第6話

「嘘だろ、おい」


朝起きた神谷は朝食を作ろうとして冷蔵庫の中を見て驚愕した。


昨日の晩飯は前川先生の奢りで焼肉を食べ、幸福な時間を過ごした。

やっぱタンを淡々と噛んでるのいいわー。なんちゃって。はは。

それよりも昨日は意外と楽しかった。この四人だと紫水先生が延々と一人で話す事になると思っていたが、前川先生も九重も積極的に話していたと思う。

え?俺はどうかって?だーかーら、タンを噛んでたんだよ!

まあそれは冗談として大体は紫水先生と話していた。前川先生とは少し魔法のことを。

こんな機会めったにないからなぁ、ん?後は?...だからタンを噛んでたって!しつこいなぁ。

それと基本的なことを色々聞いてきた。

魔法には火、水、土、氷、風の五属性があるようで、攻撃するための魔法がほとんど、生活に役立つ魔法は昨日の軽くする魔法とか空調魔法とか調理用の火をつけたりとかだって。

更に詳しい事は一応聞いたが脳が追い付かなかった。また後々知っていこう。

プラーナは頑張って理解できるように聞いてきた。自分も扱うのだからこれは知っておきたかった。

プラーナは基本的に武器を構築する為のエネルギーになるらしい。

構築出来る武器は剣、双剣、槍、斧、鎌、弓矢、盾...色々あるらしいがやっぱ一番かっこいいのは双剣かなぁ。振り回せるの無双感があって良さそうだ。

一度構築してしまった武器は再構築しないと形を変えられないらしい。なんて不便!プロなら一瞬で変形することも可能だそうだ。

だが構築には慣れや修行がかなりの時間を必要とするので普通は武器なんて形は一つに決めるらしい。

そして、長さは構築する時に決められるらしいが、長ければ長い程、使うプラーナ量が多いそうだ。

だからほとんどの人は平均的な長さの剣を使用するようだ。


うーむ、やっぱり詳しくはよく理解できない。まあ、これも後々分かるようになるだろう。

いやー、昨日は良いことを学んだな。

あ、忘れていたけど、九重は途中で親が迎えに来たらしく、いつの間にかいなくなっていた。

九重と話したのは紫水先生の車の中で、一人で後片づけをしていて遅れてきた俺に「遅かったわね、みんな文句も言わず待っていたのよ」という労いの言葉の一回きりだった。

まあ夕食後、紫水先生は上機嫌に帰り、前川先生は泣きそうになりながら帰っていった。


その後は初日から色んな事が積み重なり、かなり疲れていたようですぐにベッドに横になってしまった。

ここまでは良い。問題はその後だ!!


帰った時に居間が少し荒れていたのだが、いつもの様に仲良し三人組が遊んで帰ったんだろう。と思い安心して寝て、起きたら冷蔵庫の中の食材が無い!

あいつら俺の一日分のご飯代を持っていったぞ。親しき仲にも礼儀あり、だろ。

...もしかしてあいつら俺の事そんな親しくないやつだと思ってるのかもしれない。あぁ、怖い。

俺を昔から育ててくれているおっちゃんに今でもお金をもらっているからあまり使うのは気が引ける。

だから貯金がかなりある。はは。ゲーム一杯買えるぜ!

まぁ、俺が1日ご飯食べるのを我慢すれば済む話だからいっか。


「うぉーい、起きてるー?伸太郎ぉー?」


玄関から綾音の声がする。

言ってるそばから犯人達がきたようだ。

はぁ、じゃあ今日も頑張るか。


「行くぞー、伸太郎!」

「行くよー、神谷くん!」

「おい、お前ら!冷蔵庫の中身を勝手に食べたろ!」

「だって伸太郎帰ってこないんだもーん。学校終わったら何か奢るから許してー」

「じゃあ焼き鳥とたこ焼き!」

「あーい」


そうして四人はいつも通り学校へ向かうのだった。


「ひえー、今から検査するんだって」

「へぇ…。」


後ろから綾音が小声で話しかけてくる。

朝の一時限目から色々調べるらしい。

生徒はプラーナか魔力かを自分自身で知る術が無いので今から検査するらしい。

その後、魔法の人は属性を調べ、プラーナの人は自分にはまりそうな武器の型を決めるそうだ。


「C組の検査が終わったようね、ほら、行くわよ。廊下に並んで。」

「よし、行くか。」


先に立ち上がった一斗に倣って神谷も立ち上がる。

そして、ぞろぞろと生徒のみんなが廊下に並ぶ。

そして、かなり歩いて行きついた先は何か白い壁で作られた大きな室内だった。


「ここはルームと言って...そうね、余程の事が無い限り壊れない設備よ。」


ルームの真ん中には三人ほど医師みたいな人がいる。嫌な予感がする。


「今から採血するわよ、ほら並んで。」


「えぇーっ」という歓声なのか悲鳴なのかよく分からない声が生徒達から上がる。

まじかよ、えぇー。


「ほら、さっさと並びなさい」


嫌々ながら生徒たちが並んでいく。神谷も並んだのだが後ろにうるさいのが付いてくる。


「伸太郎は怖くないの?私は採血なんて熱中症で倒れたとき以来だわー」


それ、採決じゃなくて点滴じゃないの?


