サイドリア充:幼なじみとの回想は強い

 昼休み。成り行きで今日は愛由あゆとあまねと一緒に昼飯を食べることになってしまった。

 ちなみに、普段は俺は男友達と一緒に飯を食べている。


たく! 一緒に食べよ!」


 妙に嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねながら、愛由は俺に話しかけてくる。


「おう。ってあれ? あまねは?」


 俺が訊くと、


「あぁ、なんか、用事ができたから、先に食べててくれってさ」

「そうか」


 恐らく図書委員の仕事かな? なんて思いながら、俺はとりあえず、愛由と昼飯を食べることにする。


「あのね、それでね、択!」

「お、おう。なんだ?」

「今日はお弁当持ってきてないよね?」

「あぁ、なんか今日は学食で済ませてくれって結愛ゆあに言われてな」

「ナイス結愛ちゃん! 昨日メールしといて良かった~!」

「は? なんて?」


 愛由の声が小さくて上手く聞き取れず、俺は聞き返す。


「ううん、なんでもないなんでもない! それでねそれでね、択! 私、今日、なんか本当に偶然、択がお弁当を持ってこない気がしたから、択の分も作ってきたの!」

「え、マジ!? それはもしかしなくても、俺が食べていいってことですよね!?」

「その通り! 私の手作り弁当、存分に味わいなさい!」

「うおぉ! やったぜ! これで食事代が浮く! ありがとな、愛由!! 持つべきものは、料理上手の幼なじみだな!!」

「そうでしょうそうでしょう! もっと褒めて褒めて!」

「よっ! 料理上手! 将来有望! これはいいお嫁さんになりそうだ! 毎日ご飯作ってくれ! なんならお嫁さんになって!」

「えぇ!? え? え? えぇええええええええ!?」


 ん? なんか愛由がすっげぇ驚いた顔してるぞ……。心なしか頬も赤いし。褒められて照れてるのか?


「お前、自分で褒めてって言っておいて照れるなよ!」

「え、いや、っていうか、今のって、今のって……」


 愛由が耳まで真っ赤にしながら、


「……プロポーズ?」

「はぁ!?」


 今度は俺が照れる番だった。


「いやいや、冗談だぞ! 冗談!!」


 周りから「ヒュー! ヒュー!」と冷やかしの声があがる。


「ちっげぇ! そんなんじゃねぇから!! 俺と愛由はただの幼なじみだから!」


 冷やかしてきた奴らに向かって、俺はそう言い放つ。


「幼なじみルートもアリだと思うぞ~!」

「やめろって!」


 愛由も恥ずかしそうに俯いてるし、これは早くなんとかしないと……。


「そっか。冗談か……。そりゃそうだよね……」


 愛由が残念そうに呟いた。

 え、なにこれ? 冗談だったのを、残念がってる? え、待てよ? それって……。

 いやいや、考えるな! これ以上はいけない!!


「愛由、そろそろ飯食おうぜ? 俺腹減ったし」

「そうだね。うん、早く食べよっ!」


 その屈託のない笑顔は、いつもの愛由だ。

 でも、さっきの愛由の残念そうな顔が、俺の脳裏に焼き付いて離れない。

 もしかして……。なんて、考えるだけ無駄なのに。

 愛由が俺のことを好きだなんて展開、ありえるはずがないのに……。

 あぁ、また苦い思い出が、よみがえる。


 ◇◇◇


 保育園児の頃。まだまだ俺たちが幼かった頃だ。

 みんなで、外で鬼ごっこをしていた時のこと。

 幼かった俺は全力疾走した結果、転んで足に怪我をして、走れなくなってしまった。足の傷口から血がだらだらと流れて、その痛さに俺は泣いてしまった。


「択? 大丈夫?」


 愛由が心配して、俺に声をかけてくれる。


「痛い……」


 俺はぐずぐずと泣きながら、何もできない。


「大丈夫、愛由が治してあげる!」

「え、どうやって?」


 愛由は俺の足に念を込めるような仕草をし、


「痛いの痛いの、どんでけー! 痛いの痛いの、どんでけー!」


 そんなものは気休めに過ぎなくて、俺の足は痛いままだったけど、自然と笑みがこぼれて、涙はおさまった。


「ほら、ね! 愛由は魔法使いなのよ!」

「すごい! すごいよ愛由ちゃん!」


 その時既に、俺はなんとなく愛由のことが好きで、だから……。


「ねぇ、愛由ちゃん。僕たち、大人になったら結婚しようよ!」

「うん、いいよ!」


 その約束をしたときは、すごく嬉しかった。


 時は過ぎ、小学二年の頃。

 俺はいまだに愛由のことが好きだった。

 愛由は、幼いながらに男子からモテた。その頃から愛由は可愛かったから。

 それで、とある男子に愛由が告白されているのを見て、


「愛由は俺と結婚するんだ!」


 そんなことを、大勢の人の前で宣言してしまって、


「え、択……。そのこと、まだ覚えてたの?」

「うん。愛由、お前は俺と結婚するんだよな?」

「えっと……。ごめん、まだ……わかんない……」


 その愛由の一言で、俺の初恋は終わった。

 そう、俺は振られたのだ。




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