Faker
いろは
第1話
俺は絶対忘れないだろう。
孤独は独りであることに。
困難は友情で解決できることに。
人生には必ず辛い選択が来ることに。
そして、二人が記憶に存在することを。
ジリリリリ...
携帯のアラーム音によりベッドから一人の男が這い出してくる。
ガタンッ!!!
「痛っ!?」
ベッドから起き上がる際に足が毛布に絡まり、転げ落ちる。
そして、そのまま覚醒仕切っていない頭を起こすべく
両目をこすり、時計に虚ろな眼をやる。
- 4月7日(月) 午前6時40分 -
初の登校となる入学式までにまだ時間がある事を確認して、汗を流しにシャワーを浴びに行く。
そして、冷たいシャワーを頭に浴びて、さっぱりした後は新しい高校の制服に着替え、昨晩の残っていたカレーを温め直して朝食として食べる。
そういや、今日は家の前に七時半集合とかあいつらが言ってたっけ...。
再度、時計を確認して、必要な物を適当にリュックへと詰め込む。
ええと、筆箱に財布にイヤホンに携帯に、ギャルゲーをダウンロードしてあるPSvita...
「よし、こんなもんだろ...」
支度し終えるのと同時に家のインターホンが鳴り、甲高い大声が家に響く。
「伸太郎ー!起きてるー?」
大声は低血圧にはとても辛いので、無視せずに玄関へと足を運ぶ。
ドアを開けると、男女二人が外で待っていた。
「おっ、ちゃんと起きれてるじゃん!」
「俺は低血圧で朝はしんどいからバカみたいに大声を出すのはやめてくれ…綾音」
「バカってなにさ!わざわざ来てあげてるのに!」
俺の今の頭痛の半分以上の原因がこいつではないかと思うくらい元気なこの少女の名は赤狩綾音。
綺麗な唐紅の髪に少しつり上がった瞳と華奢な身体で中学時代にはクラスの男子だけで開催された美少女ランキング三年連続一位だった。 たしかにルックスは良いのだが…。
俺も三年間一緒のクラスだったが告白の現場を何度か見たことがある。
まあ告ったやつらの大半が玉砕してたけど...成功したやついるのかな?
そして彼女自身気にしていることは身長が低いことらしい。150を少し上回る程度と聞いた。俺から見下ろされるのが嫌だとか。
初日から制定の紺色のブレザーを腰に巻き、しわができていて、スカートは指定の基準より遙か短く、細く綺麗な太ももが露わとなっている。
早速先生に注意されてしまえ!
「高校生活、流石に初日は来るんだな!」
そう言って朗笑する綾音の横の男子は俺の唯一無二の親友である黒井一斗だ。
今日高校に行けるのもこの黒井一斗の性格あっての物だと思う。
中学の不登校になった頃に色々とお世話になった。
例えば家の近い綾音に声をかけては、毎日家のインターホンを鳴らしては起こしにかかってきた。
そんなことを休みの日まで、生活習慣をつけるという理由で来るくらい超優しい奴だ。
もはや嫌がらせに感じるくらいの優しさだ。
でも休みの日くらいは寝ていたい。来るな。
学校では先生にもよく頼られていて頭も悪くはなく、むしろテストの順位よかった気がする。
「一斗はなんかすげー高校生感あるな。体格がいいからか?」
「ははは...伸太郎はあんまり変わらないな」
「いやいや、なんか褒めろよ…ていうか花音は?」
花音が集合って言ったはずなんだがな...まさか寝坊か?
「え、あいつならおまえの家入っていったぞ」
「...は?」
頭の上に疑問符が浮かぶのと同時に家の中から何か重い物が落ちる音と女の子の悲鳴が聞こえてくる。
額と背筋に嫌な汗が流れ落ちる。居ても立ってもいられず家の中へと走り込む。
音の出所は二階の自分の部屋だ。階段を駆け上りながら神様に部屋の無事を祈る。
「何してんの!?」
ドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは床に布団を落として何かを隠そうとする少女。
「やっばー。あ、伸太郎君!お、おはよー」
左手で布団を支えながらぎこちなく右手で手で振ってくるこの女子は斬山花音。
どことなく頭のねじが何本か抜けているようにしか見えない花音は一斗の幼馴染みで、一斗と仲良くしている間にいつの間にか知り合いになった内の一人である。
外見はともかく可愛い方でふわふわして中身もふわふわしている。綾音とは違う方向性の可愛さだ。
詳しく言うと、髪の色は茶色で天然パーマのロングで胸も大きく、見るからに優しい顔立ちしている。
とりあえずすごい可愛い(語彙力皆無)。
たぶん世の中の男性の理想像だろう。もはや存在自体がふわふわの雲かよ!と思うくらいに身も心もふわふわしている。
そんな脳内がふわふわで満たされながら机に目をやると、昨日の夜中まで使っていたはずのノートPCが無くなっていることに気づく。
「はい、えーっと7時24分35秒窃盗の疑いで現行犯逮捕な」
そう冗談めかして腕時計を見るふりをして言う。
しかし事件は大きく動く。
「誤解だよ!窃盗じゃなくてね...」
バサッ!!!
