サイドリア充:後輩女子はハーレム系主人公を照れさせる

「はぁ……はぁ……。なんとか間に合ったわね……」


 息切れしながら、愛由あゆがそう安堵する。

 歩いて登校していると遅刻しそうだったので、途中から全力疾走だった。男子の俺はともかく、女子の二人には体力的にきつかったことだろう。


「それじゃあたっくん、また後でね」

「はい、お疲れ様です。先輩」


 俺と美佳子みかこ先輩は軽く会釈を交わし、先輩はそのまま校舎に小走りで向かって行った。

 俺は息切れして辛そうな愛由に、お茶の入ったペットボトルを渡す。


「はぁ、はぁ。ありがとう、たく


 愛由はペットボトルの蓋を開け、ごくごくと音を鳴らしながら豪快にお茶を飲む。

 滴る汗と、喉を通して水分が流れていることがわかるその首元を見ていると、普段は絶対に感じることのない色気を、愛由から感じ取ってしまう。

 その姿を見て、俺は息を呑む。


「ふぅ……。おいしい。ごめん、結構飲んじゃった」


 額の汗を拭いながら、愛由は俺にペットボトルを差し出す。


「……あ、あぁ。気にするな」


 愛由から放たれる普段とは少し違う雰囲気に動揺して、少し反応が遅れてしまった。


「ん? どうかした?」


 愛由は可愛らしく首を傾げて、俺にそう問うてくる。


「いや、なんでもない」


 俺がそう言うと、愛由も走り疲れているせいか、それ以上の言及はしてこなかった。

 彼女に不覚にもドキリとしてしまったことは、俺だけの秘密だ。


 校舎に入り、教室へ向かおうとする愛由に、


「朝礼まで後五分くらいあるし、ちょっとトイレに行ってくる。先に教室へ行っててくれ」

「わかった。遅れないようにね」

「あぁ」


 愛由を見送り、俺は近くのトイレへと向かい、手早く用を済ませる。

 俺が手を洗い、教室へ向かおうとすると、


「せ~んぱいっ!」


 背後から突然、誰かに目隠しをされる。

 目隠しをしてきたそいつは、俺の耳元に口を寄せ、


「だ~れだ?」


 無駄に吐息多めで、そんな質問を投げかけてくる。


「……柊木ひいらぎるみ」


 俺はその質問に、その声の主のフルネームを答える。この少し高めで、男心をくすぐる声は、彼女に違いなかった。


「正解です。よくできました。これはご褒美です」


 不意に、俺の頬に彼女は軽い口づけをする。突然のことだったので、俺は回避できなかった。幸い、今の様子は誰にも見られていないようだ。

 その後るみは目隠しを解き、俺の目の前に立ちふさがる。


「今日は遅かったですね、先輩。待ちくたびれちゃいました」

「なんでどいつもこいつも待ち伏せしてるんだ……」


 俺は軽く頭を抱えた。この学校に、犯罪者予備軍が二人もいるなんて……。


「だって、こうでもしないと、先輩と二人きりになれないじゃないですか」

「二人きりになって、どうしたいんだ?」


 時間を気にしながらも、俺は訊く。


「そりゃあもちろん、ラブラブしたいに決まってるじゃないですか~」


 普通なら、こんなことを女子から言われた日には、世の男子は簡単に落ちてしまうんだろう。実際俺も、るみ以外の女子にこんなことを言われれば、きっと簡単に惚れこんでしまう。

 だが、こいつに限っては、そんなことはありえない。

 何故ならるみは、多くの男子に同じようなことを言いまくっているからである。しかも、今の俺と似たような状況で。

 そのことは、既にこの高校の多くの男子が知っており、みんな適当に流しているが、それでもまだ騙されてしまう人はいる。


「いい加減そういうの、やめにしとけよ」


 俺は冷たく言い放つ。彼女に踏み込んではいけない。踏み込めば、すぐに騙されてしまう。


「先輩には、マジですよ!」

「だから、そういうのいいって」

「本気です! マジです! 先輩となら、どんなエッチなこともできるし、どんなことをされてもいいです!」

「なら、それ相応の誠意を見せろ。他の男子をもう騙さないと誓え」


 どうせ、そんなことは無理だろう。

 男を騙すことは、きっと彼女の生きがいだから。


「はい、誓います」


 そうあっさりと誓ってしまった彼女に、俺は驚きを隠せない。


「マジ?」

「マジです。大マジです。私、先輩のためならなんでもします!」


 そこで、彼女はまたもや俺の耳元に口を寄せ、


「大好きです。拓哉たくや先輩。今度エッチしましょう」


 とんでもない爆弾発言を残して、彼女は颯爽と去って行ってしまった。

 彼女は顔を赤くした俺を見て、満足したようだ。

 いつまでも、柊木るみの本心はわからない。

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