サイド非リア充:オタク部屋
ここでクエスチョン。学校一の美少女があなたの家に行きたいと言いました。さて、あなたはどうしますか?
高校二年、
既成事実を作りに行く!
……なんて、そんなことをできる勇気は、僕、和泉典之にはなかったようです。
というか、女の子と既成事実を作りに行く勇気があるなら、そもそもぼっちになんてなってないよね。
「へぇ、ここが和泉君の家かぁ……。素敵な家だね」
僕の家を眺めてそう言うのは、学校のマドンナ、
はぁ、どうしよう。僕、他人が家に来た時のもてなし方とかよくわからないんだけど……。
「和泉君、今日ご両親は?」
「あぁ、うちは共働きで、二人ともまだ帰ってきてないと思う」
「じゃあ、兄弟は?」
「僕は一人っ子なんだ」
「そっか。ってことは……、二人きりだね」
彼女から何気なく放たれたその言葉に、僕はドキリとしてしまう。
「お邪魔していいかな、和泉君」
「あ、はい、どうぞ……」
そして、僕たちは家に入った。
とりあえず僕は、菊池さんをリビングに案内し、お茶を出す。
「おぉ、このソファふかふかで座りやすいね」
菊池さんはソファに座り、感想を述べる。
えと、これからどうすればいいのかな? あ、そうだ。とりあえずラインの交換をしたほうがいいよね。
「あ、僕、二階からスマホ持ってくるね」
「うん。もしかして、和泉君の部屋は二階にあるの?」
僕が頷くと、菊池さんはソファから立ち上がり、
「和泉君の部屋見てみたいなぁ。行ったらダメ?」
僕は首を大きく横に振った。絶対にダメだ! 僕の部屋に菊池さんを招くのはダメだ!
「え、どうして?」
菊池さんが不思議そうに訊いてくる。
「え、あ、その、僕の部屋、すごく散らかってて、床に物が散乱してるし、とても人様に見せれるような部屋じゃないっていうか……」
「え? 私はそんなの全然気にしないよ?」
「いや、それは僕が気にするというか……」
あんな部屋を見られてしまったら、菊池さんに嫌われてしまうに違いない。
「あ、それなら、いいこと思いついた!」
菊池さんは人差し指をピンと立てて、
「一緒に部屋の片付けしようよ。片付いてれば、部屋に入っても問題ないんでしょ?」
「うん、そうなんだけど……。ってあれ? 一緒に片付けだと、菊池さんが僕の散らかった部屋に入ることになるのでは?」
「うん、そうだね」
「いやいや、それじゃあ意味ないじゃん!!」
「意味はあるよ? 二人で片付けた方が早く片付くし……」
「え? いやいや、でも……」
「いいからいいから、早く行こうよ!」
「え? え?」
なんだかよくわからないまま、僕は菊池さんを自分の部屋に招くことになってしまった。
二階に上がり、僕の部屋の前に立つ。
「ドキドキ、ワクワク」
なんかすごい菊池さんが楽しそうなんですけど。ドキがムネムネしてるんですけど。そしてすごく可愛いんですけど。
「あの、一応警告しておくけど、マジで汚いよ? ワクワクする要素一つもないよ?」
「うんうん、わかってるって」
いや、さっき思いっ切りワクワク言ってたよねこの人。ホントにわかってるのか?
「警告はしたよ? 後悔しても知らないよ? あと、僕に失望して嫌ったりはしないでくださいお願いします」
「うん、最後のは自分の願望だったね。……大丈夫だよ! 私は和泉君の部屋がどんなでも後悔しないし、失望もしないし、それで嫌ったりとかもしないから!」
「……ホント?」
「ホントだよ! 私から部屋に行きたいって言ったんだから、絶対に大丈夫だよ!」
「…………わかった。じゃあ、開けるね」
僕は覚悟を決めて、自分の部屋を開ける。かつて、自分の部屋を開けるのにこんなに緊張したことはあっただろうか。
一面に、僕が休日のほとんどを過ごす部屋の景色が広がった。
壁には隙間も見当たらないくらいにアニメのポスターが張り巡らされており、本棚にはラノベやマンガがぎっしりと並べられている。さらに、陳列棚にはアニメの美少女フィギュアが大量に飾られている。部屋の隅には、僕がいつも寝る時に使っている布団と、アニメの推しキャラの抱き枕。
誰がどう見ても、僕の部屋はいわゆるオタク部屋だった。
完全に三次元を捨てた男の部屋だった。
床には読みかけのラノベやマンガがそこら中に散らかっている。
「あれ、思ってたよりは散らかってないね? 和泉君があんまり念を押すから、もう少し散らかってると思ってたんだけど……。全然綺麗じゃん!」
「き、きれい……? これが? 菊池さん、床見てよ、床」
僕は部屋に散らばった大量のマンガに指差しながら言った。
「う~ん。まあ、男なら割とよくあるのかなって感じだけど?」
「いや、男の人でもちゃんと部屋綺麗にしてる人はいるからね?」
「うん、それはわかるけど。まあ、和泉君の散らかり方はまだ普通だと思うよ?」
「一体どんな部屋を想像してたんだ……」
もっと汚い部屋を想像していたというなら、それはそれでなんだか悲しい。
「それにしても……」菊池さんが僕の部屋全体を見渡しながら「和泉君、アニメとか好きなんだね?」と言った。
引かれたか? こんなあからさまなオタク部屋、引かれて当然だとは思う。そもそも、誰かを招くことを前提に作った部屋じゃないしな。
「なんか、すっごい楽しそうな部屋。ねぇ、ここにあるマンガとか、おすすめのやつ貸してよ」
「え……。いや、多分、僕が持ってる作品って基本男性向けだし、菊池さんが楽しめそうなやつはあんまりないと思うんだけど……」
「私、和泉君が読んだ作品ってだけで楽しめると思うから、大丈夫だよ」
「え……。うん、じゃあ、一応考えとく」
「片付け終わるまでに考えといてね?」
「う、うん……」
なんだろう。どうして、菊池さんはこんなにもウキウキとしているんだろうか。
やっぱり、僕のこと好きなんじゃ……。いや、だって、普通なんとも思ってない男子の部屋とか行きたがるか?
菊池さんが考えていることがわからない……。
楽しそうに僕の部屋の片づけを始めた菊池さんを見ながら、僕はそう思った。
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