第7話
「おーい、何してんだ、伸太郎。」
一斗に呼ばれ、はっとする。
「あぁ、いや、何でもない。それより男子全員に伝えて欲しい事あるんだけどいいか?」
厄介ごとは一斗に頼むに限る。
「え?あぁ、全然いいぞ。大体とは喋ったからな。」
「え!?いつの間に!?」
何者なんだ...黒井一斗。一日で50人ちょいの友達を作るだなんて。許せん。
「あー、そういや、伸太郎はいなかったわ。昨日ちょっとだけだが近くのファーストフード店でクラスの自己紹介をする場を設けたんだ。」
はぁ!?俺いなかったんだぞ!なんでそんな事するの!
...まあ行った所で隅っこでゲームするだけなんだけどね。はは。
「じゃあこの検査終わったら教室に戻るように言っといてくれ。」
「りょーかい。」
はー、一斗ほんと頼りになるわー。エロゲの相棒感が漂う。つまり俺はエロゲの主人公!?
うーむ、そんな事はどうでもいいんだが、綾音にどう伝えようか。
ピピピピピピ....!!
思案していると右のポケットに入れていた携帯が震える。
そして、いつもの癖で画面を見ずに出てしまう。誰だろう。
「はーい、誰ですか。」
まあ俺の電話にかけてくるのは電話番号を知っている仲良し三人組かおっちゃんくらいだろう。
「伸太郎はどっちだった!?」
「あー、綾音か。いいとこで電話かけてきたな。」
電話をかける選択肢はあったが、迷惑になるかもで迷 ってたんだよな。
「えっへへ!私の声でも聴きたくなったの?ったく伸太郎ったら。」
「そこにいる女子に検査が終わり次第、教室に戻ってって伝えてー、んじゃ!」
「ちょ、冗談だから!待って!で、どっちだった?」
「俺と一斗はプラーナだったわー。綾音は?」
「私もー!型は双剣がはまりそうって!」
「双剣か、かっけーな!俺も双剣にするわ!」
「するっていうか、はまらないと難しいって言ってたけど...。」
「ぜってー双剣。」
「ま、まあがんばー。」
「あ、さっき言ったのちゃんと伝えろよ。」
「お任せを!んじゃね。」
ピッ...!
携帯を切り、自分の過ちに気づく。
あ、やべ。魔法適性の生徒にもって伝えるのを忘れてた。
速攻、折り返しで電話をかける。
「ピーという音に合わせてメッセージを録音してください。」
あぁもう、こんな時に限って出ないのかよ!
どうしようか。綾音なら女子全員に言ってくれるだろうか。
却下だ、信用できない。というか絶対に言わないだろう。
焦って出た結論が、ルーム4から出た女子に言うという苦肉の策だった。
はぁ、俺が伝えきれずに検査が終わって立ち往生している子がいたら申し訳ないからな。
本当に紫水先生を恨みます。
まあ平常点が上がって、もしかしたら主席になってこの学園を乗っ取れるかもしれないんだ。
今はコツコツ言う事を聞いておこう。
ふぅ、やっとルーム4着いたわ。俺、逆側に行ってたのか。
一体どこまであるんだ。真っ白い廊下が延々と続いていて、気が狂いそうだったぞ。
で、ここからが...
「あなた、ここから見るとただの変態にしか見えないわよ。最もあなたには一人で覗きに来る度胸なんてないのだろうけど。」
「うわっ!なんだ、九重か。」
今、さらっと俺に度胸が無いとか言わなかったか。今度一人で覗きに来てやるぞ!
