第7話 映っていたもの

「え~っと、これ、ですね。ここからここまでがその日の映像で、ここの数字がカメラの番号です」

「ありがとうございます。それでは確認させてもらいますね」

 向井がマンションの管理人と場所を交代し、モニターに向かう。

 どうやら防犯カメラの映像はファイル化されて、設置してあるパソコンのハードディスクに保存されているらしい。

 向井はその中から目当ての映像を探し始めた。

「随分としっかりとしたセキュリティーですね」

 大林が所在なげに立っている管理人に話しかける。

 

「は、はい。このマンションのオーナーは私の親戚なんですが、元々は自分の娘が年頃になってきて、親の立場から安心できる住まいを探してもなかなか希望に添う所が無いので、自分で建てたらしいです。なんで、若い女性の一人暮らしでも安全なようにしたんだとか。

 オートロックですし、入口と非常口以外からは出入りできないようになってます。非常口も鍵が無けりゃ外からは開きません。屋上からベランダに降りられないようにもなってますし、そもそも屋上は施錠されているので上がることが出来ないです。カメラもあちこちに設置されてますから誰にも見つからずに中に入るのは無理ですよ。といっても、時々、入居者がオートロックを開けた隙に入り込む人もいますけど」

 刑事を前にしているせいか、緊張した様子で管理人が説明する。

「となると、出入りする人は必ず複数のカメラに映ってるはずなんですね?」

 大林が穏やかな口調で確認すると、管理人は頷いて肯定した。

 映像データは凡そ2ヶ月分が保存され、順次古いものから新しいデータに上書きされていくらしい。

 

「あった! 大林さん、ありましたこの映像です」

 目当てのファイルが見つかったらしい向井の言葉に、大林は背後からモニターを覗き込んだ。

 そこには一人の男性がマンションの玄関ホールに入ってくる映像が映し出されていた。

 向井が持っている数枚の写真と見比べ、俯いて判別しづらいもののそれが殺された被害者、柴垣彰であることがわかった。

 ファイルの日時は月曜日の午後11時過ぎ。

 柴垣が遺体で発見されたのは月曜日の午前10時。絶対にあり得ないはずの映像だった。

 

 

 数日前、大林と向井は柴垣との関係や殺害と当日のアリバイなどを確認するために理恵の元を訪れた。

 平日ではあったが、事前に理恵の勤務先に確認したところ当日は欠勤しているらしく、自宅マンションへ向かうことにした。

 大林が名乗ると、理恵はすぐに部屋へ招き入れてくれたものの、その姿は憔悴し、華やかさを感じる美貌も影を帯びていた。

 喪服を着ていたので尋ねたところ、被害者の妹から連絡があり、葬儀に参列するために準備をしていたらしい。

 ただ、柴垣の死因に関しては詳しく聞いていなかったらしく、大林の説明に相当なショックを受けたようだった。

 

 柴垣の恋人である理恵は、被害者が死亡した状況から考えて容疑者とまではいかなくとも重要参考人に位置づけられている。なので任意ではあるが詳しく事情を聞くために大林達が訪れたのである。

 しかし、話を聞いた理恵の様子から大林は理恵が柴垣の死に関与していないだろうとの印象をもった。

 だが、さらに話を聞いた大林と向井は、続いた言葉に絶句することになる。

「先週の金曜日は、体調を崩してその2日前から寝込んでしまっていて、その日もここで休んでいました。会社の先輩、宮崎可奈さんが来てくれて、えっと多分夜の7時頃から9時頃まで色々と世話を焼いてくれて、その後に彼が来ました。

 時間は9時半くらいだったと思います。30分位で彼が帰ってからは、すぐに眠りましたから部屋からは出ていないです」

 

「なるほど。その時に最後に柴垣さんと会ったんですね。その後に連絡とかはありましたか?」

「え? いえ、今週の月曜日にも会いました。夜の、多分11時頃だったと思いますけど、突然彼が来たので。普段は平日に来ることはあまりないのに」

「は?! 月曜日、ですか? それは先週のことではなく? 間違いなく本人でしたか?」

 戸惑いながらも頷く理恵。

 大林と向井は呆然として顔を見合わせた。

 

