サイドリア充:ヒロインが多すぎる問題

 その日の昼休み。俺は図書室に足を運んでいた。

 うちの学校の図書室は人が少なく、テスト期間でもあまり人が集まることはない。

 図書室があまり目立たない旧校舎の端に備えられているのと、本校舎にある学習室の方が、空調も効いていて勉強の効率がいいことが主な原因だろう。

 後は、単純に本を読む生徒が少ない、もしくは読みたい本は自分で買う派の生徒が多いのかもしれない。

 そんな中、俺は割と頻繁に図書室を利用している。

 それは、俺が本(主にラノベだが)をよく読むというのも理由の一つだが、もう一つの理由がある。

 ここは、どうしてかとても居心地がいい。

 図書委員、それから司書の先生、数人の生徒しかいないこの静かな空間にいると、騒がしいいつもの日常とは少し違う、神聖な何かに守られているような感覚に陥るのだ。

 それに——、


「こんにちは、二星にぼし君」

「こんにちは、御手洗みたらいさん」


 彼女――御手洗みたらい詩織しおり――と話しをすることが、俺の心を安らげる。

 錆びついて、腐ってしまった心が、浄化されていくような、そんな不思議な何かが、彼女にはある。


「今日は、何を借りに?」

「少しファンタジーな世界観に浸りたくてね」


 彼女の髪の毛も、まるで妖精が魔法でそうさせたかのように、透き通る白で美しい。


「御手洗さんは?」

「私は、なんだか今日は、二星君に会えるような気がして……」


 頬を赤く染め、少し俯き加減でそう言う彼女を見て、俺もなんだか照れてしまった。


「実は、俺も、そんな気がしてた……」

「私たち、考えることが似てますね」

「そうかもね」


 御手洗さんは、優しく微笑むと、また、本の世界へと戻って行った。

 彼女と会話は、これでおしまい。

 もう少し話していたいとは思うけど、彼女の邪魔をするわけにはいかない。

 俺はお目当ての本を手早く探し当て、図書委員のいるカウンターに向かう。


「あ」

「あ」


 そこで、またまた見知った顔と出会う。例に漏れず、相手は女の子だ。


「お前、図書委員だったのか。あまね」

「そうだよ、悪いかよ」

「いや、悪くはないけど、意外だなぁと」


 小学生のような可愛らしい姿をした彼女、小岩井こいわいあまねを見て、俺はそう思った。


「どっちかって言うと、本とかより絵本とか読んでそう」

「あぁ!? それは私がチビだって貶してるのか!?」

「しー。図書室ではお静かに」

「ぐぬぬ……。ムカつく」

「まあ、そう怒るなよあまね」


 俺はポンポンと彼女の頭を軽く撫でてやる。


「子供扱いするな!」

「しー」

「うぜぇ!!」


 そんなやり取りをしながら、あまねは俺の本の貸し出し手続きを終える。


「じゃあ、また来る」

「もう来なくていいぞ」


 相変わらず可愛くないやつだなぁと思いながら、俺は図書室を後にした。

 帰り際、ふと窓から校舎の外を見た。

 そこに、彼女はいた。


 この学校のマドンナ的存在、菊池きくち優子ゆうこだ。


 現在、俺とは同じクラスだが、俺は彼女と会話をしたことはない。

 彼女は、俺の好みのど真ん中だった。

 出るとこは出ていて、しかし出過ぎているという印象はなく、しっかりと引き締まった身体。ヘアスタイルは黒髪のショートボブで、彼女の普段の行動や態度も相まって、どことなく清楚な雰囲気を感じさせる。

 男子とはあまり話しているところを見かけないが、女子の友達はそれなりにいる印象。愛由あゆやあまね、御手洗さんなんかともたまに話している姿を見かける。

 成績はいつも上位で、運動は少し苦手といった印象を受けるが、一生懸命スポーツに打ち込んでいる姿は見ていて愛おしい。

 そんな彼女の姿に惹かれる男子は言うまでもなく大勢いるが、どこか男子は近寄りがたく、あまりナンパ等をされている姿は見られない。

 それでもやはり告白なんかはされるらしいが、成功した男子はいまだにいない。

 彼女は友達がそれなりにいるにも関わらず、普段は一人行動をしていることが多く、その姿がさらに、彼女の高嶺の花オーラを引き立てる。

 今は、友達と一緒に食事中のようだ。

 時おり見せる笑顔がなんとも可愛らしい。

 と、こんなにもくどく彼女について書き並べてしまうほど、彼女は俺の好みだった。


 愛由、美佳子みかこ先輩、るみ、御手洗さん。彼女らもこの学校の中ではかなり上位に食い込むほどの美貌の持ち主であることに変わりはないが、菊池優子は群を抜いて美人だった。

 そんな彼女が、俺の物語のヒロインになってくれたらなんて魅力的だろう。

 だから、俺は――、


 菊池優子、君を絶対に落として見せる!

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