サイドリア充:メタ発言は控えめに

 放課後。美佳子みかこ先輩からメールで、生徒会室に呼び出された。

 すっぽかしたら何をされるかわかったもんじゃないので、俺は大人しく生徒会室へ向かう。

 愛由あゆを待たせているので、なるべく早めに切り上げたい。

 俺は生徒会室のドアを勢いよく開け放つ。


「頼もう!」


 道場破りに来たようなノリで、生徒会室に入る。すると、美佳子先輩が一人、上座に座ってこちらを睨んでいた。


「来たわね、たっくん」


 緊張感のある空気に、俺は気圧けおされる。


「な、なんのご用でしょうか?」


 普段よりも多少丁寧な言葉遣いで、俺は訊く。


「単刀直入に訊くわ。あなた、新島にいじまさんにプロポーズしたって本当?」

「へ?」


 思わず変な声が出た。俺は軽く咳払いをして、


「そそそそそんなわけないじゃないですか!? どこ情報ですか!? それ!」

「私の情報網をなめないでもらえるかしら? 私はこの学校の支配者なのよ?」

「生徒会長ってだけですよね!? それも前期の!」

「あら、私が裏で校長を操っていることを知らないの?」

「衝撃の事実! あんた何者だよ!?」

「それで、あなたがあの、どう考えても負けヒロインの金髪ツインテール幼なじみの新島さんに、あろうことかプロポーズしたというのは、本当なのかしら?」


 怖い。笑顔でメタいことを言う美佳子先輩怖い。


「いや、あれはあくまで冗談で……」

「冗談!? あなた、自分がどんな立場かわかってるの? そんなことを冗談でも新島さんに言ったら、勘違いされるってわかってたわよね!? それとも勘違いされたいの? そうやって、本命がダメだった時のために、全ヒロイン何かしらのフラグを立てておくつもりなの?」

「いやいや、何の話ですか美佳子先輩!」


 美佳子先輩が席を立ち、ぐいぐいと俺に詰め寄って来る。胸当たってるけど、そんなこと言える状況じゃねぇな、これ。


「当ててるのよ?」

「はぇ!?」


 また変な声出た。っていうか、たまに俺の心読むのやめてもらっていいですか?


「どうせ、あなたが今日生徒会室に来たのだって、私とのフラグ作りのためなんでしょ? あぁ、最近生徒会長出番ねぇから、ここら辺で出番作っとくかぁ……。くらいのノリなんでしょ!?」

「やめろぉ! それ以上のメタ発言はギャグじゃ誤魔化せない!」


 とにかく、俺は大きく咳払いをして、話の流れを変えようとする。


「フラグとかはよくわかりませんけど、俺は別に愛由のことを幼なじみとしてしか見てないし、結婚とかする気もありませんから!」

「そうね、ハーレム王を目指すたっくんとしては、誰か一人のヒロインを選ぶなんて言語道断。絶対にありえないわよね?」

「美佳子先輩はメタ発言をしないと死んでしまう病気にでもかかってるの?」


 ホント、メタ発言ってよくないよ。物語を純粋に楽しめなくなるから!


「もう金輪際、新島さんを勘違いさせるような発言はしないって誓える?」

「……はい、誓います」


 そうでも言わないと生徒会室から解放してくれそうもないので、俺は渋々そう答える。いや、別に愛由を勘違いさせたいわけじゃないよ?


「じゃあ、この契約書にサインしてもらえるかしら?」

「なんでそんなもん用意してるんだ! まぁ、別にいいですけど……」


 と、俺は美佳子先輩が用意した契約書にサインしようとするが……。ん……? これは……?


「婚姻届じゃねぇーか!!」


 俺は紙を思いっ切り床に叩きつけた。


「チッ。気づかれたか……」

「悪魔のような人だ!」


 俺は全力でツッコミを入れる。


「たっくん。私はいつでも準備できてるわ……。ほら、私のこの身体……欲しくない?」


 美佳子先輩は胸を俺の体に寄せてくる。そして、


「ほら、私今日、紐パンなの」


 俺の手を掴み、無理やりスカートの中を触らせようとしてくる。

 美佳子先輩の太ももは程よく筋肉がついており、とても触り心地が良くて、きっとお尻なんかもすごく綺麗なんだろうなと思う。

 美佳子先輩に掴まれた俺の手は、そのまま吸い寄せられるようにスカートの中へ……。


「やめてください!」


 俺は掴まれた手をはじき、なんとか押しとどまる。


「私じゃ、ダメ……?」


 今にも泣きだそうな先輩を見て、俺はどうするべきか迷う。

 先輩の好意は痛いほど伝わってくる。無視はできない。絶対に。


「先輩、俺は……」


 先輩の目をしっかりと見据え、今の思いの丈を、俺は先輩に伝える。


「俺は、他に好きな人がいるんです」


 その時頭に過ぎるのは、あの人の顔だ。まだまともに話したとは決して言えない、あの人。


「先輩の好意はすごく嬉しい。先輩の身体はすごく魅力的だし、こんなにも美しい人に好かれるなんて、まるで夢みたいな話だなって、思います」


 その時先輩は、唐突に俺を抱きしめた。


「もういいわ。最初から、わかってたわよ……。負けヒロインは私だって……」

「先輩……」


 美佳子先輩が俺を抱きしめる力が、さっきよりも強くなる。


「それにしても、早過ぎないかしら? まだ私たち、デート回だって挟んでいないのに……。でもね、たっくん、私はあなたの、そういう誠実なところが好きよ。だから……」


 先輩は一度俺から離れ、俺の唇に口づけをしてきた。

 ファーストキスは、美佳子先輩とになってしまった。


「どうか、これからも好きでいさせて……」


 泣きながら、彼女は振り絞るようにそう言った。

 こんなにも誰かに愛されたのは、初めてかもしれない。

 これはきっと、美佳子先輩からの『愛』なんだって、俺は思う。

 俺は先輩の言葉に、静かに頷いた。

 叶うはずのないものを半ば強要させてしまうようなその行為が、正解なのかはわからない。

 でも、こんなに好きでいてくれる人に「もう好きになるな、諦めろ」と言ってしまうのは、あまりにかわいそうなことだと、俺は思う。


「絶対にいつか、振り向かせてみせるから! 私、諦めないから!」

「はい、いつか俺を後悔させるような、素敵な女性になってください」


 今でもあなたは十分素敵ですけど、ということはあえて言わなかった。

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