「あー、慣れてたからな」

「え、あんた日頃から倒れてるの?」


だからそれは点滴だ。


「次の方、どうぞ」


喋っていると俺の番が来たらしい。


「腕を出して、少しチクっとしますよ」

わーい、チクっ!

...あ、これ、久しぶりにやると意外に痛いわ。


「ここのルームを出て、隣の二番のルームに行き、名前を言って結果を教えてもらってください」

「ありがとうございます。」


医師に会釈をしてルームを出る。

ルームを出る瞬間、医師に反抗する綾音の声が聞こえたが、知ーらない。

二番のルームに入り、近くで作業をしていた事務員みたいな人に名前を言うと壁のそばにたくさん置いてある椅子に座らされた。

検査が終わり次第名前が呼ばれるらしい。

おっ、一斗いるじゃん。


「どっちの適性があるか楽しみだな」


横に座ると、一斗が話しかけてくる。


「そうだな」


ま、俺はたぶんプラーナなんだけど...。


「一斗はどっちが良いんだ?」

「うーん、俺は魔法のほうが良いんだけど昔から剣道とかやってたかからプラーナの方が楽かな」

「なるほど」


そこで一斗が呼ばれる。

一斗は行ってくる、と言って呼ばれた方へ行く。

一人になってボーっとしていると横に誰かが座る。


「神谷君、大丈夫?」

「おぉ、花音か」


顔を上げると至近距離で花音が覗き込んでいた。


「っ!!ひ、久しぶりだな。花音」

「久しぶりじゃないよー、朝から会ってたでしょー」


花音がすねたように頬を膨らませる。

顔も胸も近いっ!


「そ、それはそうと花音はどっちの適性が良いんだ?」

「んー、魔法で世界を平和にしたいかなー」


少し考えて思いついたように顔を上げたと思ったらとんでもない事を言い出したな。

平和か...。いつも一緒にいる四人ですら喧嘩をたまにするのにそれは無理だな。うん。


「そ、そうか。頑張れよ」


そして神谷の名前が呼ばれる。


「行ってくらー」

「行ってらっしゃいー」


神谷を呼んだであろう人に名前を言う。


「えー、神谷くんですね。結果はプラーナです。ここを出て、つきあたりの五番のルームに移動をお願いします」

「ありがとうございます」


一体このルームはいくつまであるんだ。

そして言われた通り五番のルームへと入る。


「おぉ、やってる」


ルームに入ると更に検査をしていた。

身体検査やどの武器が扱いやすいのかという適性検査みたいなのを色々やっていた。

何をすればいいかわからず突っ立っていると紫水先生がやってきて色々書いてある紙を渡してくる。


「ここに名前書いて、色々回ってきなさい。終わったら教室に戻っといて」

「え、色々って?」

「ここで検査は全部終わりだから。あ、みんなにも言っといてー」

「うい、みんなって...?」

「魔法適性の子にもよ。当たり前でしょ」

「はいはーい、魔法適性の生徒のルームは何番ですかー?」

「えーと、男子の魔法適性は三番で、」


ん?男子...?


「女子が四番、プラーナ適性の女子が六番ね。で、中に入らないように気を付けてね。身体検査もしてるから」

「女子は自分で言ってください。青春まっさかりの男子に頼むことじゃないです」

「私は忙しいの、そして頼めるのは暇そうなあんたくらいなの」

「今から検査するんですけど?ていうか、それ以前にどうやって女子全員に伝えればいいんですか!」

「あんたの仲良しな綾音ちゃんに頼めばー、それじゃあー」

「あ、ちょっと...!」


そう言い残すと先生はふらりとルームから出ていってしまった。

うーむ、あの先生、強敵!!

ちょっと待て、男子全員にすら言うのきついんだけど...。

俺、一斗しか喋れる奴いないぞ...はぁ、一斗に頼むか。

そう思いながら上を見上げ、神谷は真っ白な空間の天井を見つめた。

まるでそこに白以外の色を探すように。

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