サイドリア充:美人教師は意味深な言葉を並び立てる
風呂に入り、晩飯も食い終わった俺は、一度自分の部屋に戻った。
「宿題、やらなきゃな」
そう呟きながら、俺はスマホの画面を操作する。
今朝、
そのまま俺は、新井先生に電話をかける。
新井先生に電話をかけることが、俺の今日の宿題だ。
『もしもし』
「もしもし、新井先生ですか?」
『あぁ、君か。ちゃんとかけてきたんだな』
「一応、宿題と言われてしまったので」
『それは感心だな。それと、電話では
「は? 咲……?」
『私の名前だ』
「え、なんでですか?」
『今の私は、完全なプライベートだ。先生ではないからな』
「俺にとっては先生なんですが」
『君の意見は聞いていないよ』
「理不尽だ!」
電話口に、何やら音が聞こえる。なんの音かはわからない。
「あの、せんせ……咲さん。一体何をしているんですか?」
『ん? 何って、風呂に入っているんだ』
「な!?」
そう言われ、思わず先生の裸を想像してしまった。
『今、想像しただろ?』
「してないですよッ!」
『そうか。因みに私は、いつも君のことを考えてるぞ』
「……嘘ですよね?」
『……嘘だが、可愛くないな、君は。もう少し動揺してみたらどうなんだ?』
あいにく、先生のように俺のことをからかってくる人が、何名かいるもんで、ある程度は慣れている。
「それで、もう電話はかけたわけですし、宿題は完了ですよね? 切っていいですか?」
『待ちたまえ。もう少し話そうではないか』
「………………はぁ」
俺は露骨なため息を吐いた。
『面倒そうにしながらも、電話を切らずに付き合ってくれる辺り、君は優しいな』
「先生……咲さん相手なら、きっと誰でもそうするんじゃないですかね?」
『そうでもないさ。それは君の優しさだよ。大事にしなさい』
優しさ……か。本当に優しい人間なら、きっとあいつを救うことができたんじゃないかと思う。
『何か、悩んでいるのか?』
「え? どうしてですか?」
『なんとなく、だよ。深い意味はないさ。でも、これが案外当たっていたりするんだ』
悩み。これを悩みと呼んでいいのか、俺にはわからない。
『話せば楽になることもあるさ。あまり一人で抱え込むものじゃないよ』
「別に、悩みなんてないですよ」
『では、後悔か?』
「………………」
全く、この人の勘は恐ろしい。もっと鈍感でいてくれよ、と思う。
『まぁ、無理には聞かないさ』
その言葉に、ありがとうと言えばいいのか、それとも、もっと別の言葉を言うべきなのか、整理しきれていない俺の心では、わからない。
『そうだ。君には先に教えておこう』
「なんですか?」
『明日の国語の授業で、あるテーマを用いて、グループ学習をしてもらおうと思う』
「はい、それで?」
『そこで、上手くやりなさい』
この人の言っている意味が、よくわからなかった。
それはきっと、俺がまだ子供ということなんだろう。
でも……、
「つまらない大人になるくらいなら、子供のままでいい」
自然と、声に出ていた。
『ほう』
興味深そうに、彼女はそう漏らした。
『その心意気は素晴らしいが、でもきっと、君もいつか、大人になってしまうよ』
「でも、せめて……」
『そうだな。せめて、その日が来るまでは、子供のままでいればいいさ。だから』
先生は、そこで大きく息を吸い、
『今は、思う存分、私に甘えればいいさ』
この人は、俺を受け入れようとしているのか?
ただの一生徒に過ぎない俺を、無条件で、受け入れようとしているのか?
『放課後の大人な授業も、頼まれればいつだって出向こうじゃないか』
「……はい?」
『放課後、誰もいない教室で、二人は禁断の愛を……』
「今までの真面目なムードどこいった!?」
『辛気臭いのは嫌いでねぇ。どうだ、私もまだ二十代だ。高校生でもいけると思うぞ』
「何がですか!?」
『いつでもおいしくいただいてくれ』
「いただきませんよ!」
『授業中、さりげないセクハラも、君になら許そう』
「しませんよ!」
『そう言うが、
気づかれてた! でもそれは男の性だ! 仕方ないだろう!! 仕方ないよね?
「断じて見てないです!」
『隠さなくてもわかっている。ちなみに今日、私はノーブラだったぞ』
な、なにぃいいいいいいいい!? と、いうことは、今朝話した時、先生は、先生はぁああああああ……!
『想像したな? 想像したな? 今朝のことを思い出していたな?』
「してない! 絶対にしてないです!」
『ちなみに、これは本当だ!』
「やっぱり嘘かよ!? もう誰も信じない! ………………え?」
そこでしばしの沈黙の後、先生は、大人の魅力を感じさせる、吐息多めの声で
『今日一日、私は本当にノーブラだった』
「ぶほぉっ……!」
俺は鼻血が止まらなくなってしまった。
『ふふ。君はからかいがいがあるな。その反応は中々面白いぞ』
先生が何か言っているが、俺は鼻血を止めるのに必死でよく聞いていない。
『では、私も満足したし、今日はこの辺でお開きとしよう。また明日な。おやすみ』
「お゛や゛ずみ゛な゛ざい゛」
そして、電話が切れた。
それとほぼ同時に、俺のスマホにメールが届いた。
「誰だ? こんな時に」
メールの主は、
〈件名:愛しの先輩♡〉
〈本文:いつエッチしますか? 私はいつでもいいですよ♪〉
後輩からの唐突過ぎるメール内容に、俺は顔をしかめる。
本文を少し下にスクロールすると、添付画像が現れる。
その画像は、近所にあるラブホテルの外装であった。
〈件名:痴女〉
〈本文:もう出会い系にでも行っちまえ〉
俺は淡々と本文を入力し、返信した。
「ふぅ……」
気づけば、鼻血は止まっていた。
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