて成功する時は黒井君みたいに少しずつ仕上がっていくのよ。」

「えっ?じゃあ俺はどうなるんですか?何なんですか…今まで倒れながら練習した苦悩は…。」

「だから私は助言しなかったのよ。調べても分かんなかったし。」

「あっ!そっかぁ…じゃねえよ!」


勘弁してくれよ…もう気を失うのにも慣れてきてたんだぞ…。


「って事でこれからもあんたは実戦授業の時はここで一人で練習よ。」

「えっ。」


ついさっきまでツッコミをする為に愛想笑いしていた顔がひきつる。


「仕方ないでしょ、私、やり方知らないんだし。」

「いや、それでも…一人はちょっと。」


孤独で死んじゃう!


「一時間毎に一人、誰かしら投入してあげるから頑張って。」

「嫌だ!紫水先生、俺の知らない人を入れる気でしょ!」

「なら、クラスの子だけにするわよ。」

「嫌だ!!クラスの子ほとんど知らないもん!」

「...うるさいわねー。最終手段を使うわ、これ以上文句を言ったら単位を落とす。」

「えっ…。」

「じゃあね〜、そろそろ授業終わるわよ。」

「えっ、いや…。」


弁解しようとしたが先生は笑顔で扉の奥に消えていった。


「……まあ、その何だ。一人でも頑張れよ。」


一斗は泣きそうになっている神谷の肩に手を乗っけて慰めの言葉を口に出す。

…綾音はルームの端で床を叩きながら笑っていた。

綾音にはもう絶対コツとか教えてやらないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る