第4話

「あ、やべ...こっち周回する前にイベント周回するんだった。効率悪くなっちゃったな」


時計を見ると予定時間を既に少し過ぎていた。

しかし、予定時間を決めた本人は一向に現れる気配がない。


「はぁ...」


仕方がないのでスマホを連打して周回ゲームを進める。


更に数分...

待てど暮らせど一向にやって来る気配がない。いくら何でも遅すぎる。

しかし、生徒を放っておく先生などいるものか。さすがにそこまで紫水先生も適当な人ではないだろう。

信じて待とう。


更に数十分...

もおおおおおおお!!!!おかしいだろ!!!

あの先生ほんと駄目だわ!!!初日から好感度だだ下がりっすよ!

もういいや、自分から聞きに行こう...。


教室を出て、適当に校内をうろついて紫水先生がいるであろう職員室を探してみる..。

空いている教室は何個も見つかるのだが職員室が一向に見つからない。

と、悩んでいると廊下の曲がり角から話し声が聞こえてくる。

そこはさっき行った時に行き止まりじゃなかったっけ?不思議のダンジョンか?

そう疑問に思い、少し聞き耳を立ててみる。


「...からずっと好きでした。僕と、付き合ってください!!」


わーお、入学早々なのにやるねー。

二、三年生は今日と明日は休みのはずなので同じ一年生だろう。同じ学校だったのかな?

さて、カップルができるのかな~、それとも飯うま展開か?なんだか口元がニヤついてしまっていた。

とっくに先生への怒りなんて忘れて少し楽しんでしまっている。


「ごめんなさい、好意はとても嬉しいのだけれど男性と密接に関わることがあまり得意では無いの」


...どこかで聞いたことがある声だなー。あーあ、一瞬で興味無くなったわ..。


「.......そうですか......それじゃあ今まで通り接してもらえますか?」

「ええ.」



なぜか謎に悪いことをしてる気分になってきた。九重も案外、悪いやつじゃないのかもしれない。


「...ッ!」


あっぶねえ。

一瞬、気が付くのが遅かったらフラれた男子に聞き耳を立てている事がバレていた。

男子は壁際で隠れていた俺に気づかず、悲しそうに目を伏せながら早足で廊下を走り去っていった。

どんまい!そして負けるな、恋する青年よ。ふっ!決まったな。


「私にはあなたが何をしているか聞く権利はあるのかしら?」

「うわぁっ!!びっくりしたぁ...や、やあ九重さん。ご機嫌いかが?」

「告白を振るのにも勇気はいるものなのよ。それなのにあなたときたら、本当にデリカシーがないわね」


フラれた青年にエールを送っていて厄介な存在を完全に忘れてたわー。


「顔に出てるわよ。私のことが嫌いだって」


さっきまで言ってた事は前言撤回。絶対こいつは良いやつじゃない。嫌なやつ!


「いや、ぜんぜんきらいジャナイヨ」


おどけて言ってみせる。特に何も変わりはしないが。


「まぁ、そんな事はどうでもいいわ、あなたは紫水先生を探しているのよね」

「...ッ! 何故それを!?」


こいつまさか俺の脳内を...!