 

「後ろにもう一人いるな。誰だ?」

 モニターを見ていた大林が画面の一角を指さしながら言った。

 柴垣の後ろ、2メートルほどの所に桜色のワンピースにフリルの着いたカーディガンを羽織った若い女がいる。セミロングほどの髪と俯いた姿勢から顔の判別は出来ない。

 大林が管理人の方を振り返り、見覚えがあるか目線で問うと、管理人も向井の後ろからモニターに目をやり、首を傾げた。

 

「……見覚えは、ありませんねぇ。住人の知り合いとかかもしれ…え?!」

 モニターを見つめていた管理人が言葉の途中で驚いたように声を挙げる。

「どうしました?」

「い、いえ、鍵をインターホンの下の読み取り機に通さないとオートロックが開かないはずなんですけど……」

「別の人が開けたのか?」

「いえ、誰もインターホンのあるパネルには近づいていないですね。管理人さん、部屋の方からロックを解除する事は?」

 映像を少し前から再生し直して確認した向井が管理人に問うが、管理人は首を横に振る。

 

「インターホンが鳴らされれば、呼び出された部屋からロックは解除できますけど、それ以外は出来ません。鳴らされていない状態で解除ボタンを押しても反応しないようになってますから」

「リモコンのようなもので遠隔操作は?」

「で、出来ません。そんな装置付いてませんから。駐車場のシャッターじゃあるまいし」

(それもそうか。だったら誤作動か? だが、そんなにタイミング良く開くなんてあり得るのか?)

「と、とにかく、別のカメラ映像も確認してみます」

 そう言って向井は別のファイルを開く。

 

 1階エレベーター前のカメラでは、柴垣と思われる男性と身元不明の女性が乗り込む映像が確認された。

 その柴垣の足取りは左右に身体を揺らしながら、どこか夢遊病患者のような覚束ない、不安を感じさせるような動きだった。女性の方は逆に滑るような動きだったが相変わらず俯いたままで顔を覗かせることはなく、大林も向井も気にとめてはいなかったが歩いているにもかかわらずその服は風に靡く様子がまったくなかった。

 

 エレベーターの中の映像ではまたもや奇妙な点があった。

 乗り込んだ2人が階数ボタンを押していないにもかかわらず、エレベーターが動き出したのだ。

 向井がふと思い立ってエレベーター前の映像を再度確認したが、そこでも2人はボタンを押していない。なのにエレベーターの扉は開いていた。

 もちろん別の住人がボタンを押した可能性がゼロではない。しかし、時間も深夜に近いし、事実、理恵の部屋のある7階に到着したエレベーターはその後しばらくは動くことがなかった。

 

 7階廊下のカメラ映像。

 そこには柴垣を招き入れる理恵の横顔と、促されて部屋に入っていく男の姿、それからその後に続いた女の姿が映し出されていた。

 だが、理恵の顔と目線から女の姿を理恵は気付いていないように見える。

 あれだけの至近で、しかも柴垣のすぐ後ろにいたのに、だ。

 理恵から事情を聞いたときには女性の話は出ていなかったし、大林が言葉を選びつつ状況を説明した時に見せた理恵の錯乱状態。とても嘘を言っていたり隠し事をしているようには見えなかった。

 

 

「……何なんですか、アレ。あり得ないですよ!」

「落ち着け! それを調べてるんだろう。とにかく、あの男女の正体を調べなきゃどうにもならんだろう」

 全ての映像を確認し、車に戻るなり向井が叫んだ。

 大林が宥めるように言うが、内心は向井と同じ心境であった。

 不可解な点は多々ある。

 操作することなく開き、動く扉やエレベーター。不自然極まりない柴垣と女の歩き方。理恵に気付かれる様子がなかった女。

 

