サイドリア充:ハーレム系主人公は過去にトラウマがある

 放課後。いつものように、幼なじみの新島にいじま愛由あゆと一緒に下校し、家に着いた。


「ただいまー」

「あら、おかえりたく


 玄関のスライド式ドアをガラガラと横に開けると、姉である凛音りのんが出迎えてくれた。


「先にご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し♡」

「風呂で」


 凛音が無駄に色っぽく誘惑してくるけど、俺はそれを無視する。


「もう、釣れないなぁ」

「……それより、結愛ゆあは? まだ帰ってないの?」

「いえ、自分の部屋にいると思うわよ?」

「そうか」

「なになに? 何か用事?」

「いや、ちょっと気になっただけ」


 そう言って、俺は自分の部屋がある二階へそそくさと上がり、部屋に荷物を置いた後、結愛の部屋へ向かう。

 ガチャリとドアを開けると、


「きゃあぁあああああああ!!」


 下着姿の妹がいた。やべっ、ノックするの忘れてた。


「お兄ちゃんのエッチ! 変態! マジキモい死ね!」


 結愛が枕を思いっきり投げてくる。俺はそれを回避できず、顔面に枕が激突する。


「いってぇ……」

「早く出てって!」

「わ、わかったわかった! 俺先に風呂入るからな!」

「好きにすればいいでしょ! このバカ兄!!」


 結愛の罵倒を背中に、俺は部屋を去る。

 部屋を出た後、つくづくと思う。

 ──結愛はもう、大丈夫だ。

 毎日のように、そんなことを思う。

 かつて、小学校でいじめられていた時の結愛には、今のような元気はなかった。

 中学生になった今では、人間関係も良好で、毎日が楽しそうだ。

 その時、同級生のある一人が、俺の頭を過ぎる。


 ──和泉いずみ典之のりゆき


 君は、毎日が楽しいかい?


 ◇◇◇


 俺には過去に一つ後悔がある。

 俺はその後悔を、一生背負って生きていくと決めた。

 俺は小学生の頃、いじめられていた同級生を助けたことがある。

 俺に助けられたそいつはそれ以来、毎日のように俺にくっついてくるようになった。

 俺はそのことを何も気にしていなかったけど、周りはそうじゃなかった。


「択、あの子と遊ぶの、やめときなさいよ」


 幼なじみの愛由に、当時そう警告されたことを覚えている。


「今はまだ大丈夫だけど、この状況が続くと、次は択が狙われるわよ?」

「その時は、俺がいじめっ子をぶっ飛ばしてやるよ!」


 当時の俺はそんなかっこいいセリフを愛由に吐いていたけど、現実はそう甘くない。

 その一週間後、俺はいじめっ子達からリンチを受けた。


「こんなことされたくないなら、もうあいつとは仲良くするな」


 いじめっ子のその脅しに俺はあっさり折れた。

 それから、俺はいじめられていたそいつを避けるようになり、標的はまたそいつに戻った。

 そいつはそれからすぐに不登校になり、小学校の卒業式には来なかった。

 中学生になっても、そいつは不登校のままで、いつの間にかそいつは引っ越していた。

 それ以来、俺はそいつがどうなったのかを知らない。

 何より、名前すら覚えていない。


 ◇◇◇


 和泉典之、お前はかつてののようにいじめられているわけじゃない。

 でも、いつもつまらなそうな顔してるお前を見ていると、自然とあの時のことを思い出すんだ。

 被るんだよ、お前は──。


 だから、他の誰でもない、俺自身のために。

 和泉典之、そんな顔をするのはやめろ。

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