サイド非リア充:再会

 それは、いつだったかの、僕がまだ菊池きくちさんに惚れる前の体育の授業。


「よぉーし。お前ら、好きなやつと二人組のペア組んでいいぞ!」


 先生が生徒たちにそう伝えると、みんなはすぐさま仲の良い友達とペアを組み始めた。

 僕は何もできずに、ただおろおろと周りを見渡しているだけ。

 そして、どうやら奇数だったらしい体育の授業の人数のせいで、僕は一人だけペアを組めずに余ってしまった。


「ん? 和泉いずみが一人か? おかしいな……。この授業は偶数のはず……」


 すると、クラスで目立っている一人の男子が先生に、


「今日は二星にぼし休みですよー。先生ー!」


 そう伝えた。どうやら、一人だけ休みがいたらしい。

 体育の授業は三クラス合同で行われるので、先生も生徒の人数の把握が大変そうだ。


「あぁ、そうか。そうだったな……。すまんすまん! じゃあ、誰か和泉をグループに入れてやってくれないか?」


 バカヤロウ先生! そういうふうにされるのが一番惨めで恥ずかしいんだよ! それに、仮にそれでどこかのグループに入れたとしても、馴染めるわけないだろうが!


「あの、もし良かったら……」


 振り向くと、誰かが挙手をしていた。


「おぉ。菊池。気持ちはありがたいが、和泉も女子と一緒じゃあやりづらいだろうしなぁ。……男子で誰かいないか?」


 先生、それはいい判断だ。ただでさえぼっちな僕が、女子のグループに放り込まれたら死んでしまう。


「……誰か、いないか?」


 先生も困った表情を浮かべている。もうやめてくれ! 死にたい。恥ずかしい。


「……しょうがねぇな! 俺たちと組もうぜ!」


 そこで、さすがに見かねたのか、先ほどのクラスで目立っている男子が、グループに入れてくれた。


 ◇◇◇


 時は現在。国語の授業中。

 あの時の地獄を、僕はまた味わうことになるのか……。

 周りの人たちが次々とグループを作り上げていく中、僕はあの時と同じ、ただおろおろとしているだけだった。

 あの時助けてくれた男子の方をチラリと見ると、その男子は既に仲良しな友達とペアを組んでいた。

 そうだよな。そりゃそうだよな。それが普通だ。わかってる。僕だって友達がいたらそうする。

 彼は何も悪くない。悪いのは、友達もまともに作れない僕の方だ。

 僕は俯いた。


 その時――、


「和泉君」


 どこかから、僕を呼ぶ声がした。

 違う。これは幻聴だ。そんな都合よく、誰かが助けてくれるわけがない。

 人生はそんなにヌルゲーじゃない。もっとハードなんだ。

 ラノベやアニメにありがちな展開なんて起きるわけがない。

 何一つ努力もせずに、自分から行動の一つも起こさない僕に、救いはない。


「ねぇ、和泉君」


 そんなはずない! そんなはずないんだ!!

 そう思っていたのに……。

 その人は、僕の肩を優しく、トントンと叩いてきて、


「もしかして、寝てる?」


 顔を上げることはできなかった。

 ただ僕は、俯きながら、首を横に振った。


「なら、こっち向いてよ」


 その人は強引に僕の顔を持ち上げて、無理やり僕と目を合わせる。

 そこにいたのは――、


 学校のマドンナ、菊池きくち優子ゆうこさんだった。


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