 その後の映像も今日に至るまでの全て確認したが、その後理恵の部屋からその男女が出た映像を確認することは出来なかった。

 理恵本人は出勤時や帰宅時に出入りしているのが確認できたが、あの男女は部屋から出ていない。

 だが、大林達が理恵の部屋を訪問した際、さりげなく部屋の様子や理恵の目線を観察していたが、あの部屋に理恵以外の人物が居る形跡は全くなかったのだ。

 そして……。

 

「……俺、夢に見そうですよ。何なんですか、あの目!」

 向井がハンドルに突っ伏しながら呻くように言う。

「…………」

 大林もそれには何も言うことが出来なかった。

 可能性は低いとは思ったが、ベランダからロープか何かで外に出ていないかどうか確認するために、マンションの裏手、街灯上部に設置されてベランダ側を映しているカメラの映像を出したのだが、男女が理恵の部屋に入った直後の時間、暗がりを赤外線カメラで撮影された映像に突如として映り込んだのは、”目”だった。

 片目の、至近から覗き込むような瞳。

 

 形からして人間の、しかし、最初に映り込むはずの目以外の部分はまったく映らず、突然目だけが映像に入り込んでいた。

 まるで入り込むときと離れるときの映像を編集で消したかのようなソレは、まるでモニター越しに大林と向井を観察するかのように映っていた。

 映像右下に表示されているカウンターの数字を見ると、数分ほどでその目はかき消えるように消失し、何の変哲も無い風景が戻った。

 街灯には登るための突起物など無いし、仮にあったとしても数分とはいえわざわざよじ登ってぶら下がることまでしてカメラを覗き込むような真似は誰もしないだろう。

 そして、大林にはあの”目”が昏い喜びで嗤っているように思えていた。

 

「……この事件、普通じゃないですよ」

「そう、だな」

 向井が言うとおり今回の事件は普通じゃない。

 話しに聞く医師や看護師ほどではないが、刑事なんて仕事も長くやっていると不可解な事に遭遇することがある。

 それは、死んだはずの人物が目撃されたり、被害者の遺族の夢枕で被害者が犯人の特徴を伝えたり、事件を追っていた刑事が何かに導かれるように犯人にたどり着いたり。中には犯人が祟りとしか思えないような出来事に遭遇して死んだり自首してくるなんてこともある。

 だが、今回の事件ほど気味の悪いものは聞いたことすらない。

 

「とにかく、今回の映像を分析してもらえば何かわかるかもしれん。気持ちはわかるが切り替えろ」

「へ~い」

 何とか不安になる気持ちを逸らすためだろうか、あえて軽い調子で返事をして向井は車を発進させた。

(鍵を握っているのはやっぱり白河理恵か。殺人に関わっているとは思えないが、一度ゆっくりと話を聞く必要があるな。夜にでも来てみるか)

 そう考えながら、この事件がこのまま終わるとは思えず、不安と得体の知れない恐怖感が大林の脳裏を過ぎっていた。

 

 

-----------------------------------------------

 

 

「白河さん、4番に外線。木下さんからの紹介だって」

「あ、はい。……もしもし、お待たせいたしました、白河と申します。はい、伺っております。はい、そうですね…」

 同僚の言葉で入力の手を止めて電話に出る理恵を、可奈は心配そうに見つめた。

 理恵の声には張りがあり、傍目には意欲的に仕事に打ち込んでいるように見える。実際、ここ数日の理恵は情報の収集や分析、顧客との密なやり取りと業務に精力的に打ち込んでいる。

 だが、可奈からすれば、現実を忘れようと無我夢中で自分を追い込んでいるようにしか見えなかった。

 そして、可奈の想像したとおり、理恵は家族とも決別し、最愛の恋人を失い、残された今の仕事を唯一の拠り所として縋り付いている状態だった。

 

「なんか、最近の白河さん、スゴいよなぁ」

「必死って感じよねぇ。聞いたんだけどぉ、白河さんついこの間も休んだじゃない? 何かぁ、恋人が亡くなったんだってぇ。忘れようとして仕事に打ち込んでるんじゃない? 可哀想よねぇ」

