第2話

この世界には国を守る為に魔法とは別にプラーナという力がある。

人は性別のようにどちらかの力を秘めて生まれてくる。

しかし、全員が魔法やプラーナを使えるというわけではない。才能に開花した一部のものが魔法を研究や武力として扱えるのだ。

そして戦うこと、国を守ることを望んだ若者たちは騎士や魔法士になるべく、国が作った専用の育成高校へと入る。それが俺たちが通う高校は国立魔法士養成高校は全国に5校ある養成高校の一つである。


「はぁ…やっと着いた」


俺は息を切らしながらやっとの思いで校門に着く。

目の前では一斗、花音、綾音が楽しそうに話している。


「はぁはぁ、なんで学校が山の上にあるんだよ。こっちは体力が無いんだぞ」

「引きこもってたからでしょ!それより講堂ってどこか分かる?」


綾音に正論で返され、少しむかっとくる。


「分かるけどなんで?」

「入学式をするから新入生は講堂に集合しろだって」


だから、講堂の場所を書いてる紙が入学手続きの紙についてきたのか。

そして、俺達は講堂に向かい、左から一斗、花音、綾音、伸太郎の順に座って俺たちは式の始まりを待つことにした。

少し早めに来たので席は選び放題で後ろに座ることが出来た。

一斗は花音と話しており、俺は綾音の聞き手となっていた。


「あ、さっきから見たことがある子が何人かいる」

「まぁ...俺はいないな」

「伸太郎は外に出ないからでしょ」

「そうですね…」


そんな他愛もない話を続けていると、花音が綾音に何か耳打ちして、二人とも席を立ったので、自分の足元に2人が通れるくらいのスペースを空ける。

2人がどこかへと行った後、左の席に一斗が座り、話しかけてくる。


「なぁ、あいつらどこ行ったんだ?」


少し嫌な予感がして一斗に聞き返す。


「...もしかして花音に同じこと聞いた?」

「それが、聞いたけど聞こえなかったみたいでさ」


えー、それ絶対無視されてるんだよ。

流石の俺でもわかるぞ。


「はぁ...女性が何も言わず席を立った時は、基本的にお花を摘みに行くってことだからスルーするのが男性の基本なんだぞ」

「ふーむ?」


納得がいってないのか考えこみながら席に戻る。

黒井一斗という人間はデリカシーが少し欠けている。

一斗がリーダー格なのにモテにくい理由を垣間見た気がする。女心をなかなか理解していないんだなぁ。

一方、俺はなんて紳士なのだろうか。

しかしそんな優越感も束の間…

俺の右に一つだけ席が空いていて、若干気にはしていたのだが、とうとうそこに他校の女子生徒が座ってくる。


「「……」」


その他校の生徒の右にはもう座席は無く、知らない男女同士が黙り込むという異様な雰囲気ができる。

いや、黙り込むのが普通なのか...?

一斗に話しかけてこの空気を脱しようとしたが、わざわざ二つも左の席に話しかけるのはこの右の女子生徒に失礼ではないかという考えが頭をよぎる。

あぁ、もー、こういう時どうしたらいいんだ!?

えーと、いつもクラスで知らない人から話しかけられたらどうしてたっけ?

ふと、中学生の頃の記憶を引っ張り出す。


「えーと神谷君?」

「...ん?(誰だこの子...)」

「神谷君って運動結構できるんだね!」

「..あー、いや、そ、そんなことないですよ。(うわ、 女子だ...こわ..じゃなくて、えーとなんて返すのが正解なんだ)」

「えー、そんな謙遜しなくてもいいのにー。ほんとにかっこよかったよ!」

「え、えーと...。(この会話中身がなさすぎるだろ...それになんて返せばいいんだ!ありがとうとか言ったら自分運動できるみたいな感じだし、逆にそう?って聞いたら...どうなるんだ?........結局ダメじゃんかあ゛ぁぁぁぁぁ!!!)」

「あー、沙耶…こいつコミュ障だからさー、会話が続かないんだよ」

「おい、人を病気みたいにいうんじゃねえよ..。(綾音か、助かった....やっぱ知らない人と喋るのはよくねえわ)」


はっ!綾音に助けてもらっていたわ。そして、綾音のいないこの状況..もしかして詰み?

