第3話

「伸太郎!いつの間に女子をナンパできるように!?コミュ障治ったの!?」


あぁ...厄介なのが来た。綾音と花音が帰ってきた。


「伸太郎くんが女子に話しかけに行くの初めて見たー」


うん、俺も初めて話しかけたかもね...

嫌な場面を見られてしまった。


「二人ともうるさい。早く席につけって」


そう言うと花音は素直に席に着いたが綾音がしつこくいじってくる。


「ねぇ!どういう経緯?頭打った!?それとも一目惚れ?」


本当によく喋るなぁ...


「..って九重さん!?」


綾音が隣で本を読む九重の顔を見て驚く。なんだ知り合いなのか。

一方、九重は本を閉じて、顔をあげて綾音を見るが、知った顔では無いらしく困惑した表情になる。


「ええと、悪いのだけれど覚えてないわ。どなただったかしら?」

「いえいえ、初めまして。私は赤狩綾音って言います。よろしく!」

「こちらこそよろしくね。赤狩さん」


なんで九重はしれっと挨拶返してんの?もしかして俺だけが嫌われてるの?泣くぞ!泣くからな!

悲しくも小声で綾音に聞く。


「こいつのこと知ってんの?」

「こいつとか言わない!この辺じゃ有名よ。ま、伸太郎は引きこもって二次元の女の子追いかけてるから知らないだけよ」

「一言多いぞ。で、なんで有名?」

「かわいいってのもあるし、家自体も有名、しかもここの...」


綾音がなんやら語り出しそうな雰囲気だったのがめんどくさく、俺はとりあえず話を打ち切る。


「あー、綾音。席変わってやろうか?」


九重のことを少し知っておきたかったが人の目の前でこそこそ話はよくないからな。本人の前では更に。


「えっ、ほんと!?九重さんとは話してみたかったんだー!今日はなんだか気が利くね」


実は九重さん、超俺のこと睨んでました。怖かったんで綾音に譲るという口実で退避しました。

あと、今日はってどういうことだよ。いつも気を使ってるだろ。


「あ、伸太郎。花音にも紹介したいから花音とも席変わってくれない?」


...もう、本当に人使いが荒すぎる。

一斗の横に座っている花音に声をかけて席を代えてもらう。


「はぁー...もう初日から大変だわ」


右で楽しそうに九重に話しかける2人を横目に見ながら一斗に話しかける。


「大変だな、九重さんに絡まれるとはな...」

「え、お前知ってんのか?九重のこと」

「あぁ、一応な」


当然か、意外と一斗って顔広いんだよな。俺とは違うな。陽キャだな...。

すると突然、辺りが真っ暗になり、講堂の演台だけが明かりで灯される。

そこには頭が高そうな四十過ぎくらいの男性が姿勢よく登壇していた。

スーツ越しでも分かる程筋骨隆々な体型をしている。雰囲気だけでいくつも戦場をくぐってきた事を感じ取らせる。

そして顔色一つ変えず凛とした表情で演台に立っている。

周りは静寂で澄み切っている。講堂にいる誰もが大体同じことを考えただろう。

と、思っていると突然どこかからマイクで話す渋い司会者の声が聞こえてきた。


「これから入学式をとり行わせていただきます」


あぁ...入学式が始まるのか。いきなりだな。


「新入生諸君。入学おめでとう」


演台に置いているマイクを手に取り、立っていた男性が話し始める。


「ここは普通の高校とは違う。自分の道は自分で決めるのが必要となって来る。まぁ、それはどの高校でも同じかもしれないが...うーむ、まあいい」


そう言うと男性は少し表情を和らげる。

それを見た生徒たちは各々で少し安堵のため息をつく。

俺もピンと張っていた背筋を楽にする。


「長い話はあまり好きでは無い。だからこれだけは言っておこう。ここにいる以上は命の危険に晒される事が必ず訪れるだろう。我々も生徒諸君に危害が出ないように手を尽くし、気を付けているのだが、それでも毎年必ずとと言っていい程負傷者が出ている。そしていつどこに危険が潜むかも分からない。各人が自分がその時できることを全力やり切れ。そうしないとこの学園ではやっていけないぞ。そして1人でも多くの者に魔法師及び魔騎士になってもらいたい」