「クラスメイトなら誰だって知っているわよ」

「は?クラスメイト?九重ってクラス一緒なのか!?」


あれ、見られてたのか...それは嫌われて当然だな。


「クラスメイトくらい覚えておきなさいよ」

「...はい。えー、それで九重さんは何を?九重さんには悪いけどさっきの約束の為だけに残っている訳じゃないだろ?」

「へぇ、それくらいは分かるのね。驚いたわ」


何故だろう、褒められても全然嬉しくない!まあ君はそんな性格の人じゃないし。

九重が続けざまに話す。


「私は親を待っているだけ。あと、紫水先生は職員室にいるはずよ。さっき生徒たちに配る教科書の確認をしないといけないとか言ってたわ。それじゃ」

「お、おぉ、さんきゅー」


俺のお礼が少し意外だったらしく驚いていたが、すぐに通常モードに戻り、そのままどこかへと歩いて行った。

九重には今日初めて会ったけどもう今日は出会いたくない。ストレスで死んじゃうよ...。

あ、職員室の場所聞きそびれたわ...。






「はぁ...見つけたぞ」


あの後、散索しまくって職員室をなんとか見つけることが出来た。


「失礼しまーす。紫水先生がこちらにいると聞いて来たんですが..」


そう言うと、近くにいた年配の男性の先生が奥で他の先生と談笑していた紫水先生を呼んできてくれた。


「あぁ、神谷か。悪いわね。他の仕事もいろいろあったのよ」


いやいや、今さっき俺の目の前で他の先生と談笑してましたよね?


