第二章:主人公は二人もいらない

サイド非リア充:ぼっちはいつもチャンスを逃す

「テーマは、『恋と愛の違い』についてだ!!」


 黒板に大きく書かれた文字を手のひらでバンバンと叩きながら、新井あらい先生は叫んだ。


「な、なんだそれ……。そんなことを国語の授業でやるのか?」


 二星にぼし君がなにやらぶつぶつと言っている。


「いいか? 異論は認めん。バカげていると思っても、真剣に話し合え! 来週の月曜の授業で発表してもらうから、そのつもりで取り組むように。それから、各班に一枚模造紙を配布するので、そこに内容をまとめるように」


 淡々と先生は説明していく。

『恋と愛の違い』かぁ……。きっとこのクラスの中には初恋すらまだの人も少なからずいるだろうし、高校生にこのテーマは難しそうだ。

 特に『愛』の部分についてはほとんどの班が想像に頼ることになりそうだ。

 実際僕も、『恋と愛』なんていう抽象的な言葉の違いなんて、よくわからない。

 それでも自分なりに、真面目に考察するしかなさそうだ。


「では、各班で話し合いを始めていいぞ!」


 先生のその合図で、教室中が一斉に騒がしくなる。


「じゃあ、俺たちも机合わせよっか?」


 周りの人達が机を向かい合わせにしているのを見て、二星君がそう提案してくる。


「そうだね、合わせよう」


 菊池きくちさんがそう応じ、僕たちも机を動かして、向かい合わせの状態になる。


「『恋と愛』かぁ……。中々難しいなぁ……」


 二星君がそう嘆息する。すると菊池さんが、


「そうだねぇ。でも、二星君はモテるから、なんかそういうのわかってるんじゃない?」

「いやいや全然。それに、俺モテたことないよ? 告白されたこととかないし」

「告白されてなくても、二星君はモテてると思うけど?」

「えぇ!? 嘘だぁ!?」

「まぁ、これが女の勘ってやつかな?」

「果たしてそれは信用していいのか……」


 なんだか、とても二人はいい感じだ。僕だけが会話に入れない。やっぱり僕は、ぼっちになるべくしてなったんだ。


和泉いずみはどうだ? 『恋と愛』についてわかるか?」


 二星君に急に話を振られ、僕はおどおどと、口をパクパクと開けたり閉じたりする。


「ふふっ。和泉君、なんだかお魚さんみたい」


 笑われたぁ! 菊池さんに笑われたぁ! さ、最悪だ……。


「ぼぼぼぼ僕は! えっと……。そうだなぁ……」


 とりあえず、咄嗟に頭に浮かんだことを、僕は伝えてみる。


「この人と付き合いたいって思うのが『恋』で、結婚したいって思うのが『愛』とか? ありがちかもしれないけど……」


 最後の方は俯いてしまった。


「うん、確かに。それも一理あるな。なぁ、和泉。だとしたら、結婚した後はどっちだと思う?」


 二星君は僕の意見を聞いて、話を広げてくれる。すごい……。なんか会話してるって感じがする……。


「えっ!? 結婚した後!? そ、そうだなぁ……。わかんないけど、そこからは『愛』は『愛』でも、『家族愛』……とか?」

「おぉ、なんか深い……」


 菊池さんが感嘆している。なんか嬉しい。


「だとすると……、『愛』には種類があるってことか? 『家族愛』他に考えられるのは、『親愛』『恋愛』『博愛』なんて言葉があるな」


 すごい。二星君って頭の回転が早いんだな。頭の回転が早いと、必然的にコミュニケーション能力も高まるのかもしれない。


「『恋愛』には『恋』って文字も入ってるよね? これは『愛』に含めていいの?」


 菊池さんは二星君に疑問をぶつける。これが議論というやつなのかな?


「そうだな……。それは、種類分けするなら中間ってとこか。『恋愛』は状況によって、『恋』にも『愛』にもなる。もしくは、『恋』や『愛』のことを、一纏めにして『恋愛』という考え方もできるな」

「なるほどなるほど。じゃあ、『恋』に種類はあるのかな?」

「種類……と言えるかはわからないけど、『片想いと両想い』って分け方はできるかもしれないな」

「ふむ。なるほどねぇ。それで、これは私の意見なんだけど、『恋』は落ちるもので、『愛』は育むものっていう分け方もできるんじゃないかな?」

「それは案外真理かもしれないな。それで言うと、『恋』は外見、『愛』は内面っていう分け方もある」

「じゃあ、一目惚れは『恋』で、それ以外は『愛』ってこと?」

「そう言われると、違う気もしてくるな……」


 やっぱり話に入れない……。二人ともよくそんなにポンポンと言葉が出てくるなぁ。

 僕は自分から話に入るのは一生無理なのかもしれない。


「……俺たちだけじゃどうにも結論は出そうにないな。……そうだ! なぁ、二人とも、今度の休みって暇か?」


 二星君が何かを提案しようとしている。


「私は……、日曜日なら一日大丈夫だと思う」

「了解。和泉は?」

「僕はいつでも暇だけど……」

「よし。じゃあ、今度の日曜日、俺たち三人で遊びに行かないか?」


 遊びに? それは果たしてこの授業と関係あるのか? それに、僕が誰かとお出かけとか……。絶対無理な気がするんですけど!


「遊びにって……。何しに行くの?」

「『恋と愛』に関係ありそうなスポットを回ったりしようと思う。取材みたいなもんだな」


 なんだそれ……。まるでリア充じゃないか!


「何それ! 面白そう! 行こうよ行こうよ! ね、和泉君!」


 すごく嬉しそうな顔をして菊池さんがはしゃいでいる。可愛い。


「う、うん。僕もいいと思ふ」


 噛んだ……。


「よし、決まりだな。じゃあ、集合場所とかその他諸々、詳しいことは後で言うから、ライン交換しないか?」


 にゃにぃいいいいいいいいい!? ラインの交換だと!? 家族と公式アカウントぐらいしかない僕のラインに、二星くんと菊池さんがぁああああああ!?


「うん。いいよ~! 和泉君もほら、スマホ持ってるでしょ? 交換しよ?」


 二星君と菊池さんは既にラインを交換していた。僕もラインを交換するべく、スマホを探す。


「あ……」


 そこで、気づいた。


「スマホ忘れた……」


 どうして今日に限って! いつもはカバンの中に入ってるのに!


「マジか……。しょうがない。明日持ってきてくれ。その時交換しよう」

「うん。ごめん、二人とも……」


 明日は絶対にスマホを持ってこようと、僕は心に決めた。

 あれ? でも、明日どうやって二星君や菊池さんに話しかければいいんだ!?

 そして一つ、悩みが増えた。

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