微笑みながら男性はそう言う。しかし、話し始める前から感じていたがこの男性は顔は笑っていても眼が全然笑っていない。


「いい遅れたが、私はこの学園の理事長だ。何かこの学園に不満があれば私に言ってくれれば多少なり改善しよう」


そういって理事長は演台から降りて、先生らしき人たちが座っている所へと戻っていった。

この高校変わってんなぁ...。

まだ理事長しか話をしていないがこの学校が普通じゃない事だけは確かに分かった。

まぁ、そりゃ普通の高校とは全く異なるからなぁ。


後は各部門の先生がこの3年間で行うことのおおまかな流れやら生徒に向けての応援メッセージみたいなものを言うだけだった。

クラス分けは講堂を出た所に貼り出していて、なんとも適当な割り振りだった。

大体は学校別でクラスを分けられているらしい、俺達の教室はこの学校の入り口に近い所だった。


「なんか先生たちよくわかんなかったね」


黒板には座席表が貼っていて、四人は順番に席が並んでいた。

座席は名前の順じゃなくて学校の順なんだね...適当だなー、顔見知りにはありがたいけど。


「お前はどうせ話もろくに聞いてなかっただろ」

「伸太郎も同じようなもんでしょ」


綾音と俺が言い合いをして、それを一斗と花音が見ていて笑う。いつも中学校で見ていた風景と変わらなかった。違う点は周りが本当に知らない人ってのと教室くらいだな。...ほぼ全部だな。


ガラッ


教室のドアが開く音がして、先生と思われる女性が入ってくる。

それと同時にクラスの生徒の喋り声が消え、立っていた生徒は自分の席に静かに座る。

そして入ってきた女性が口を開く。


「はーい、E組の担任になりました、紫水です」


先生にしてはすごくラフな格好で首にはネックレスを下げていた。そして普通に美人だった。

...胸はまあまあってとこだな。

胸が大きい人って圧迫感があって苦手なんだよな。

歳は二十後半くらいだろうか。目元が吊り上がっていて怒っているように見える。

なんかこの学校怖い人多いな(震え声)


「質問があれば手を挙げて。当たったら自分の名前を言ってから質問してちょうだい、何でも答えるわよ」


わー、この先生殺伐としてんなー。

すると何人かが手を挙げる。


「えーっと、そこの君」


当てられたのは廊下側の男子生徒だ。


「小宮です。紫水先生はこの学校で勤務してから何年ですか?」

「んー、覚えてないわ。つぎー」


わー、面倒ごとが嫌いそうな先生だなー。

次に当てられたのは真ん中にいた女子生徒だ。


「えーと、名前は真鍋です。先生って結婚はされてるんですか?」


女子が目をきらきらさせながら教卓に肘をつく先生に聞く。教室のみんなも興味ありげだ。


「それがまだなのよ、婚約者は一応いたんだけどねー...」


クラスが少しざわつく。


「えっ、過去形ってことはもしかして...」

「いや、違うのよ。失踪したの」

「え...」


更にクラスがざわつく。

この先生、さらっとえぐいこと言うな。


「聞いちゃいけないことでしたよね...ごめんなさい.」

「別にいいわよ。ったくあいつ、早く帰ってきなさいよ。まだ私が働かなきゃいけないじゃない」


知らねえよ、なんで生徒の前で婚約者の愚痴言ってんだよ!

と心の中で言うと、


「あっ、あんた。えーと、神谷?何か言いたそうね」


いきなり名指しで指さしをされる。

当然だが脳が一瞬フリーズする。

なんでだ。目の前にいたからか。心の中で愚痴ったからか。他にも思った奴の1人や2人いるだろう!