 コソコソと囁くような噂話に、怒鳴り声を上げそうになり可奈は拳を握りしめて堪える。

 可哀想と言った同僚は、そのくせ興味津々と言った表情と声音を隠そうともしていない。彼女の目には理恵はどう映っているのだろうか。

 

「マジっ? んじゃ俺、恋人に立候補しちゃおうかなぁ」

「何よ、弱ってるところを狙おうっての? ふーん? 清水君ってああいうのが好みなわけ?」

「だって彼女、結構美人じゃん。それに、傷心の女の人ってそそられるんだよなぁ…」

 バンッ!

「あ、ゴメンねぇ。あ、そうそう、清水君、話してるところ悪いけど、来週持って行く提案書、どうなってる?」

「あ、す、すみません! まだ途中です。すぐやります!」

 聞いていられなくなった可奈は、分厚いファイルをわざと大きな音がするように床に落とし、会話を中断させた上で会話の片割れの男性に話を振った。

 清水と呼ばれた男は、慌てて姿勢をデスクに戻し作業を再開する。女の方も気まずそうに自分のデスクに戻っていった。

 可奈は一つ息を吐きながら大人げない自分の態度に苦笑を浮かべる。

 

「先輩、気にしなくても大丈夫ですよ」

「そんなんじゃないわよ。あ、そうだ、どう? 帰りにどこかで食事でもしない? 美味しい魚料理のお店見つけたの」

「ありがとうございます。でも来週のプレゼンの資料も作らないといけないので」

 会話が聞こえていたのだろう、理恵が可奈に笑いながら言い、無理をしているのがわかっている可奈が誘うも、理恵は申し訳なさそうな表情で断った。

 そう言われれば可奈もそれ以上は言うことは出来ない。

 それでも、限界が見て取れれば強引にでも連れ出すつもりではあったが。

 しばらく可奈は理恵をジッと観察するように見ると、溜息を吐いてデスクに向き直った。

 

 

「ふぅ……」

 バスタブに身体を沈めながら理恵は大きく息を吐く。

 今日も10時近くになってからの帰宅であり、ここ数日この状況が続いている。

 これは別に会社が忙しいとかではなく、早く帰宅すればその分いろいろなことを考えてしまう時間が増えるので敢えて忙しくしているというのが実情である。

 それでも入浴や寝入りばなといったタイミングには考えないようにしていたここ数日の出来事が頭を過ぎり、心が千々に乱れるのを避けようがなかった。

 もちろん、恋人を失った悲しみは、ある。

 だが、それ以上に理恵を押しつぶしそうになっているのは恐怖の感情だった。

 

 バシャ!

 湯を手ですくい上げて顔に叩きつつけてしばしそのまま覆う。

 先日尋ねてきた刑事から、そして葬儀で彰の家族から聞いた、彰の死んだと思われる日時。

 その翌日に、確かに理恵は彰と会っていた。それだけでなく抱かれさえしたのだ。

 思い返せば、あの時の彰は普段とはあまりに雰囲気が違っていた。それはそうなのだが、それでもあれは間違いなく理恵のよく知る彰だったし、そのこと自体は疑いようがないのだ。

 それを考えると、熱い湯船に身を浸しているにもかかわらず身体の芯から冷え切ってしまうようなそんな震えがきてしまい、理恵は両腕で自身の身体を強く抱きしめた。

 

 身体から汗が噴き出すほど温め、それでも尚冷えた身体を無理に動かしてバスタブから出ようとしたとき、隣の脱衣所から微かな物音と、磨りガラスの向こうで何か、いや、誰かが横切ったような影が視界の隅に映った。

「だ、誰?!」

 思わず理恵は誰何の声を挙げ、震える手を何とか伸ばし一気に扉を開け放つ。

 ガラッ!