「今から指定する教室に私がさっきまで選別した教科書や資料を運んでくれ」


そう言って先生は職員室の外に置いてある段ボール箱を指さす。

うわぁ、十数個あるぞ。何往復しなきゃいけないんだ。


「はーい」


もうなんか怒る気力すら湧かないや。

とりあえず先生に言われた場所へと段ボール箱を必要個数分運ぶ作業に黙々と取り掛かる。






その頃、

綾音、花音、一斗の三人は神谷の家にいた。


「あら-帰ってこないね、あいつほんとに手伝ってるのかー」

「神谷君って結構律儀だよねー」

「伸太郎は変なところで責任感強いからな」


「「「うーむ」」」


三人とも神谷の家のリビングでうなる。


「まあ、帰ってくるまでゲームでもして待ってよー!」

「そうだねー」

「そうだな」


そして神谷の家のテレビをつけ三人はゲームを始めた。


そしてその頃、神谷は段ボールを運んでいた。


「うわっ、やっぱ結構重いな」

「そうだろー?そういや、教室に行くの遅れて悪かったわね」


何回目かくらいの往復でいつの間にか段ボール箱を五個も重ねて持って後ろを歩いている紫水先生が言う。


「うおっ!いたんですか...って、あれ、先生の段ボールすごい軽そうっすね」


ていうかその前にあんた、まず教室に来てないだろ。


「お、わかる?もしかして神谷は魔法部門かい?」

「残念。プラーナですよ」

「なんだ、私と一緒か」

「えっ、でもそれ魔法で軽くなってるんじゃ?」

「これ、前川先生にかけてもらったの」

「前川先生、ですか?」

「あぁ、前川先生は魔法を教えるエリート講師よ。後で段ボール開封する時に連れてくるわ」


そんな簡単に連れてくることが出来るエリート講師ってどんな人なんだよ。


「だ、大丈夫ですよ。ダンボ―ルの開封くらい一人でやれますよ」

「私の仕事が無くなるじゃない!」

「あんた、仕事嫌なんだろ!」

「うぅ、嫌だけど、やらないといけないのが仕事ってものなのよ」

「あんた、なんなんですか...ほら着きましたよ」


無駄なことを話しているといつの間にやら目的の教室に着いていた。


「ふぅ、終わったわー」


まあ紫水先生は最後の五つしか持ってきてませんけどね、更には軽くして。


「後はこれを開封するだけなんですよ。」

「そうよ、じゃあ前川先生連れてくるから休憩してていいわよ」

「分かりました」


なんか思ったより紫水先生は話しやすい先生だ。

普通に会話ができていた。

初めはどう考えても最悪な教師の鑑だと思っていたがほんの少し誤解をしていたらしい。






その頃

またもや三人は..。


「伸太郎、遅いねー。あっ、それ私のアイテム!」

「ははは、悪いな。もらっていくぞ」

「遅いねー。手伝いってこんなに時間がかかるのかなー、あ、私一位だ~」


「「あ、いつの間に!!!」」


楽しくゲームをしていた。






「援軍を連れてきたわよー。」


紫水先生のやる気のない声が教室に響く。

さすがは面倒ごとが嫌いな教師の鑑だ。


「えーと、初めまして。だよね?」


紫水先生が入ってきた教室の入り口から男性の先生がひょっこりと首をだす。

そして、流れるように自己紹介をしてくれる。

金色の髪の毛に眼鏡がすごくよく似合っていて、世間でいうところの爽やかイケメンというところだろう。

ニコニコしていて、人当たりがよさそうだ。俺もこんなかっこいい人になりたかった。

すると、前川先生に続いてもう一人教室へと入ってくる。


「また、あなたなの...。紫水先生に呼ばれたときに予想はしてはいたけど」


腕を組みながら入ってくる九重が、俺を見た瞬間嫌そうな顔をする。

被害者は俺なんですけど。


「図書館で本を読んでいたから無理矢理連れてきたわ、人員確保よ。」


前言撤回!!誤解してない!この先生やっぱり最低だ!!

もうやだ。死ぬ。お休み。


「じゃあ、始めようか」


前川先生が開始の合図と言わんばかりに手をぱちぱちと叩く。

はぁ、こんなところで死んでいても意味がない。働こう。

まず、九重が近くにある段ボール箱を開封し始める。

次に前川先生が奥にある段ボール箱の前に座り、その横へ紫水先生が座り、会話をし始める。

うーむ。紫水先生はただ話し相手が欲しかっただけですよね。

と、心の声でいつもの一人語りをしていると急に紫水先生が俺に向かって指示をする。


「神谷ー、あんたは九重ちゃん手伝いなさい」

「大丈夫です」


えぇ...俺が答える前に九重が答えちゃったよ。


「またまたー、九重ちゃん、人を頼るのは大事よー」

「いえ、これくらいなら私1人でも..」

「九重さん、そんなこと言ってるとまた身体壊すよ?」

「...」


教師二人に言われて九重は手を止め、少し考え込む。


「先生、俺もう一つの段ボール箱のほう行くんで..」


まだまだ段ボール箱はいっぱいあるんだ。嫌われているし、他に行こう。

あと、何かが引っかかっているんだよなぁ。この会話に。何故だろう。


「はぁ...神谷。あんた、そんなんだからコミュ障なのよ」

「今、それは関係ないと思うんですが、っていうかなんで知ってるんですか?」

「綾音ちゃんに色々聞いたら答えてくれたわ」


あいつ、ほんとに余計なことをぉぉ!!


「女の子をエスコートするのが男の役目よ」


これエスコートって言わない!

なんなんだ、この人は。本当に!


「そうだよ、ちなみに僕はいつもエスコートが出来ずに終わるけどね」


苦笑しながら前川先生が言う。

...先生、それ笑ってていいんですか?


「はぁ、わかりましたよ。手伝えばいいんですよね」

「いらないわ」


お願いだからそこは黙って手伝わせて!


「まぁまぁ、九重ちゃん。そこを何とか」


何故か紫水先生が更に九重を押す。

そしてひっかかりの原因に気づく。


「あ、気になったんですけど、九重と先生って知り合いだったりしますか?」

「あれ、言ってなっかたっけ?」

「一言も聞いてないですね」


何かフレンドリーと言うか前から知ってるみたいな感じがしたからな。それがずっと気になっていたんだ。


「もしかして前川先生も?」

「この学校の先生で九重さんを知らない人はまずいないよ」


ひえー、めっちゃ有名じゃないですか。九重さん。


「まあ、そんなことはどうでも良いことです。早く終わらせましょう」


九重が仕事の催促する。


「だーかーら、二人一組でやったほうが早く終わるわよ」


紫水先生が食い下がらないことが分かると九重は諦めたような様な顔をして、俺に向かって嫌そうな顔をして口を開く。


「はぁ、仕方ないわ。私の目の前の段ボール箱を開けるのを手伝ってもらえる?」

「ういっす」


俺って実はゲームでは盾役でヘイトを集めるキャラが上手いんじゃないか。

そう思いながら九重の正面にある段ボール箱を無心に開けるのであった。

そして、その間も紫水先生が段ボール箱に触ることは無かった。

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