「...」


クラスが静寂に包まれる。

おかしいだろ。今日は災難すぎないか。


「せ、先生は...」

「んー?どしたー」


笑いながら近づいてくる先生がすごく怖い。怖いです。あと胸が邪魔。前が見辛いです。


「せ、先生は胸が大きいですね!........そ、そういう意味じゃなくてですね...は、はは」

「...あ?」


つい思ったことを言ってしまった!

というか先生の目が笑っていない。こ、怖いですよ...?

前の席の一斗を見るが何も聞いてないを貫き通してる。

後ろの席の綾音に助けを求めようとするが、これも駄目だ。もし今、ここで先生から目を離したら首チョンパされる!殺られる!

凍える教室を突き破ったのは花音だった。


「せ、先生!神谷君は胸が無いほうが好みなんで大丈夫ですよ!」

「あぁ、花音!フォローサンキュ...じゃねえよ!もうそれ俺の性癖晒してるようなもんだよね!?」

「あ、ごめん!でもいつもパソコンでやってるゲームで攻略してる女の子達、全員胸が無いからてっきり...」

「さらに俺のやってるゲームの種類ばらしてんじゃねえ!!」

「へえ、あんた貧乳が好みなのね」


何故か露骨に嬉しそうな顔をする紫水先生。


「...ははは」


一応、愛想笑いをしておく。

そうすると先生は教卓に戻り、周りを見渡し、言葉を続ける。


「はぁ、もうこれで終わりよ...そういえば明日はオリエンテーリングだから持ってくるものは特に無いわ。今日はもう帰っていいわよ。特に伝えることは無いわ」


やっと半日が終わる。体感的にいつもより長かった気がする。


「おっと、そういえば教頭がオリエンテーリングの準備の人出が足りないとか言ってたわね。」


なぜか紫水先生は俺を見ながらわざとらしく笑顔で言う。...額に冷や汗が浮かぶ。

ま、まさかね。はは。

すると先生は突然、花音に話しかける。


「えー、斬山さんだっけ?」

「は、はい!」

「神谷って今日、暇かなぁ?」


なんで花音にそれを聞くんだよ!おかしいだろ!


「神谷君は年中休暇ですよー」


やられたぁー!!もう花音ちゃんったら冗談ばっかり。やだなー。

すると更に先生は俺の後ろで笑いを必死にこらえる綾音に質問をする。


「赤狩さん、神谷君はこの後暇かしら?」

「えぇ、家に帰ってゲームするくらい超暇ですよ」


...ま、またぁ!ふ、二人とも冗談きついなぁ。


「黒井君、神谷君は...」

「せんせい!今日は僕、超絶暇なんで準備を手伝いたいでーす!」

「あらー、いいのぉ?14時に教室で待っててね、迎えに行くわ」


紫水先生は笑顔でわざとらしく俺に聞き返してくる。


「は、はい!」


綾音と花音まじで許さん。ついでに一斗も恨んでやる。


「じゃあ手伝ってくれる生徒も見つかった事だし、今日は解散!」


俺以外のクラスメイトがぞろぞろ帰りだす。


「伸太郎、ばいばーい。」

「神谷君、また明日~!」

「じゃ、じゃあな。伸太郎、頑張れよ。」


綾音は嬉しそうに、花音はいつも通り、一斗は少し申し訳なさそうに帰っていった。

ちなみに先生もどこか行った。

教室には俺一人だけがぽつんと残った。今日は災難だな。...もう嫌になっちゃうぞ。


後に、綾音や一斗にクラスメイトの反応を聞くと男子生徒からは圧倒的支持率を得て、女子生徒からは非難と神谷君のお陰でメンタルを保たれた子達がいたそうだ。

結果オーライなのだろうか。

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