 スライドドアの音が響き、脱衣所の中が見通せるように開いたが、そこには誰も居ない。

 今確かに誰かがいたような気がしたのだが、その姿はどこにもなく廊下へ繋がるドアが開いた様子もない。

「気の、せい? そ、そうよね」

 

 理恵は不気味なものを感じながらも、自分にそう言い聞かせた。

 この部屋の鍵は理恵以外に誰も持っていない。

 正確には管理人は持っているのだろうが、さすがに勝手に入ることなどあり得ないだろうし、家族はもちろん、可奈や彰にさえ鍵を渡したことなど無いのだ。

 玄関は当然施錠されているし、女のひとり暮らしとあって理恵も戸締まりを忘れたことなど一度も無い。だから、この部屋に理恵以外の誰かがいることなどあるはずがないのだ。

 未だに激しく打ち続ける心臓を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸し、脱衣所へ出て身体を拭く。

 普段ならば脱衣所で髪を乾かすのだが、流石にそんな気にはなれずにドライヤーを持って脱衣所を後にした。

 そんな理恵の後ろ姿をジッと見つめる”何か”が鏡に映っていることに理恵が気付くことは無かった。

 

 濡れた髪をタオルで拭きながらリビングに移動した理恵に、ダイニングテーブルに置きっぱなしになっていたものが目に入る。

 朝取り忘れた経済新聞と数枚のチラシ、DM、そして、白い手紙。

 努めて意識しないようにはしていたが、あの手紙は相変わらず理恵の部屋のポストに毎日投函されている。

 理恵はそれをつまみ上げると、キャビネット脇につるしてあるビニール袋に入れた。本当は捨ててしまいたいのだが、刑事から何も指示させていないので一応纏めて取って置いてあるのだ。

 刑事である大林はまたこちらに来ると言っていたので、その時にでも渡すつもりでいる。

 通勤途中に駅で買ったので重複してしまった新聞はストッカーに、DMはシュレッダーで処分して、理恵はリビングのソファーで髪を乾かす。

 

 肩に届く程度の短めの髪はさほど手間もなく乾き、コンセントを抜いてからドライヤーをローテーブルに置いて、理恵は飲み物を準備するために立ち上がる。

 風呂上がりで渇きを覚えていたからだが、途中で明日会社に持って行こうと思っていた資料を忘れていたことに気がつき、寝室へと行き先を変えた。

 学生時代から使っている本棚から目的の書籍を引き出し、内容を確認する。

 追加でもう一冊の書籍を取り出してそれを持ってリビングに戻った理恵は、仕事用バッグにそれらを詰め込もうとしたその時、ゴーッ、という音が響く。

 視線を音の方に向けると、ドライヤーが動いており、その音であるのに気付いた。

 そのドライヤーの吹き出し口の前には白いビニール袋がいつの間にか置いてある。

 慌てて理恵はドライヤーに駆け寄り、レバーを戻して止める。

 

「な、何で? 確かに止めたはずなのに」

 呆然と呟くが、それに答える者が居るはずも無い。

 それに、テーブルにドライヤー以外の物を乗せた覚えもなかった。

 ドライヤーの前にあったビニール袋は熱のせいで縮れている。そして少し焦げたような臭いも漂っていた。

 理恵はそのビニール袋を確かめるように中を覗き、凍り付いたように固まった。

 中に入っていたのは”白い手紙”だ。

 キャビネット脇に吊してあった袋の中にあるはずの、ソレが袋ごとそこにある。

 少しの間呆然とソレを眺めた理恵は、鼻をつく焦げ臭さに我に返ると、恐る恐る中身を取り出した。

 見たくはない。見たくはないが、それでもそれを放置して燃え始めでもしたらもっと困る事になる。

 

 震える手で数通の封筒を広げると、封筒の隅が焦げたように変色している物が見つかった。

 まだ燃えているようには見えないが、それでも念のため慎重に封筒の口を手で破り、中身を出す。

 焦げ臭さは、ない。

 しかし、白かったはずの紙が、斑に変色しているのが薄らと見えたので、その紙を広げ、理恵は叫び声を上げた。 

 

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