サイドリア充:ハーレム系主人公は美人教師に特別扱いされている

 急いで教室に向かっていると、また見知った女性を見かけた。

 さすがにこれ以上他人に構っていたらガチで遅刻するので、俺は素通りしようとするが……、


「おう、二星にぼしじゃないか。今日は遅いな」


 案の定声かけられちゃいました。ここは手短に切り上げなくては。


新井あらい先生! おはようございます」

「おはよう。今日はどうした、寝坊か?」


 声をかけてきたのは俺のクラスの担任で国語教師の、新井先生だ。下の名前は知らん。

 つーか、こんなところで話してたらあんたも朝礼遅れるぞ。のんびりしてていいのか?


「まあ、そんなところです。では」

「待ちたまえ、少し話そうではないか」


 なんでだよ! こっちの状況くらい察してくれよ!


「はぁ……。何を話すんですか?」

「どうかね? 最近の調子は」

「それ、今じゃなきゃダメすか?」

「そう焦るな。寄り道も時には必要だよ」

「寄り道しまくった結果が今の状況なわけですが……」

「これが最後の寄り道だ。安心したまえ」

「安心できねぇ……」


 俺がぼやくと、新井先生は腕を組む。なんでわざわざ胸を強調するような腕の組み方をするんだ……。目のやり場に困るだろ。


「君は随分と女の子に好かれているようだねぇ……。まるでラノベ主人公だな。良いご身分だ」

「別に望んでこうなってるわけじゃないですよ。下手に美少女の友達が多いと、男子に疎まれて大変ですし」

「ほう。君はモテていることを自覚しているタイプか」

「モテてはないです。女子、それも美人の友達が多少いるってだけです」

「君は同姓の友達を作った方がいいな」

「男友達はいますよ」

「親友と呼べる存在はいるかね?」

「そんなの、いる人の方が少ないのでは?」

「冷めてるねぇ。君は」


 冷めてる? 俺はただ事実を述べただけだ。

 実際、親友と呼べる存在がいる高校生は、そう多くはないのではないだろうか。


「いざという時、同姓にしか話せないような悩みができたら、同性の相談相手も必要だよ。そんな人が君にはいるか?」

「そんなの……」


 多分、いない。男友達はいるが、俺は多分、そいつらに人生に関わる重大な相談はしない。そもそもそんな相手、欲しいとも思わない。


「まあ、君にそういう相手が出来るまでは、私が君の相談に乗ろう。いつでも私を頼りなさい」


 あなたは一応女性なんですけど、そこは大丈夫なんですかね?


「色々な生徒に相談されて、先生も大変ですね」

「そうでもないさ。好きでやってるからな。特に私の場合は。二星、スマホは持ってるな?」

「ええ、一応」

「貸してみなさい」

「え? はい」


 言われるままに、俺はスマホを新井先生に差し出す。すると先生は、なにやら自分のスマホをいじりだし、


「これでよし」

「何をしたんですか?」

「君の連絡先を登録しておいた。ちなみにこれが私の連絡先だ。登録しておきなさい」


 淡々と言う彼女は、俺に連絡先が書かれた紙きれを渡してくる。


「え? どうやって俺の連絡先を?」

「ま、ちょちょいのちょいとな」

「こっわ!」


 るみに続き、ここにも犯罪者予備軍が!


「さっそく、今日の夜電話してきなさい。これは宿題だ」

「え? でも話すことなんてないですよ?」

「それはその時考えればいいさ」

「用もないのに電話とか、先生は俺の彼女か何かですか?」

「それも悪くないな」

「……冗談ですよね?」

「冗談に決まっているだろ。自惚れるな」

「はい。すいません」


 俺が軽く頭を下げたところで、先生は一度腕時計を確認する。


「ふむ。そろそろだな。君は教室に向かいたまえ。良い時間潰しになった」

「こっちはいい迷惑ですよ……」


 そして俺は、足早にその場を去り、教室に向かう。

 そろそろ遅く咲き始めた桜も散り、ぽかぽかと心地よい暖かさに包まれる季節。

 高校二年、二星にぼし拓哉たくやの日常は、こんな感じで、色々な可能性を感じさせながら舵を切った。

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