本当は無理して話さなくても良いのだろうが、どうでもいい心配をしてしまい、こんな状況では気まずいと感じてしまう。

どうすればこの空気を解消できるか考えていると、いつの間にか横の女性徒が本を開き、読み始めていた。

はっ...これだ!

後に、神谷はこの時に話しかけない方が良かったと後悔する事になる。

もしかしたら俺が読んだ本や知っている本かもしれないと思い、表紙を盗み見る。

[これを読めばうさぎの全てがわかる!!195のうさぎ大辞典]

読んだことあるかぁぁぁぁああ!!!!うさぎの全てってなんですか!?

そもそもなんでこれ読もうと思ったの?なんで買ったの!?

もしかして横の人やばいんじゃねえか...。

すると俺の視線に気が付いたのか女生徒が顔を上げ、目が合ってしまう。


「えーっと、うさぎが好きなんですか?」


これはとても良い会話の始まり方だ。焦って咄嗟に出た言葉だが、興味のある話を振られると人は心を開くと聞いたことがあったかもしれない。あってほしい...。無かったかも。


「特に興味なんてないわ。偶然持っていて暇だから読んでいるだけ」

「…ッ」


それだけ言うと、その女生徒は本を俺から見えないような位置にずらし、更にはわざとらしく彼女自身も少し身を寄せて俺から離れる。

これって俺が悪いの...?何だよ、愛想悪いな。

ちょっとかわいいからって。


確かに見た目は、世にいる女優やアイドルくらいに整った容姿をしていた。

完璧と言って良いほどの美少女だ。横に座った時からスタイルは良いと思っていた。

...胸はないけど。

今ではその端麗な容姿は目を奪われるほど綺麗で艶のある漆黒という言葉の似合う髪で隠れてしまっている。

しかし、目が合った際に俺の心臓が針で刺されたような感覚に陥ったことを思い出す。

俺を見る目が冷たく、怖かったのだ。

たぶん、それは俺だけに向けた瞳ではなく、誰もを受け入れたくない、信用しないといった目のように感じた。

だから俺は決めた...。

この美少女に..俺は。

この美少女にだけは近づかないでおこう!と。

だってあの瞳は俺を殺そうとしてたって!

俺を完全に殺る気だったよ?!

しかしながらその決断を揺るがしかねない事態が起きる。

近寄らないでおくために体勢を変えようとした時、足に軽い何かが当たる。

下を見ると、それはネームプレートだった。

これは生徒が講堂に入る時に受け付けの人に失くさないでと言われ、受け取るものだ。

嫌な予感がした。...渡したほうがいいよなぁ。

頭の中に選択肢が出てくる。


1、拾わずに無視をして、もう関わらない


2、拾って渡すタイミングを逃し、持っていることがばれ、ストーカーと間違われてこの3年間さみしい思いで過ごす


1しかないよね。

うんそうだ。無視だ無視。

でも、気づいてるのに拾わないっていうのも罪悪感が残る。かといって、拾っても渡せるのか?渡せないよねぇー。あー、もう。どうすりゃいいんだ!

...拾って渡すしかないんだよなぁ。それだけだ。まぁ拾って渡すだけなら何も問題ないよね!


意を決してネームプレートを拾う。

当然だが名前が彫られている。


「九重氷華....」


ただ単純に綺麗な名前だなぁと思った。


「..ッ!」


気づいた時には手遅れだった。本人に聞こえていなかったことを信じ、ちらりと九重を見る。

九重は先ほどより更に身を引いて、おぞましい物を見るような目で一言放つ。


「ストーカー..?」

「断じて違う!!」


ネームプレートを見せて全力で否定する。

九重はそれだけで理解したのか、右手だけ出して返して、という素振りをする。

右手にネームプレートを乗せる。


「い、良い名前だな...」


「…」


「.....それから俺は、神谷だ。よ、よろしく....」

「...」



九重は一瞬怪訝そうな顔をしたが、何も言わずに目線を下に落とし、本を読み始める。


というか、自己紹介も無視なのかよ。

俺ってそんなに第一印象ひどかったのか?

そんなことを考え唸っていると、後ろから聞き馴染んだ声が聞こえて来る。

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