「なんだとは何よ。まあ、いいわ。それであなたは女子が検査に使っているルームに何をしに来たのかしら。もし、変な事を企んでいるなら先生に告発してあげるけど。」
九重は悪魔のような微笑みを浮かべる。
前に自分では言ってたけど九重は結構笑うんだなー。あんなに初対面怖かったのに。
まあでも本心で笑っている訳ではないんだろう。
だって自分で分かっているかは知らないがちょっとぎこちない。
「えーっと、聞いてるのかしら。」
表情が少し困惑気味になる。
なんだ、この生き物。面白いぞ。
表情が変わっていくツンデレとして売り出せるな。今更みんなから人気がある理由が分かった気がする。
「ちょっと、何か言いなさいよ。ほ、本当にそういう目的で来たの?」
「あーっと、わりい。じゃなくて良いところで来てくれたな!ほんと助かる!」
「え、えぇ、検査が最初に終わって紫水先生に次の行動を聞きに行こうとしてたところなのだけれど。」
「九重、魔法適性か!」
「そ、そうよ。」
「よかったー!九重、おまえ、神か!」
「なによ、気味が悪いわ。おだてても何も出ないわよ。」
九重が俺を不気味そうに見て、少し引く。
「紫水先生がこの検査終わったら教室に帰ってくれだってさ。みんなにも言っといてくれ。じゃなー。」
「え、それだけなの?」
「はぁ?だってそれを言わなきゃお前みたいに困るやつが出てくるだろ。」
「...はぁ、わかったわ。みんなにも言っておくわ。」
「ん、よろしくー!」
なんだ、思ったより普通に会話できるじゃん。
伝え終わったし、ふー、これで一安心。この学園を奪取する作戦に一歩近づいた。
でも紫水先生は許さない。
あれ、俺、何か忘れてるような...あ、検査行かなきゃ。
この後、検査の先生方に遅すぎると怒られたことは言うまでもない。
「ほー、まさか本当に無理やり双剣になるとはねー。」
「なーにが剣だ。俺は好きな型を使うんだよ。」
「それで先生は了承したのか?」
「いーや、難しい顔してたけど練習とセンス次第だってさ。」
「神谷君なら簡単にやりそうだなー。」
「いや-、今回ばかりはきつそうだな、練習でやらせてもらった時は型を作れないどころかプラーナが表に出てこない。感覚は掴めるんだけどなー。」
帰りながら四人は今日あったことを色々話していた。
結局、今日は検査だけだった。
「感覚がわかるだけでもすごいぞ、俺とか何をすればいいかすら分かんないからな。」
「わたしもー、ねぇ、コツ教えてよー!」
「なんか、手に力じゃない何かをグッって持ってくる。んで、暖かくなるとこまでは出来たんだけど...。」
「暖かい?んー、わたしにはわかんないわー。」
「ふーむ、同じくわかんねぇ。」
「でも私の方は詠唱するだけでいいから楽そうだなー。よかったー。」
魔法適性の花音が言う。
「魔法は良いなー。」
「そうでもないぞ、詠唱も大事だけどある程度は魔力の事も考えて置かないと。」
「へー、そうなのー?」
「なんで伸太郎がそんなこと知ってんの?」
「...あれ、言わなかったっけ?昨日、紫水先生と前川先生と九重で焼肉行ったんだ。その時に教えてもらった。」
「はあぁぁぁぁぁ!なんでわたしを呼ばなかったの!?」
「お前ら、俺の家で遊んでたから水を差すの悪いかと思ってさ。」
食いついてくる綾音に笑顔で答える。
ははは、俺の冷蔵庫の食材の恨みだ!!!
「...うぅー。」
あはは、悔しそうだ。はーはっはははは!
「焼き鳥とたこ焼きの奢りはなし!!!」
「はぁ!?なんで!」
「ダメったらダメ!」
「えぇー...そんな無謀な!」
くっ...言わなきゃよかった。
「じゃあみんなで割り勘でピザでも行こうよー。」
「お、花音。それいい考えだな。」
花音と一斗が話を進める。
「「...ぐぬぬ」」
綾音とにらみ合いが始まる。が、いつもの様に二人が止める。
「ほら、二人ともそんな事してないで行くぞ。」
「綾音も神谷君も、ほら行くよー。」
はぁ、まったく相手をするの疲れるわ。
「じゃあ行きますか!」
「仕方ないわ、こうなったら食べまくる!」
そうして四人はピザ屋へと行くのだった。
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