花音が両手で大きく布団をめくりあげる。
そこには誰もが想像しなかったであろう被害の現場が現れた。
「え…」
そこにあったのは再起不能と言わんばかりの液晶が粉々になったノートPCだった。
「うわぁぁああああ!この人殺しいいいい!」
「こりゃあ、やったな花音。」
「あららー、これはご愁傷様で...フ..フフッ」
俺の悲鳴を聞きつけた二人が部屋に入ってきて状況を理解する。
一人は何故か嬉しそうにしていたが知ったことではない。
「ごめんね、神谷君...机の奥の窓からみんなを見ようと思って外をのぞき込んだら足が当たって落ちちゃったの。本当にごめんね」
しょんぼりとしている花音を見ていると罪悪感を感じる。...え、俺が悪いの?なんで?
「もう良いんだ...これを機に画面の中の美少女とは少しばかり距離を置くことにするよ...それより怪我はなかったか?」
ノートPCで攻略してきた数々の二次元の産物は記憶から消し去ろう。
「ちょっと足の裏を切っちゃっただけだから大丈夫だよ」
そうは言いつつも意外とキズは大きかった。
「一応、消毒して絆創膏は貼っとけよ。一斗、一階にあるから花音を連れてってくれ」
「おう、分かった」
一斗に連れられ渋々、花音が降りていく。
「んで、綾音は暇なら片付け手伝ってくれ」
許可なしに部屋を物色し始めていた綾音に声をかけると、はーいという何ともやる気のない返事が返ってくる。
この返事は絶対にやらないやつ。
仕方ないので一人で液晶の破片を掃除しているとベッドで仰向けになりながら漫画を読み始めた綾音が問いかけてくる。
「ねえ、本当に戦争とかあるの?こんなにも平和なんだよ。それに、よく4人とも国立魔法師騎士養成第一高に入ったよねー」
「お前の場合、決断したというより、ノリで決めてたろ。さらに言うと、今でもお前が試験に受かった事に驚きを隠せないな」
今、綾音が言ったように俺たち4人が入学する高校は普通の学校とは違う。
この世界には科学技術の他にもう一つ、今住んでいるこの国を築き上げる上で重要なものがあった。
それは、魔法だ。
魔法というものを無くして、この国は無かっただろう。
そしてその魔法を使う者のことを魔法術士または魔法騎士という。そんな人たちを育成するのが俺たちの入学する国立魔法士養成高校だ。
「...そうだな。俺は中学の時から既に入る気はあったけどな。でも何故綾音は入ろうとしたんだ?お前にはのうのうと生きる事だって出来ただろ?」
「何でだろー。でも先生から〝この学年で素質があるのは数名で、お前はその一人だ〟って言われたらするしかないよねー」
因みにこの高校に入る為には、中学の時の検査で選ばれなければならないようだ。
まあ素質があるかは大体、遺伝で決まるらしい。
「適当だな、おい」
「でも私らしいでしょ?」
そう言って漫画から目を離して、微笑しながらこちらを向く。
「お前らしいな...あと白色ってのも。」
この位置から白い布地が視えるという事に気付いた綾音は無言でスカートを押さえ、睨みつけながら殺気を放ってくる。
「殺す...」
なんと!俺は社会的に抹殺されるらしい。ていうかその前にベッドで無防備に横になるのが悪いんだろ...更に言うとスカートの長さを校則基準に合わせていない方も悪いぞ。
「おーい、そろそろ掃除が出来たかー?学校行くぞー」
一階で手当てし終えたらしい一斗が二人を呼ぶ。
「まあ、今色々考えるより学校に行って目標見つけようぜ」
「それもそうだ。後、あんたを訴える件もゆっくり考えとく」
「それは考えないでいい」
そして、待っている一斗へ返事をする。
「「今行くー」」
二人が出て行った部屋にはまるで応援するかのように窓から明るい日差しと春風が吹き込んでいた。
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